世界の社債発行が過去最高540兆円に、AI・脱炭素投資が牽引
はじめに
世界の企業による社債発行額が、2025年に過去最高を記録しました。米調査会社ディールロジックのデータによると、普通社債などによる資金調達額は前年比11%増の約3.4兆ドル(約540兆円)に達し、5年ぶりに過去最高を更新しました。
この急増を牽引しているのは、AI(人工知能)向けデータセンターへの巨額投資と、自動車産業を中心とした脱炭素関連の資金需要です。世界的な金融緩和の流れと、高い利回りを求める投資家の旺盛な需要が、社債市場の活況を支えています。
この記事では、社債発行急増の背景にある要因、大手テック企業の動向、そして投資家への影響について詳しく解説します。
社債市場活況の全体像
発行額の推移
2025年の世界社債発行額は約3.4兆ドルで、2020年以来5年ぶりに過去最高を更新しました。特に米国市場が活況で、ドル建て社債の発行額は前年比11%増の2兆1340億ドル(約330兆円)と、過去2番目の高水準となっています。
この背景には、企業の成長投資意欲の高まりがあります。AIブームに乗じたデータセンター投資や、カーボンニュートラル実現に向けた設備投資など、中長期的な資金需要が急増しています。
投資家の旺盛な需要
社債市場への資金流入が続く背景には、複数の要因があります。まず、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに転換したことで、債券投資の魅力が高まりました。
また、米景気が堅調に推移する中、企業の信用リスクが低く抑えられていることも安心材料です。国債よりも高い利回りが期待できる社債に対して、機関投資家や保険会社、年金基金からの需要が継続しています。
クレジットスプレッドの縮小
投資適格社債のクレジットスプレッド(国債との利回り格差)は80ベーシスポイント前後と、歴史的に見てタイトな水準にあります。企業のファンダメンタルズが良好で、スプレッドの急拡大リスクは限定的との見方が優勢です。
今後数年間で約2.5兆〜3兆ドルが債券市場に還流するとの予測もあり、社債市場への資金流入は継続する見通しです。
大手テック企業の大型起債
メタの過去最大級起債
米メタは投資適格級としては2025年最大となる300億ドル(約4兆6200億円)の社債発行を実施しました。注目すべきは投資家からの需要で、発行額の4倍以上となる1250億ドルもの応募が殺到しました。
メタはAI開発を加速しており、データセンターへの巨額投資に資金を充てる計画です。高い信用力と投資家からの信頼が、大型起債の成功につながりました。
アルファベットの超長期債
グーグルの親会社アルファベットも大型起債を実施し、米ドル建てとユーロ建てを合わせて約250億ドル(約3兆8500億円)を調達しました。特筆すべきは、償還期限が最長50年という超長期債を含む点です。
50年債の発行は同社として初めてで、長期的なAI投資計画に対する自信の表れといえます。調達資金はAI向けデータセンターへの投資に充てられる見込みです。
アマゾンも参戦
アマゾンも社債発行で約150億ドル(約2兆3000億円)を調達しました。AI向けデータセンターへの巨額投資で高まる資金需要に対応するもので、大手テック企業によるAI投資競争の激しさを物語っています。
メタ、オラクル、アルファベットの3社だけで、2025年9月以降に計655億ドル(約10兆円)のドル資金を確保しました。
AIデータセンター投資の実態
巨額投資の規模
アマゾン、アルファベット、マイクロソフトの3社が計画している2025年の設備投資費は、AIデータセンターを中心に計2500億ドル(約36兆円)を超えます。
米国における2025年のAIインフラ投資は、大手クラウド企業やOpenAIなどを含めて約4500億ドル(約67.5兆円)規模と推定されています。AI開発競争の激化に伴い、データセンターへの投資は今後も増加が見込まれます。
急増する電力需要
AIの普及に伴い、データセンターの電力消費が急増しています。国際エネルギー機関(IEA)によると、ChatGPTの1問答に必要な消費電力はGoogle検索の10倍に相当します。
IEAの試算では、世界のデータセンターの電力消費量は2026年に2022年比で2.2倍に増加する見通しです。米国エネルギー省は、データセンターが2030年までに米国の年間総電力消費量の最大9%を占める可能性があると推定しています。
電力確保への取り組み
巨大テック企業は電力確保に向けて原子力発電にも注目しています。グーグルは次世代の小型モジュール炉(SMR)開発企業と電力購買契約を締結。マイクロソフトはスリーマイル島原子力発電所1号機の再稼働による電力供給を受ける計画です。
アマゾンもデータセンター向け電力確保のため、小型原子力発電への投資を発表しました。
脱炭素投資も社債需要を牽引
自動車業界のグリーンボンド
社債発行増加のもう一つの柱が、脱炭素関連の資金調達です。特に自動車業界では、電気自動車(EV)開発に巨額の資金が必要となっています。
ホンダは環境債(グリーンボンド)を発行し、約3100億円を調達しました。同社は2050年のカーボンニュートラル実現を目指しており、2040年には乗用車の新車販売をEVと燃料電池車(FCV)のみにする計画です。
EV開発には1車種あたり500億円規模の投資が必要とされ、ガソリン車の約2倍のコストがかかります。巨額の開発資金を確保するため、社債発行による資金調達が活発化しています。
グリーンファイナンスの拡大
グリーンボンドは、調達資金の使途を環境改善効果のある事業に限定した債券です。トヨタファイナンスや日本電産なども積極的に発行しており、脱炭素投資の資金調達手段として定着しています。
日本では今後10年間で150兆円超の官民投資が必要とされており、20兆円規模の「GX経済移行債」も発行される予定です。グリーンファイナンス市場は今後も拡大が見込まれます。
投資家への影響と注意点
高利回りの魅力
社債は国債よりも高い利回りが期待できる点が魅力です。投資適格社債の平均利回りは過去3年間5%を上回る水準にあり、安定した収益を求める投資家から人気を集めています。
特にAI関連企業の社債は、成長期待と信用力の高さから需要が殺到しています。
リスク要因
一方で注意すべき点もあります。クレジットスプレッドが歴史的にタイトな水準にあることから、今後の景気後退局面では価格下落リスクがあります。
また、AI投資への過度な期待が剥落した場合、テック企業の社債価格に影響が及ぶ可能性もあります。実際、期待されていた大規模データセンター契約が予想より小規模だったケースも報告されています。
今後の見通し
FRBの利下げ局面が継続するため、2025年の米長期金利は緩やかに低下すると予想されています。米景気が好調さを維持すれば、社債スプレッドは低水準で安定的に推移するとみられています。
2026年も社債発行は高水準で推移する見通しで、AI投資を中心とした資金需要は継続するでしょう。
まとめ
2025年の世界社債発行額は約540兆円に達し、5年ぶりに過去最高を更新しました。AI向けデータセンターへの巨額投資と脱炭素関連の資金需要が、社債市場の活況を牽引しています。
メタやアルファベットなど大手テック企業の大型起債には投資家の需要が殺到しており、金融緩和環境と相まって社債市場への資金流入が続いています。
一方で、AI投資への期待が過熱気味である点や、クレジットスプレッドのタイトさには注意が必要です。投資判断にあたっては、個別企業の信用力と事業の持続可能性を慎重に見極めることが重要です。
参考資料:
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