GMのEV工場で3000人削減、米国に広がる電池砂漠
はじめに
米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が、電気自動車(EV)の未来を託した主力工場「ファクトリー・ゼロ」で大規模な人員削減を実施しました。デトロイト近郊のこの工場では約3,000人以上が職を失い、生産能力は半減しています。
背景にあるのは、トランプ政権によるEV関連政策の大転換です。7,500ドルのEV税額控除の廃止を契機にEV需要が急減し、GMだけでなくフォードを含む米自動車メーカーが相次いでEV戦略の見直しを迫られています。米国のEV産業に何が起きているのか、その構造的な問題を読み解きます。
ファクトリー・ゼロの夢と現実
GMが描いた電動化の未来
ファクトリー・ゼロは2021年に稼働を開始した、GMの電動化戦略の象徴です。デトロイト市中心部から車で約10分の場所にあるこの工場は、GMC ハマーEVやシボレー シルバラードEVなどを生産するEV専用拠点として位置づけられていました。
GMは2035年までに乗用車の全車種をEVに切り替えるという野心的な目標を掲げ、ファクトリー・ゼロを「将来の成長」を託す旗艦工場としていました。巨額の設備投資が行われ、最先端のEV生産ラインが構築されました。
3,000人超の人員削減
しかし現実は厳しいものでした。2025年10月、GMはファクトリー・ゼロで約1,200人の一時解雇を発表。その後、2025年末には1,140人の恒久的な解雇が追加されました。全米自動車労働組合(UAW)ローカル22の組合員は約半数を失う事態に陥っています。
2026年1月5日、ファクトリー・ゼロでは従業員の半分にあたる約1,100人が職場を去りました。工場は2交代制から1交代制に縮小され、生産能力は事実上半減しました。かつて「GMの最大の投資」と呼ばれた工場は、いまや巨額の損失を生む存在に変わりつつあります。
EV税額控除廃止の衝撃
トランプ政権の政策転換
米国のEV市場を根本から揺るがしたのが、トランプ政権によるインフレ削減法(IRA)の見直しです。2025年9月30日、バイデン政権下で導入されたEV購入に対する7,500ドルの税額控除が廃止されました。本来2032年末まで適用される予定だった控除が、7年以上前倒しで打ち切られた形です。
この政策転換の影響は即座に現れました。EV税額控除廃止直後の2025年10月第1週、米国のディーラーにおけるEV販売は前週比74%もの急落を記録しています。2025年11月には全新車販売に占めるEVの割合は6.3%にまで低下しました。
バッテリー工場にも波及
GMはファクトリー・ゼロだけでなく、バッテリー生産拠点にも大きなメスを入れています。オハイオ州ウォーレンのUltiumセル工場では550人の恒久解雇に加え、850人の一時解雇が実施されました。テネシー州スプリングヒルの工場でも700人が一時解雇されています。
両バッテリー工場は2026年1月から生産を一時停止し、2026年半ばの再開を目指すとしていますが、再開時期は不透明です。GMはこの政策転換に伴い、16億ドル(約2,400億円)の特別損失を計上しました。
米国自動車メーカー全体に広がる危機
フォードのEV撤退
GMの苦境は業界全体の縮図です。フォードのEV部門「モデルe」は2025年に48億ドルの営業損失を計上し、設立以来の累積損失は160億ドル(約2.4兆円)を超えました。2026年も40〜45億ドルの損失が見込まれ、損益分岐点は2029年まで到達しない見通しです。
フォードは大胆な戦略転換を決断しました。主力EVであるF-150ライトニングの生産を打ち切り、稼働から4年に満たない製品を廃止しました。ケンタッキー州グレンデールのバッテリー工場では1,600人全員を解雇し、工場をユーティリティ企業やAIデータセンター向けの蓄電池事業に転換する計画です。
さらに、EVの旗艦工場として構想されていた「ブルーオーバルシティ」は、2029年にガソリン車のトラック工場として開設されることになりました。約195億ドルの特別損失を計上し、事実上、大規模EV計画からの撤退を宣言しています。
「電池砂漠」化する米国
こうした動きの結果、米国では「電池砂漠」とも呼ぶべき状況が生まれつつあります。世界のEV用バッテリー生産能力は2030年に実需の3倍に拡大する見通しですが、その供給の大半は中国メーカーが担っています。2025年に製造されたEVの3台に1台以上がCATL製バッテリーを搭載しており、中国の市場支配力は圧倒的です。
米国では政策的な後押しが消えたことで、バッテリー工場の新設・拡張計画が相次いで凍結されています。パナソニックが米カンザス州に建設中の工場も先行きに不透明感が漂い、テスラのEV販売減少が影を落としています。
注意点・展望
米国のEV市場が完全に消滅するわけではありません。テスラは依然として一定のシェアを維持しており、州レベルではカリフォルニア州などがEV推進政策を継続しています。中長期的にはバッテリーコストの低下や充電インフラの整備により、市場回復の余地は残されています。
しかし短期的には、政策の逆回転がもたらす影響は深刻です。2026年の米国EV販売シェアは6.0%にまで低下すると見込まれており、バイデン政権時代に掲げた「2030年に新車販売の50%をEVに」という目標の達成は極めて困難になりました。
日本の自動車メーカーにとっては、ハイブリッド車の需要が改めて高まる追い風となる一方、EVへの投資判断をより慎重に行う必要があります。米国市場の政策リスクを見極めながら、柔軟な戦略が求められるでしょう。
まとめ
GMのファクトリー・ゼロにおける大規模人員削減は、米国EV産業が直面する構造的な危機を象徴しています。トランプ政権によるEV税額控除の廃止を契機に需要が急減し、GMやフォードといった伝統的な自動車メーカーがEV戦略の大幅な見直しを余儀なくされています。
バッテリー工場の停止や計画凍結が相次ぐ中、米国のEV産業は「電池砂漠」化のリスクに直面しています。政策に大きく依存したEV市場の脆弱性が露呈した今、自動車メーカーには政策環境に左右されない、持続可能なEV事業モデルの構築が求められています。
参考資料:
- GM will cut thousands of jobs in Michigan, Tennessee and Ohio - NBC News
- GM To Cut Thousands Of Jobs As EV Demand Slows - Nasdaq
- GM Lays Off 3,300 EV Workers As Battery Plants Idle Following Tax Credit Expiration - EVXL
- The Layoffs Are Coming To The EV Sector. Here’s What It Means - InsideEVs
- Ford EV division loses $4.8 billion in 2025 - WDRB
- Ford scraps EV plans, shifts to hybrids - WardsAuto
- トランプ政権下でEV普及は大幅に減速 - JETRO
- 「大きく美しい1つの法案」、EV税額控除の撤廃など大幅な見直し - JETRO
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