GM、EV減損で5000億円超の赤字に 税控除廃止が直撃
はじめに
米ゼネラル・モーターズ(GM)が2026年1月27日に発表した2025年10〜12月期決算は、最終損益が33億1000万ドル(約5080億円)の赤字となりました。前年同期の29億ドルの赤字から損失がさらに拡大しています。
この大幅な赤字の主因は、トランプ政権によるEV購入税額控除の廃止を受けた電気自動車(EV)事業の計画見直しです。工場や設備の減損、サプライヤーへの契約解除費用など、EV関連だけで60億ドル以上の特別損失を計上しました。
本記事では、GMの決算内容を詳しく分析し、EV税額控除廃止の影響、同社のEV戦略の見直し、そして今後の見通しについて解説します。
2025年10-12月期決算の概要
純損失と特別損失
GMの2025年10〜12月期の純損失は33億1000万ドル(1株当たり3.60ドルの損失)となりました。前年同期は29億6000万ドルの赤字でしたので、損失額がさらに拡大しています。
この損失の大部分は、72億ドル以上に及ぶ特別損失によるものです。内訳は、EV事業の縮小と中国事業の再編に関連する費用が大半を占めています。GMは1月初旬に71億ドルの特別損失計上を事前に発表していましたが、実際にはそれをやや上回る結果となりました。
調整後利益は好調
一方で、一時的な特別損失を除いた調整後の業績は堅調でした。調整後1株当たり利益は2.51ドルで、アナリスト予想の2.20ドルを上回りました。調整後EBIT(利払い・税引き前利益)は28億ドルを記録し、本業の収益力は維持されています。
売上高は452億8700万ドルで、前年同期比5%減となりましたが、アナリスト予想の458億ドルとほぼ同水準でした。
EV税額控除廃止の影響
トランプ政権の政策転換
トランプ大統領は2025年1月20日の就任直後、EV促進策を廃止する大統領令に署名しました。バイデン前政権が導入した「2030年までに新車販売の半分をEVにする」という目標を撤回し、EV購入時の最大7500ドルの税額控除も2025年9月30日に廃止されました。
さらに、企業別平均燃費(CAFE)規制の罰金制度廃止や、カリフォルニア州の「2035年までにガソリン車販売終了」規制の無効化など、EV普及を後押ししてきた規制が次々と緩和されています。
GMのEV販売への打撃
税額控除廃止の影響は甚大でした。GMの2025年10〜12月期のEV販売台数は前年同期比43%減少しました。駆け込み需要の反動に加え、補助金がなくなったことでEVの価格競争力が大きく低下したためです。
GMの決算発表資料では、「EV需要の予想される減少に合わせてEV生産能力と投資を調整するため」の費用として72億ドル以上を計上したと説明されています。
EV事業の大幅な計画見直し
60億ドル超のEV関連費用
GMは第4四半期に60億ドルのEV関連費用を計上しました。内訳は以下の通りです。
非現金の減損費用(18億ドル):
- 電動バン「ブライトドロップ」事業の撤退
- その他EV関連資産の評価損
契約解除・サプライヤー関連費用(42億ドル):
- 部品会社との契約解除費用
- サプライヤーへの違約金支払い
- その他手数料
第3四半期にも16億ドルのEV関連費用を計上しており、2025年下半期だけで76億ドル以上のEV関連コストが発生しています。
生産拠点の再編
GMはミシガン州のEV生産工場の能力削減を含む、生産体制の抜本的な見直しを進めています。当初計画していたEVモデルの投入時期を延期し、一部モデルの開発中止も視野に入れているとみられます。
GMは「当社のEV生産能力と製造拠点の再評価は現在も進行中だ」と述べ、将来的に追加費用が発生する「可能性は十分にある」と警告しています。
2026年の見通しと株主還元
強気のガイダンス
大幅な赤字決算にもかかわらず、GMは2026年について強気の見通しを示しました。
- 純利益:103億〜117億ドル
- 調整後EBIT:130億〜150億ドル
- 1株当たり利益:11〜13ドル
この見通しを受け、GMの株価は決算発表日に8.75%上昇しました。
株主還元の強化
GMは四半期配当を20%増額し、新たに60億ドルの自社株買いプログラムを発表しました。EV事業の縮小で浮いた資金を株主還元に振り向ける姿勢を明確にしています。
関税の影響
ポール・ジェイコブソンCFOは、2025年の米国関税によるコストは31億ドルだったと説明しました。当初予想の35億〜45億ドルを下回っており、サプライチェーンの調整が一定の効果を上げていることが示唆されます。
自動車業界全体への影響
テスラへの打撃
EV税額控除廃止の影響は業界全体に及んでいます。米国EV市場で約5割のシェアを持つテスラは、主力車種の実質価格が約2割上昇することになり、大きな打撃を受けています。テスラの世界販売は2四半期連続で前年を下回る状況が続いています。
日本メーカーの対応
日産自動車は米国でのEV2車種の生産を最大1年延期しました。トヨタ自動車も2026年から予定していたEV2車種のうち1車種の生産開始を2年延期する方針です。
一方で、ハイブリッド車(HV)が有利な状況となり、日本メーカーにとっては追い風となる側面もあります。トランプ政権の環境政策転換により、日本の強みであるHVの競争力が相対的に高まっています。
EV市場の今後
米コンサルティング会社アリックス・パートナーズによると、一連の支援策廃止により、米国の新車販売に占めるEV・PHVの比率は2030年に23%にとどまる見通しです。バイデン前政権の目標(約50%)の半分以下であり、世界平均(45%予測)と比べても米国の遅れが鮮明となります。
まとめ
GMの2025年10〜12月期決算は、トランプ政権のEV政策転換がもたらした激震を如実に示しています。EV事業の大幅な計画見直しで巨額の特別損失を計上した一方、本業の収益力は維持されており、2026年には大幅な黒字回復を見込んでいます。
投資家や業界関係者にとっての注目点は以下の通りです。
- EV事業のさらなる縮小と追加費用発生の可能性
- ハイブリッド車やガソリン車へのリソースシフト
- 2026年の利益目標達成可否
- 関税政策の今後の動向
米国自動車業界は、政策環境の激変に適応するための「大いなる再調整」の只中にあります。
参考資料:
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