金融庁が銀行グループ内の与信規制を緩和へ、地銀の資金供給強化
はじめに
金融庁が、同一グループ傘下の銀行間における資金融通の規制を緩和する方針を打ち出しました。現行の「大口信用供与等規制」では、グループ内の銀行に対しても融資額を自己資本の25%以下に抑えることが求められています。この規制をグループ内の銀行間では例外的に超過できるようにすることで、預金を多く抱える銀行から資金が不足する銀行へ柔軟に資金を回せるようにする狙いがあります。
本記事では、この規制緩和の背景にある地方銀行の構造的課題、大口信用供与規制の仕組み、そして今回の見直しが地域経済にもたらす影響について詳しく解説します。
大口信用供与規制とは何か
規制の基本的な仕組み
大口信用供与等規制は、銀行が特定の貸出先に与信を集中させることを防ぐための銀行法上の規制です。具体的には、銀行が一つの企業グループに対して行う融資や保証などの信用供与の総額を、自己資本の一定割合以下に制限しています。
企業単体に対しては自己資本の25%以下、企業グループに対しては40%以下という上限が設けられています。この規制は、特定の借り手への過度な集中リスクを防ぎ、銀行経営の健全性を維持するために不可欠な仕組みです。
グループ内取引への適用の経緯
国際的な基準であるバーゼル規制のルールテキストでは、銀行グループ内取引は大口エクスポージャー規制の対象外とされています。しかし日本では、2014年当時にグループの範囲について国際的な議論が続いていたことから、慎重な立場をとり、グループ内取引にも規制を適用してきました。
2019年の改正で銀行グループ内取引の一部は規制対象から除外されましたが、持株会社傘下の「兄弟銀行」間の取引については依然として規制が適用されていました。今回の緩和は、この残された部分に踏み込むものです。
規制緩和の背景と地域金融力強化プラン
地方銀行が直面する構造的課題
日本の地方銀行は、人口減少と少子高齢化による地方経済の縮小という構造的な課題に直面しています。金融庁が2025年12月に策定した「地域金融力強化プラン」では、地域金融機関の経営状況が「二極化」の兆候を示していると指摘されています。
特に信用金庫や信用組合では、コア業務純益が下げ止まる一方で預金量が減少する機関が増加傾向にあります。2024年に日本銀行がマイナス金利政策を解除したことで多くの地銀が過去最高益を更新していますが、この収益回復期こそが将来を見据えた改革を実行する「最後の好機」と捉えられています。
地銀再編の加速と預金偏在の問題
近年、地方銀行の再編が加速しています。2025年には愛知銀行と中京銀行が合併して「あいち銀行」に、青森銀行とみちのく銀行が合併して「青森みちのく銀行」が発足しました。2026年1月には八十二銀行と長野銀行の合併が実現し、福井銀行と福邦銀行も2026年5月に合併を予定しています。
こうした再編により、同一グループ内に複数の銀行を抱えるケースが増えています。しかし、グループ内の銀行間で預金量に偏りがある場合、現行の与信規制が資金の効率的な配分を妨げる要因となっていました。預金が豊富な銀行から資金が不足する銀行に融通したくても、25%の上限があるため十分な額を回せないという課題があったのです。
地域金融力強化プランの全体像
金融庁が2025年12月19日に発表した「地域金融力強化プラン」は、地方銀行の経営基盤強化と地域経済への貢献強化を二本柱としています。兄弟銀行間の大口信用供与規制の緩和は、このプランの重要な施策の一つとして盛り込まれました。全国地方銀行協会が金融審議会の作業部会で要望していた内容が反映された形です。
プランにはこのほか、合併を選択した金融機関への交付金上限を30億円から50億円に引き上げること、業務改善命令を受けた金融機関との合併には最大75億円を交付すること、信金や信組の勘定系共同システム更新費用として最大150億円を交付する制度の新設なども含まれています。
規制緩和がもたらす影響
地域への資金供給の活性化
今回の規制緩和により、グループ内での資金配分の柔軟性が大幅に向上します。預金を多く集めている銀行から、融資需要はあるものの預金が不足している銀行へ資金を効率的に回すことが可能になります。
これにより、地方の中小企業や個人への融資がより円滑に行われることが期待されます。特に、再編によって広域化した銀行グループにとっては、地域ごとの資金需給のミスマッチを解消する有効な手段となります。
地銀再編の促進効果
グループ内での資金融通が容易になることは、地銀再編のメリットをさらに高める効果があります。これまでは合併や経営統合をしても、グループ内の資金移動に規制上の制約があったため、統合効果を十分に発揮できない面がありました。
規制緩和により、持株会社方式でグループを形成しつつ、各地域の銀行ブランドを維持するという「緩やかな統合」の選択肢がより実効性のあるものになります。静岡銀行と八十二銀行、山梨中央銀行の包括業務提携や、第四北越フィナンシャルグループと群馬銀行の経営統合といった動きにも追い風となるでしょう。
注意点・展望
健全性確保とのバランス
大口信用供与規制は本来、特定先への与信集中リスクを防ぐための重要な規制です。グループ内であっても、過度な資金集中は経営リスクを高める可能性があります。金融庁は規制緩和にあたり、グループ全体のリスク管理体制の整備を銀行側に求めるものと見られます。
今後のスケジュールと実務への影響
金融庁は年内にも監督指針を改正する方向で検討を進めています。改正後は、各銀行グループが新たなルールに基づいてグループ内の資金配分戦略を見直すことになります。
また、金融庁は大口信用供与規制について、M&A向けの一時的な上限超過を認める緩和も並行して検討しています。銀行による大規模M&A支援の強化と合わせ、日本の金融システム全体の競争力向上を図る方針です。
地方経済への波及効果
規制緩和の効果が地方経済の活性化につながるかどうかは、銀行が増えた資金配分の自由度を実際にどう活用するかにかかっています。単にグループ内の効率化にとどまらず、地域の中小企業への融資拡大や新たな金融サービスの提供につなげられるかが問われます。
まとめ
金融庁が進める銀行グループ内の大口信用供与規制の緩和は、地方銀行の構造改革を後押しする重要な施策です。預金の偏在というグループ内の課題を解消し、地域への資金供給を活性化させる効果が期待されます。
地銀再編が加速する中、グループ内での資金融通の柔軟性向上は統合効果の最大化にも寄与します。一方で、リスク管理体制の整備や、規制緩和の恩恵を地域経済の成長に結びつける取り組みが不可欠です。金融庁の監督指針改正の動向と、各銀行グループの対応に注目が集まります。
参考資料:
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