スノーピークがMBO後の再上場へ、ベインと描く成長戦略
はじめに
2024年にMBO(経営陣が参加する買収)で上場廃止となったアウトドア用品大手スノーピークが、2027年末から2028年初頭にかけての再上場を視野に入れています。米投資ファンドのベインキャピタルと創業家が役割を分担し、非公開の間に大胆な経営改革を進めてきました。
注目すべきは、その改革のスピードと成果です。在庫を約45%削減し、2025年12月期の純利益は2023年比で約900倍と、驚異的なV字回復を見せています。創業家のカリスマ性とPEファンドの財務規律を組み合わせた「バディ経営」は、日本企業の非公開化・再上場モデルとして新たな注目を集めています。
この記事では、スノーピークのMBOの経緯から経営改革の中身、再上場に向けた成長戦略、そして日本企業への示唆までを詳しく解説します。
MBOの背景とスキーム
コロナ特需の反動と経営課題
スノーピークは新型コロナウイルス禍のキャンプブームで業績を大きく伸ばしましたが、2023年以降は需要の一巡で急激な業績悪化に見舞われました。2023年12月期の純利益はわずか100万円まで落ち込み、在庫の膨張や収益性の低下が深刻な経営課題となっていました。
山井太社長(当時)は「時価総額が下がり、外部から買収されるリスクを考えた」と非公開化の動機を語っています。上場を維持したままでは、四半期ごとの短期的な業績プレッシャーにさらされ、抜本的な構造改革に踏み切りにくい状況でした。
ベインキャピタルとの連携
2024年2月、スノーピークはベインキャピタルと共同でMBOを発表しました。TOB(株式公開買い付け)の買付価格は1株あたり1,250円で、総額約340億円規模の取引となりました。同年4月にTOBが成立し、7月に東京証券取引所プライム市場から上場廃止となっています。
新たな株主構成はベインキャピタルが55%、山井太氏ら創業家が45%です。創業家が経営の主導権を維持しつつ、ファンドが財務面で規律を持たせるという体制が構築されました。
V字回復を支えた経営改革
在庫半減と経費30億円削減
非公開化後、スノーピークは2年間で在庫額を45.7%削減するという大胆な構造改革を実施しました。過剰在庫の処分と生産管理の見直しにより、キャッシュフローの大幅な改善を実現しています。
あわせて約30億円規模の経費削減にも取り組みました。上場維持コストの解消に加え、事業全体のコスト構造を見直し、利益体質への転換を図っています。
直販比率の向上とチャネル改革
もう一つの大きな改革が、販売チャネルの再構築です。日米における直販比率が約70%にまで向上しました。卸売に頼る体制から、直営店舗やECを中心とした直販モデルへと転換することで、利益率の改善とブランドコントロールの強化を同時に実現しています。
国内では1店舗あたりの平均売上が2023年比で18.6%増加しており、「量より質」の戦略が着実に成果を上げています。山井氏がかつて販売店を4分の1に絞って成功した手法を、さらに進化させた形です。
業績の劇的な回復
こうした改革の結果、2025年12月期の業績見通しは売上高250億円(2023年比2.8%減)、営業利益13億円(同37%増)、純利益9億円(同約8,900%増)となっています。売上はほぼ横ばいながら、利益は劇的に回復しました。コスト構造の改善により、売上に頼らない収益力を築き上げたことがわかります。
再上場に向けた成長戦略
新経営体制「バディ経営」の確立
2025年10月、スノーピークは大きな経営体制の刷新を行いました。山井太氏が社長を退いて会長に就任し、新社長にはスターバックスコーヒージャパン元CEOの水口貴文氏が就任しました。創業家以外からの社長就任は同社史上初めてのことです。
山井氏は「CEO兼CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)」として新たな体験価値の「構想化」を担い、水口氏は「COO兼CBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)」として構想の「具体化」を推進する役割です。直感を重視するカリスマ創業者と、グローバルブランドの経営経験を持つプロ経営者が補完し合う体制は、同社が「バディ経営」と呼ぶ新たなガバナンスモデルです。
海外展開の加速
成長戦略の柱の一つが海外市場の拡大です。2025年の海外売上はアメリカが38%増、韓国が31%増、台湾が22%増と、いずれも大幅な伸びを見せています。
特に注目されるのが中国市場への本格参入です。3年前に45%出資して立ち上げた関連会社を完全子会社化し、アパレルを軸とした事業拡大に舵を切りました。今後5年間でグローバル全体で年10%以上の成長を目標に掲げています。
アパレル事業の強化
山井氏は「アパレルはギアを超えるスノーピークの大きな軸になる」と宣言しています。アウトドアギアで培った機能性をアパレルに注入し、普段キャンプをしない層も取り込む戦略です。アパレル事業では年15%以上の成長を目指しており、ブランドの裾野を広げる起爆剤として位置づけています。
また、2026年には電動ポンプで約5分で設営できる「エアフレームシェルター」の発売も予定されており、製品イノベーションの面でも攻めの姿勢を崩していません。
注意点・展望
日本企業のMBO・再上場モデルとしての意義
スノーピークの事例は、近年増加する日本企業のMBOにおける一つのモデルケースとなり得ます。2024年には東証で94社が上場廃止となり、2013年以降で最多を記録しました。東証の市場改革や「資本コスト・株価を意識した経営」の要請が、非公開化の流れを加速させています。
過去にはすかいらーくが2006年のMBO後、経営改革を経て2014年に再上場を果たした成功例があります。スノーピークはこうした先行事例に続く形で、非公開化期間中の企業価値向上と再上場のサイクルを体現しようとしています。
再上場に向けた課題
一方で、再上場にはいくつかの課題も残ります。アウトドア市場全体の成長鈍化が続く中で、アパレルや海外展開が計画通りに進むかは不透明です。また、創業家とPEファンドの利害が再上場のタイミングや方法を巡って一致し続けるかも注視すべきポイントです。
水口新社長が掲げる「不易流行」の経営方針、つまり変えてはいけない本質を守りつつ時代に合わせた挑戦をするという姿勢が、スノーピークらしさを維持しながら成長を実現できるかが問われます。
まとめ
スノーピークのMBOから再上場への道のりは、日本企業の新たな成長モデルとして注目に値します。在庫半減や経費30億円削減といった構造改革で収益体質を一新し、純利益900倍というV字回復を実現しました。
創業家のカリスマ性とPEファンドの財務規律を組み合わせた「バディ経営」、そしてスターバックス出身のプロ経営者を迎えた新体制は、非公開企業の経営高度化の新しい形を示しています。2027年末から2028年初頭に予定される再上場が成功すれば、MBOによる企業再生の成功事例として、今後の日本の資本市場に大きな影響を与えることになるでしょう。
参考資料:
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