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by nicoxz

最高裁が欠格条項を違憲判断、成年後見制度の転換点

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はじめに

2026年2月18日、最高裁判所大法廷は旧警備業法の「欠格条項」について、職業選択の自由を保障する憲法22条に違反するとの判断を示しました。成年後見制度を利用した人を一律に就業から排除する規定が違憲とされたのは、戦後14例目の違憲判決です。

この判決は、30年以上にわたって続いた障害者への制度的な差別に対し、司法が明確なメッセージを発した歴史的な出来事です。高齢化が進み、成年後見制度の利用拡大が見込まれる中、この判決がもたらす影響は極めて大きいといえます。

本記事では、判決の経緯と内容、欠格条項の歴史的背景、そして今後の社会への影響について詳しく解説します。

事件の経緯と判決の内容

原告の訴えと裁判の流れ

今回の訴訟の原告は、岐阜県在住の30代男性です。軽度の知的障害がある男性は、警備会社で交通誘導の業務に約3年間従事していました。2017年、親族との金銭トラブルをきっかけに財産管理のため成年後見制度を利用し、「保佐人」を付けることにしました。

しかし、当時の警備業法には「被保佐人」を欠格事由とする規定がありました。この条項に該当したため、男性は会社から契約終了を告げられ、退職を余儀なくされました。男性は2018年、旧警備業法の欠格条項は憲法に違反するとして国に損害賠償を求め提訴しました。

一審の岐阜地裁は、1982年の条項設置当初から違憲だったと判断し、国に10万円の賠償を命じました。二審の名古屋高裁も違憲と認め、賠償額を50万円に増額しています。

最高裁大法廷の判断

最高裁大法廷(裁判長・今崎幸彦長官)は15人の裁判官のうち10人の多数意見として、旧警備業法の欠格条項を違憲と判断しました。判決では、条項の前身が設けられた1982年当時の知見では「相応の合理性があった」と認定しました。

しかし、国連の障害者権利条約の批准(2014年)や障害者差別解消法の施行(2016年)など、社会の変化に伴い「障害を理由とする差別が禁止されるべきだとする考え方が確立された」と指摘しました。男性が退職を余儀なくされた2017年3月時点までには、条項による不利益が「看過し難いものとなっており、憲法違反に至っていた」と述べています。

一方で、国家賠償については認めませんでした。障害者差別の禁止が確立した時期と男性の退職時期が「相当に近接していた」とし、見直しにも相応の期間が必要だったとして、国会が長期にわたり条項を放置したとはいえないと結論づけました。三浦守裁判官ら5人は、国に賠償責任もあるとする反対意見を述べています。

欠格条項の歴史と2019年の法改正

30年以上続いた制度的排除

「欠格条項」とは、特定の属性を持つ人を一律に資格や就業から排除する法律上の規定です。成年後見制度に関する欠格条項は、1982年に警備業法に導入されて以降、30年以上にわたって存続しました。

こうした条項は警備業法だけでなく、地方公務員法や弁護士法など、実に180以上の法律に存在していました。成年被後見人や被保佐人であるというだけで、職業や資格から自動的に排除される仕組みが長く続いていたのです。

2019年の一括改正

2019年6月、第198回国会で「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」が全会一致で可決・成立しました。この法改正により、地方公務員法など関係する187本の法律を一括で改正し、一律の欠格条項を廃止しました。

代わりに導入されたのが「個別審査規定」です。制度の利用者を一律に排除するのではなく、個々の能力を個別に審査して職務への適性を判断する仕組みに改められました。しかし、今回の訴訟は2019年の法改正以前の旧規定に基づく損害について争われたものです。

判決の意義と社会的背景

戦後14例目の違憲判決

最高裁が法令を違憲と判断した事例は、戦後わずか14例にとどまります。近年では、2023年の性別変更手術要件に関する違憲判断(戦後12例目)、2024年の旧優生保護法に関する違憲判断に続くものです。

今回の判決が特に注目されるのは、制度が設けられた当初は「相応の合理性があった」としながらも、社会の変化に伴い違憲状態に至ったと認定した点です。法律は制定時には合憲であっても、時代の変化とともに違憲となりうることを明確に示しました。

障害者を取り巻く社会の変化

判決が指摘した社会の変化は、具体的な法制度の整備と連動しています。2006年の国連障害者権利条約の採択、2011年の障害者基本法の改正、2013年の障害者差別解消法の制定、2014年の日本による条約批准、2016年の差別解消法の施行と、段階的に障害者の権利保障が強化されてきました。

こうした国際的・国内的な動向が「障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化」として認定され、判決の重要な根拠となっています。

注意点・展望

残された課題

今回の判決では国家賠償が認められませんでした。違憲と認めながらも国の責任を否定した点は、少数意見からも批判されています。制度的な差別により実際に不利益を被った人々への救済が十分であるかは、今後も議論が必要です。

また、2019年の法改正で一律の欠格条項は廃止されましたが、新たに導入された「個別審査規定」が実質的に障害者を排除する運用にならないか、継続的な監視が求められます。

成年後見制度の利用拡大と今後

高齢化の進展に伴い、成年後見制度の利用は今後さらに拡大する見通しです。認知症高齢者の増加により、制度の重要性は一層高まっています。今回の違憲判決は、制度利用者の権利保護を一層強化する方向で、今後の法制度の運用に影響を与えるでしょう。

まとめ

最高裁大法廷による旧警備業法の欠格条項への違憲判決は、障害者の就業権を巡る日本の法制度の転換点となる判断です。30年以上にわたる制度的排除に司法が明確な違憲判断を下したことで、障害者の権利保障はさらに前進することが期待されます。

今後は、個別審査規定の適切な運用と、制度利用者への実効的な権利保障が課題となります。社会全体として、障害の有無にかかわらず個人の能力に基づいて就業機会が保障される環境の整備が求められています。

参考資料:

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