成年後見の欠格条項に違憲判断、最高裁が示した意義
はじめに
2026年2月18日、最高裁大法廷は戦後14例目となる法令違憲の判断を下しました。成年後見制度を利用した人が警備員として働くことを認めなかった旧警備業法の「欠格条項」が、憲法22条が保障する職業選択の自由に違反するとしたものです。
この判決は、障害のある人が成年後見制度を利用したことだけを理由に、一律に職業から排除されることの不当性を最高裁が明確に認めた歴史的な判断です。本記事では、事件の経緯から判決の内容、そして今後の影響まで詳しく解説します。
事件の背景と経緯
原告男性が直面した理不尽
この裁判の原告は、岐阜県在住で軽度の知的障害がある男性です。2014年から警備会社で交通誘導の仕事に就き、問題なく業務をこなしていました。
ところが2017年、親族との金銭トラブルをきっかけに財産管理の支援を受けるため、成年後見制度の「保佐人」をつけることを選びました。これが転機となります。当時の警備業法第3条には、成年後見制度を利用している人は警備業を営んだり警備員になったりすることができないとする「欠格条項」が定められていました。
男性は制度を利用したという理由だけで、それまで問題なく続けていた仕事を辞めざるを得なくなったのです。
欠格条項とは何か
欠格条項とは、特定の資格や職業に就くための要件として、一定の事由に該当する人を排除する法律上の規定です。成年後見制度に関連する欠格条項は、かつて180以上の法律に存在していました。
警備業法における欠格条項の前身は、1982年に設けられた規定にさかのぼります。当時は精神障害者に対する社会的な理解が十分でなく、「一定の判断能力に制限がある人は警備業務にふさわしくない」という考え方が反映されていました。
最高裁大法廷の判断
違憲判決の論理構成
最高裁大法廷は裁判官15人中10人の多数意見により、旧警備業法の欠格条項を違憲と判断しました。裁判長は今崎幸彦最高裁長官が務めました。
判決ではまず、欠格条項が設けられた1982年当時の社会状況において、この規定には「相応の合理性があった」と認定しています。しかし、その後の社会変化により、規定の合理性が失われたと指摘しました。
具体的には、2014年の国連障害者権利条約の批准、2016年の障害者差別解消法の施行など、一連の法整備と社会的認識の変化を重視しています。「障害を理由とする差別が禁止されるべきだとする考え方が確立された」と述べ、成年後見制度の利用を理由とした一律の就業制限は、もはや合理性を持たないと結論づけました。
国の賠償責任は否定
一方で、国の賠償責任については否定されました。多数意見は、欠格条項について憲法上の問題を指摘する学説が当時ほぼ存在しなかった点などを踏まえ、「違憲性が明白だったにもかかわらず国会が放置した」とまでは言えないと判断しています。
ただし、三浦守裁判官ら5人の裁判官は反対意見を述べ、国会が条項の改廃を怠った立法不作為を認め、国に賠償責任があるとしました。この点は裁判官の間でも意見が分かれた重要な論点です。
戦後14例目の違憲判断
最高裁が法律を違憲と判断したのは戦後14例目です。直近では2024年7月に旧優生保護法の規定を違憲とした大法廷判決があり、障害者の権利に関する違憲判断が続く形となりました。
2019年の法改正と残された課題
一括整備法による欠格条項の見直し
実は、本件で問題となった欠格条項自体は既に改正されています。2019年6月に「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(一括整備法)が成立し、警備業法を含む多くの法律から成年後見制度に関する欠格条項が削除されました。
この改正により、成年後見制度を利用していることだけを理由に資格や免許を失うことはなくなりました。しかし、原告男性のように改正前に不利益を受けた人への救済が十分かどうかは、別の問題として残されています。
新たな形の排除リスク
2019年の法改正で一律の欠格条項は廃止されましたが、代わりに「心身の故障」や「心身の障害」を個別に判断する規定が導入された法律もあります。これが事実上の欠格条項として機能するリスクを、障害者団体などが指摘しています。
形式的な条項の廃止だけでなく、実質的に障害のある人が排除されない仕組みづくりが求められています。
注意点・展望
判決の射程範囲
今回の判決は旧警備業法の欠格条項に関するものですが、その判断の枠組みは他の分野にも影響を及ぼす可能性があります。障害を理由とする一律の排除規定は、個別の能力や適性を考慮せずに就業機会を奪うものであり、憲法上の問題があるという考え方が最高裁によって明確にされたことの意義は大きいです。
成年後見制度自体の改革
成年後見制度そのものについても、現在改革の議論が進んでいます。制度利用のハードルの高さや、一度利用を開始すると終了が難しい点など、制度設計上の課題が指摘されています。今回の判決は、制度利用が不利益につながらないようにするという観点からも、改革議論に影響を与えるでしょう。
障害者の就労環境整備
判決を受けて、企業や行政機関が障害者の就労に対する姿勢をどのように見直すかも注目されます。法律上の障壁が取り除かれても、現場での理解や配慮が伴わなければ、実質的な改善にはつながりません。
まとめ
最高裁大法廷による今回の違憲判断は、成年後見制度を利用する人の権利を守る上で画期的な一歩です。障害のある人を一律に排除する規定は、もはや現代社会において許容されないという司法からの明確なメッセージといえます。
一方で、国の賠償責任が認められなかった点は、過去に不利益を被った人々への救済という観点では課題が残ります。今回の判決を契機に、障害者の権利保障がさらに前進し、誰もが能力に応じて働ける社会の実現に向けた取り組みが加速することが期待されます。
参考資料:
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