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by nicoxz

米HPやデルが中国製メモリー採用を検討する背景

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はじめに

米国の大手PCメーカーであるHPとデルが、中国の半導体メモリーメーカー「長鑫存儲技術(CXMT)」のDRAM製品の採用を検討していることが明らかになりました。従来、PC向けDRAMはサムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジーの3社がほぼ独占してきた市場です。

AIブームに伴うメモリー需要の急増により、汎用DRAMの供給不足と価格高騰が深刻化しています。米国政府が中国の半導体メーカーを規制対象としている中で、米企業が中国製メモリーに頼らざるを得ない状況は、半導体サプライチェーンの構造的な変化を示しています。

この記事では、HPやデルが中国製メモリーの採用を検討する背景と、半導体市場への影響について解説します。

AIが引き起こしたメモリー争奪戦

HBM優先で汎用DRAM不足が深刻化

メモリー不足の根本的な原因は、AI向け高帯域メモリー(HBM)への生産シフトにあります。サムスン電子、SKハイニックス、マイクロンの大手3社は、NVIDIAなどのAIチップメーカーからのHBM需要に対応するため、生産ラインを高利益率のHBMに集中させています。

その結果、PC向けやスマートフォン向けの汎用DRAMの生産能力が大幅に縮小しました。TrendForceの予測によれば、2026年第1四半期のDRAM平均価格は前四半期比で50〜55%上昇する見通しです。一部の分析では、サーバー向けメモリーで最大190%、PC向けでも150%前後の値上げが予測されています。

OpenAIの大型契約がさらに供給を逼迫

供給不足に拍車をかけているのが、OpenAIによる大規模な調達契約です。OpenAIはサムスンとSKハイニックスと契約を結び、月間90万枚規模のDRAMウェハー供給を確保したとされています。これは世界のDRAM生産能力の約40%に相当する規模です。

こうしたAI大手による囲い込みにより、PC向けの汎用メモリーの調達がますます困難になっています。メモリー不足は一時的な現象ではなく、工場建設の遅れもあって2028年まで続く可能性が指摘されています。

HPとデルの中国製メモリー検討

HP:非米国市場向けに検証開始

HPはCXMT製DRAMの品質検証(クオリフィケーション)を開始しました。HPは2026年半ばまでメモリー供給状況を注視し、供給逼迫と価格上昇が続く場合、非米国市場向け製品でCXMTからの初めての調達に踏み切る計画です。

HPが検証を進めているのはPC用の標準的なDRAMモジュールで、現時点ではあくまで代替調達先の確保が目的です。ただし、品質検証を通過すれば、実際の発注に移行する可能性は十分にあります。

デル:価格高騰への備え

デルもCXMT製DRAMの品質検証を進めています。デルの場合、2026年を通じてメモリー価格が高騰し続けることへの懸念が主な動機です。品質検証は必ずしも即座の発注を意味しませんが、既存の調達先だけでは十分な供給量を確保できないリスクへの備えとして位置づけられています。

台湾メーカーも同様の動き

中国製メモリーへの関心は米国メーカーに限りません。台湾のエイサーはChinese製メモリーチップの使用に前向きな姿勢を示しており、ASUSも中国の生産パートナーに対してメモリーチップの現地調達を依頼しています。PC業界全体で、従来の3社寡占体制からの調達先多様化が進みつつあります。

CXMTの台頭と地政学的リスク

制裁下でも技術力を向上

CXMTは中国最大のDRAMメーカーで、米国による半導体輸出規制の対象となっています。米商務省は2024年にCXMTの「エンティティーリスト」(事実上の禁輸リスト)への掲載を検討していると報じられました。

しかし、規制にもかかわらずCXMTの技術力は着実に向上しています。DDR5メモリーの開発を進めるとともに、低価格を武器に世界市場でシェアを拡大しています。2025年7〜9月期には世界のDRAM市場でシェア5%を獲得し、サムスン、SKハイニックス、マイクロンに次ぐ第4位の地位を確立しました。

米国規制との矛盾

HPやデルが中国製メモリーの採用を検討していることは、米国政府の半導体規制政策と矛盾する側面があります。米国は中国の半導体産業の成長を抑制するために輸出規制を強化してきましたが、一方でAIブームによるメモリー不足が、米国企業自身を中国メーカーへの依存に向かわせているのです。

HPが「非米国市場向け」に限定して検討しているのは、この矛盾を回避するための現実的な対応と言えます。しかし、中国製メモリーの品質と価格競争力が証明されれば、より広範な採用への圧力が高まる可能性があります。

注意点・今後の展望

地政学リスクへの警戒

中国製メモリーの採用拡大には、サプライチェーンの地政学リスクが伴います。米中関係の悪化により、中国からの調達が突然制限される可能性は排除できません。各メーカーは調達先を分散させつつも、特定の国や企業への過度な依存を避けるバランスが求められます。

メモリー市場の構造変化

2028年まで続くとされるメモリー不足は、半導体市場の構造を根本的に変える可能性があります。これまで3社が寡占してきたDRAM市場にCXMTが本格参入することで、価格競争が促進される一方、技術安全保障上の新たな課題も生まれます。

AI向けと汎用向けのメモリー生産バランスの再調整、そして新規工場の建設が進むまで、PCメーカーは厳しい調達環境に直面し続けるでしょう。

まとめ

HPやデルによる中国製DRAM検討は、AIブームがもたらしたメモリー供給不足の深刻さを象徴しています。大手3社がAI向けHBMに生産を集中させた結果、汎用DRAMの供給が逼迫し、かつては考えられなかった中国メーカーへの依存が現実味を帯びてきました。

米国の半導体規制政策と市場の現実との間にあるジレンマは、今後さらに鮮明になっていくでしょう。メモリー不足の長期化に備え、業界全体でサプライチェーンの見直しが加速しています。

参考資料:

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