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by nicoxz

米関税に違憲判決、企業に求められる還付への3つの備え

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はじめに

2026年2月20日、米連邦最高裁判所がトランプ大統領の関税政策に対し、歴史的な違憲判決を下しました。6対3の判決で、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税やフェンタニル関連関税は大統領権限の逸脱であると判断されました。対象の関税は2月24日をもって徴収が停止されます。

しかし、既に徴収された約1340億ドル(約21兆円)の関税の還付については判決で明確にされておらず、企業にとっての闘いはこれからが本番です。還付を受けるためには、税関への異議申し立て、裁判所への提訴、そして情報整理を同時並行で進める必要があります。

最高裁判決の内容

大統領権限の逸脱と認定

ジョン・ロバーツ首席判事が執筆した多数意見では、トランプ大統領がIEEPAに基づいて課した関税は「メジャー・クエスチョンズ・ドクトリン(重大問題法理)」に違反すると判断されました。この法理は、巨大な経済的・政治的影響を持つ決定には、議会からの明確な権限委任が必要であるとするものです。

違憲と判断された関税は大きく2つに分類されます。一つは国ごとに異なる税率が設定された「相互関税」(中国に対する34%から他国への基本10%まで)。もう一つは、フェンタニルの流入対策を名目にカナダ、中国、メキシコからの一部輸入品に課された25%の関税です。

10%グローバル関税への切り替え

トランプ大統領は判決を受け、別の法的根拠(通商法122条)に基づく世界一律10%の関税を課す大統領令に署名しました。この新たな関税は2月24日午前0時1分(米東部時間)に発動される予定です。ただし、通商法122条に基づく関税は最長150日間に限定される制約があり、恒久的な措置とはなりません。

企業に求められる3つの対策

対策1: 税関への異議申し立て

最も基本的かつ緊急性の高い対策が、米税関・国境警備局(CBP)への異議申し立て(プロテスト)です。これは輸入時に支払った関税額に対して正式に異議を唱える手続きで、還付請求の前提条件となります。

異議申し立てには期限があるため、迅速な対応が求められます。過去の輸入分についても遡って異議を申し立てられる場合がありますが、具体的な期限や手続きは個別の案件ごとに異なるため、通関業者や貿易法弁護士への相談が不可欠です。

対策2: 裁判所への提訴

税関への異議申し立てと並行して、米国際貿易裁判所(CIT)への提訴も検討すべきです。最高裁判決では徴収済み関税の還付について明確な判断が示されなかったため、還付の具体的なプロセスはCITでの訴訟を通じて確定される見通しです。

米大手小売のコストコは、違憲判決を見越して既にCITに提訴しており、判決後は同様の訴訟が急増しています。通商弁護士のティモシー・キーラー氏は「最終的に企業への還付は行われるだろう」と見ていますが、そのプロセスがどうなるかは不透明です。早期に法的手続きを開始した企業ほど、還付を受けやすい立場に立てる可能性があります。

対策3: 情報の整理と記録保全

3つ目の対策は、地味ながら極めて重要な「情報整理」です。還付請求を行うには、どの輸入分にいくらの関税を支払ったかを正確に証明する必要があります。輸入申告書、関税の支払い記録、商品の分類コード、原産地証明書などの書類を体系的に整理し、保全しておくことが不可欠です。

特に取引量が多い企業では、膨大な数の輸入取引それぞれについて正確な記録を維持する必要があります。この作業は後回しにすればするほど困難になるため、今すぐ着手すべきです。

日本企業への影響

対米輸出企業の対応

日本企業にとっても、この判決は大きな意味を持ちます。対米輸出を行う日本の製造業やその米国子会社は、IEEPAに基づく関税を支払ってきました。還付が実現すれば、相当額の資金が戻る可能性があります。

日本企業の間でも、コストコと同様にCITへの提訴に踏み切る動きが活発化すると見込まれています。ただし、米国の通関制度や訴訟手続きに精通した専門家の支援が必要であり、早期の対応が鍵となります。

新たな10%関税への備え

一方で、通商法122条に基づく新たな10%グローバル関税が24日から発動されるため、関税負担が完全になくなるわけではありません。企業は還付への対応と同時に、新関税への対策も並行して進める必要があります。

注意点・展望

今回の最高裁判決は関税政策に大きな転換をもたらしましたが、いくつかの不確実性が残っています。

まず、還付のタイムラインが不明確です。1340億ドルという巨額の還付が実際に行われるまでには、法的手続きに相当な時間がかかると見られています。数年単位の時間がかかる可能性もあります。

また、トランプ政権が議会に働きかけて関税に関する新たな立法を求める可能性もあります。最高裁判決はIEEPAという特定の法律に基づく関税を違憲としたものであり、議会が新たに権限を付与する法律を制定すれば、再び高関税が復活する余地があります。

通商法122条に基づく10%関税も、150日の期限後にどうなるかは不透明です。企業は短期と中長期の両方の視点で、通商環境の変化に備える必要があります。

まとめ

米最高裁によるトランプ関税への違憲判決は、企業にとって還付という大きな機会をもたらす一方で、複雑な法的手続きへの対応を求めています。税関への異議申し立て、CITへの提訴、そして情報整理の3つを同時並行で進めることが、還付を確実に受けるための最善の戦略です。

新たな10%グローバル関税の発動もあり、通商環境の不確実性は続きます。企業は専門家の支援を得ながら、変化の速い状況に柔軟に対応していくことが求められます。

参考資料:

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