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by nicoxz

久光製薬MBO成立で上場廃止へ、3900億円の全貌

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はじめに

「サロンパス」で知られる久光製薬が2026年2月20日、MBO(経営陣が参加する買収)の成立を正式に発表しました。買い付け総額は約3900億円にのぼり、2024年に成立した大正製薬ホールディングスのMBOに次ぐ、国内で2番目の規模です。

5月をめどに東京証券取引所プライム市場から上場廃止となる見通しで、1847年の創業以来続いてきた老舗製薬企業が、新たな成長ステージに踏み出すことになります。本記事では、MBO成立の詳細と背景にある経営戦略、そして製薬業界全体に広がる「脱上場」のトレンドについて解説します。

MBO成立の詳細と今後のスケジュール

TOBの結果

久光製薬のMBOは、創業家出身の中冨一栄社長の資産管理会社「タイヨー興産」が実施したTOB(株式公開買い付け)によって進められました。1株あたり6082円という買い付け価格は、TOB発表前日の終値を約35%上回るプレミアムが付けられています。

TOBの買い付け期間は2026年1月7日から2月19日までの約1カ月半にわたりました。応募株数は約4180万株となり、買い付け予定数の下限である約4112万株を上回ったことで、MBOが成立しています。

今後のスケジュール

決済開始日は2026年2月27日に設定されています。その後、4月中旬に開催予定の臨時株主総会で非公開化に関する議案を諮り、承認されれば5月をめどに上場廃止となります。

株価純資産倍率(PBR)にして約1.6倍での買い付けであり、株主にとっても一定のプレミアムが確保された形です。

なぜ久光製薬は上場を捨てたのか

国内市場の厳しい現実

久光製薬が非公開化に踏み切った最大の理由は、国内市場の構造的な縮小にあります。主力製品であるサロンパスをはじめとする貼り薬は、安価な類似品との競争が激化しており、国内での売り上げが伸び悩んでいます。

さらに、自民党と日本維新の会が合意した「OTC類似薬」の患者負担増に関する政策も、同社にとって逆風です。市販の貼り薬が保険適用外となる可能性があり、同社の事業環境はより厳しくなることが予想されます。

海外市場への戦略的シフト

一方で、久光製薬は世界40カ国以上で事業を展開するグローバル企業という側面を持っています。2017年には「Salonpas」が一般用医薬品市場の鎮痛消炎貼付剤カテゴリーで世界シェアNo.1ブランドの認定を受けました。米国では経皮吸収型製剤(TDDS)市場で高いシェアを誇ります。

上場企業は四半期ごとの業績開示が求められ、短期的な利益追求を迫られる傾向があります。非公開化することで、中長期的な視点から海外市場への投資を加速し、株価に縛られない経営判断が可能になるという狙いがあります。

創業家のリーダーシップ

中冨一栄社長は創業家出身であり、MBO後も社長として経営を続投する予定です。1847年に佐賀県で「小松屋」として創業した久光製薬は、170年以上にわたって創業家が経営に関わってきました。この伝統を守りながらも、大胆な構造改革を進めるための決断だといえます。

製薬業界に広がる「脱上場」の波

相次ぐ製薬企業の非公開化

久光製薬のMBOは、製薬業界における「脱上場」トレンドの一環として注目されています。過去2年間では、田辺三菱製薬と大正製薬ホールディングスがTOBによって脱上場を果たしており、久光製薬はこれに続く大型案件です。

大正製薬HDのMBOは約7100億円規模で実施され、国内最大の非公開化案件として話題を集めました。久光製薬の約3900億円はこれに次ぐ規模です。

製薬業界特有の構造的課題

製薬企業が非公開化を選ぶ背景には、業界特有の課題があります。政府が主導する薬価引き下げの圧力と、短期的な視点で業績を判断する株式市場の圧力という「二重の圧力」にさらされていることです。

新薬開発には10年以上の期間と数百億円の投資が必要とされる一方、四半期ごとの業績発表では投資家への説明が難しくなります。非公開化によって、長期的な研究開発投資やグローバル展開に集中できる経営環境を整えることが目的です。

次の候補企業は

証券会社のアナリストによると、PBRが1倍を下回る製薬企業は複数存在しており、今後もMBOや非公開化の動きが続く可能性があります。キッセイ薬品工業がバリュー面から、協和キリンや住友ファーマが親子上場の観点から、買収候補として注目されています。

注意点・展望

今回のMBO成立は、日本の製薬業界が大きな転換期にあることを示しています。上場を維持するコストと、非公開化によって得られる経営の自由度を天秤にかけた結果、久光製薬は後者を選択しました。

投資家の視点からは、保有株式がTOB価格で買い取られることによるリターンが得られた一方、今後の成長に参加する機会は失われます。また、非公開化後は情報開示の義務が軽減されるため、経営の透明性が低下する可能性もあります。

久光製薬にとっては、海外市場でのシェア拡大や経皮吸収型製剤の新たな用途開発が、非公開化の成果を左右する重要な課題です。「サロンパス帝国」が上場を捨てて挑む世界戦略の成否に、業界全体が注目しています。

まとめ

久光製薬のMBOが約3900億円で成立し、5月にも上場廃止となる見通しです。国内市場の縮小と海外展開への集中という明確な経営戦略のもと、創業家出身の中冨一栄社長が非公開化を決断しました。

製薬業界では大正製薬HD、田辺三菱製薬に続く「脱上場」の流れが加速しており、今後も同様の動きが広がる可能性があります。短期的な株価圧力から解放された久光製薬が、長期的な成長戦略をどう実現していくか、注目が集まります。

参考資料:

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