富士通とロッキード、イージス艦レーダー部品契約
はじめに
富士通は2月12日、米防衛大手ロッキード・マーチンと、艦艇搭載レーダーの部品に関する販売契約を締結したと発表しました。都内で署名式典が行われ、海上自衛隊のイージス・システム搭載艦(ASEV)向けレーダー「SPY-7」の中核部品を富士通が製造・供給します。
この契約は、2025年5月に両社が締結した調達先選定と戦略的パートナーシップに関する覚書(MOU)に基づく最初の購入契約です。日本の民間企業が米国の最先端防衛装備の部品製造を担うことは、防衛産業の国際協力の深化を示す象徴的な出来事です。
契約の詳細
富士通が製造する部品
富士通が製造するのは、SPY-7レーダーの構成品である「サブアレイスイート(電波送受信モジュール)」に電源を供給する「Power Supply Line Replaceable Unit(PS LRU)」です。レーダーが安定的に動作するための電源供給を担う中核部品であり、レーダーシステム全体の信頼性を左右する重要な役割を果たします。
富士通は窒化ガリウム(GaN)を用いた高周波デバイスの技術で高い実績を持っています。SPY-7レーダーの試作段階では、富士通製のGaN素子が採用された実績があり、今回の契約は長年の技術的な信頼関係の上に成り立っています。
2025年5月のMOUからの進展
両社は2025年5月22日、SPY-7に関する調達先の選定と戦略的パートナーシップについてのMOUを締結していました。この時点ではロッキードが2025年10月以降に富士通に発注する計画とされていましたが、今回正式な購入契約に至ったことで、具体的な製造・納品のプロセスが始動します。
さらに、両社はデュアルユース(民生・防衛両用)技術の開発加速でも連携する方針を表明しています。
SPY-7レーダーとイージス・システム搭載艦
SPY-7レーダーの性能
SPY-7は、ロッキード・マーチンが開発した最新鋭のフェーズドアレイレーダーです。従来のイージス艦に搭載されていたSPY-1レーダーと比較して約5倍の追尾能力を持ち、弾道ミサイルの探知・追尾性能が大幅に向上しています。
ロフテッド軌道(高い弾道で飛翔するミサイル)や、同時に複数の弾道ミサイルが発射された場合にも対処可能です。2024年4月には、米ミサイル防衛庁とロッキード・マーチンが実施したSPY-7の試験が成功しており、宇宙空間の物体の探知にも成功しています。
2025年1月には、ロッキード・マーチンがASEV1番艦向けのSPY-7レーダーアンテナ4面の全納入を完了したと発表しました。
イージス・システム搭載艦(ASEV)の概要
ASEVは、配備が中止された陸上配備型ミサイル防衛システム「イージス・アショア」の代替として計画された艦艇です。基準排水量は1万2000トンと海上自衛隊史上最大級の水上戦闘艦となります。
建造は2隻が計画されており、1番艦は三菱重工業が担当し2027年度の就役を目指しています。2番艦はジャパン・マリン・ユナイテッド(JMU)が建造を担い、2028年度の就役が予定されています。速力は約30ノット、乗組員は約240人の規模です。
防衛産業の国際協力が持つ意義
日本の防衛産業基盤の強化
今回の契約は、日本の防衛産業が国際的なサプライチェーンに組み込まれていく流れを象徴しています。2022年12月に策定された「国家安全保障戦略」や2023年の「防衛生産基盤強化法」の施行により、防衛産業の基盤強化は国の重要政策に位置づけられています。
富士通のような民間企業が米国の主要防衛企業と直接的な部品供給関係を持つことは、技術の維持・発展だけでなく、日米同盟の防衛協力を産業面から支える意味を持ちます。
防衛装備移転の拡大
2023年12月に改正された「防衛装備移転三原則」では、国際共同開発・生産に関するルールが緩和され、米国をはじめとする安全保障上の協力国との防衛装備品の海外移転が可能になりました。
富士通とロッキードの関係は、日本企業が「調達先」として国際的な防衛サプライチェーンに参画するモデルケースとなります。SPY-7は日本のASEVだけでなく、カナダやスペインなど他国の艦艇にも搭載が予定されており、将来的には日本製部品が他国の防衛装備にも供給される可能性があります。
注意点・展望
防衛産業への参入は、企業にとってビジネス上の機会であると同時に、厳格な品質管理や情報セキュリティの確保が求められます。防衛装備品の部品製造には、米国の武器管理規制(ITAR)への準拠も必要であり、富士通にはこうしたコンプライアンス体制の構築も求められます。
今後の展望として、富士通はレーダー部品にとどまらず、AI技術や量子コンピューティングなど先端技術の防衛応用でもロッキードとの連携を深める可能性があります。両社のデュアルユース技術の共同開発は、民生技術と防衛技術の相乗効果を生み出す試みとして注目されます。
ASEVの1番艦就役は2027年度に予定されており、富士通製部品が実際にレーダーシステムに組み込まれ、運用される段階に向けた準備が進みます。
まとめ
富士通とロッキード・マーチンの販売契約締結は、日本の防衛産業における国際協力の具体的な成果です。海上自衛隊の新型イージス艦に搭載されるSPY-7レーダーの中核部品を日本企業が製造することで、防衛産業基盤の強化と日米防衛協力の深化が同時に進んでいます。
2027年度のASEV 1番艦就役に向けて、今後も関連する動きに注目が必要です。
参考資料:
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