「金融版アマゾン」不発の仲介業、金融庁が制度見直しへ
はじめに
銀行・証券・保険をひとつのライセンスで横断的に仲介できる「金融サービス仲介業」。2021年11月の制度開始時には「金融版アマゾン」と呼ばれ、100社規模の登録が見込まれていました。しかし現実は厳しく、登録業者は直近で24社にとどまっています。さらに保険を取り扱う事業者はわずか2社という状況です。
資産形成への関心が高まるなか、金融商品をワンストップで提供するプラットフォームへの期待は大きいものの、制度の設計上の課題が普及を阻んでいます。制度の生みの親である金融庁が見直しに乗り出す背景と、今後の展望について解説します。
金融サービス仲介業とは何か
制度の基本的な仕組み
金融サービス仲介業は、2020年6月の法改正(金融商品販売法の改正)によって創設され、2021年11月に施行された制度です。従来の金融仲介では、証券サービスの仲介には証券会社への所属、銀行サービスには銀行への所属、保険サービスには保険会社への所属がそれぞれ必要でした。
新制度では、この「所属制」を撤廃し、1つの登録で預金・証券・保険・貸金のすべての分野のサービスを仲介できるようになりました。特定の金融機関に所属する必要がないため、利用者の立場に立った中立的なサービス提供が可能になるとされています。
期待された「金融版アマゾン」構想
制度の狙いは、消費者がひとつのプラットフォーム上で複数の金融機関の商品を比較・選択できる環境を作ることでした。ネット通販で様々なメーカーの商品を比較購入できるように、金融商品でも同様のワンストップサービスを実現しようという構想です。
フィンテック企業やIT大手の参入により、使いやすいアプリやウェブサービスを通じて金融サービスが身近になることが期待されていました。新NISAの開始などで資産形成への関心が高まる中、この構想の実現は消費者にとっても大きなメリットがあるはずでした。
なぜ登録が進まないのか
取り扱い可能な商品の制限
最大の障壁は、仲介業者が取り扱える商品の範囲が大幅に制限されている点です。制度設計上、「商品設計が複雑でないもの」「日常生活に定着しているもの」に限定されており、以下のような商品は取り扱いできません。
- 保険金が1,000万円を超える生命保険
- 個人向けカードローン
- デリバティブ(金融派生商品)
- 火災保険
こうした制限のため、消費者ニーズの高い商品を十分にカバーできず、事業としての魅力が低下しています。特に保険分野では取り扱える商品が少額の傷害保険や旅行保険などに限られ、2社しか参入していない大きな要因となっています。
事業者側の負担の重さ
所属制を廃止した代わりに、金融サービス仲介業者には独自の責任と負担が課されています。顧客に損害を与えた場合の賠償責任は仲介業者が直接負うことになっており、保証金の供託も求められます。
また、登録にあたっては銀行・証券・保険・貸金のそれぞれの業務について個別の体制整備が必要です。実質的に4つの業務ごとの要件をクリアしなければならず、特に社内規定の整備が大きな負担となっています。シングルライセンスとはいえ、実務面では複数の業務体制を構築する必要があるのです。
ITインフラの未整備
金融サービス仲介業がデジタルプラットフォームとして機能するためには、金融機関側のAPI公開が不可欠です。しかし現状では、多くの保険会社がAPIを公開しておらず、基幹システムはメインフレームベースのレガシーシステムのままです。
クラウド化は徐々に進んでいるものの、仲介業者がシステム連携を実現するためのカスタマイズ開発コストは大きく、新規参入の障壁となっています。銀行や証券会社に比べ、保険業界のデジタル対応の遅れが、保険分野での仲介業者が極端に少ない背景のひとつです。
金融庁の見直しの方向性
制度改善の必要性
金融庁が制度見直しに乗り出す背景には、当初の政策目的が達成されていないという明確な問題意識があります。新NISAの開始で資産形成への国民の関心が高まる一方、金融商品を中立的に比較・選択できるプラットフォームが十分に育っていない現状は、政策的にも見過ごせません。
金融庁は、特定の金融機関の利害に左右されず、真に顧客の立場に立ったサービスを提供するビジネスモデルの実現に向けて、この業態の活用余地は大きいと考えています。
想定される改善策
具体的な見直し内容はまだ明らかにされていませんが、以下のような方向性が考えられます。
第一に、取り扱い可能な商品の範囲拡大です。現行の厳しい制限を緩和し、消費者ニーズの高い商品を仲介できるようにすることが最も効果的な施策でしょう。ただし、消費者保護とのバランスをどう取るかが課題となります。
第二に、登録要件の簡素化です。現行の複雑な体制整備要件を見直し、特にフィンテック企業やスタートアップが参入しやすい環境を整えることが求められています。
第三に、金融機関側のAPI公開の促進です。仲介業者と金融機関のシステム連携をスムーズにするための環境整備も重要な論点です。
注意点・展望
制度の見直しにあたっては、規制緩和と消費者保護のバランスが最大の論点です。取り扱い商品を拡大すれば利便性は向上しますが、仲介業者が複雑な金融商品を適切に説明できる体制の確保が求められます。所属制を採用しないこの制度では、金融機関による監督機能が働かないため、消費者保護の仕組みをどう担保するかは慎重な検討が必要です。
また、既存の金融機関や保険代理店との競合関係も課題です。既存業界からの反発を調整しつつ、新しいビジネスモデルの成長を促す政策が求められます。
制度開始から約4年が経過し、フィンテックの技術も進化しています。金融庁の見直しが実効性のある改善につながれば、「金融版アマゾン」の構想が改めて現実味を帯びる可能性があります。
まとめ
金融サービス仲介業は、消費者が金融商品をワンストップで比較・選択できる画期的な制度として創設されました。しかし、取り扱い商品の制限や事業者側の負担の重さ、ITインフラの未整備などの課題により、登録業者は24社にとどまっています。
金融庁が見直しに乗り出すことで、制度の普及に向けた転機が訪れる可能性があります。資産形成を促進する国の方針と合わせて、今後の制度改善の行方に注目です。消費者としては、制度の動向を把握しつつ、自身の資産形成に最適なサービスの選択肢が広がることを期待したいところです。
参考資料:
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