Research

Research

by nicoxz

メモリー不足が深刻化、AI需要で価格2倍超の見通し

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

AI投資の急拡大が、半導体メモリー市場に「前例のない」供給危機を引き起こしています。データセンター向けのメモリー需要が爆発的に増加した結果、DRAM価格は2025年を通じて約172%上昇しました。2026年第1四半期にはさらに50〜55%の値上がりが見込まれています。

この影響は自動車やスマートフォンなど幅広い産業に波及しています。S&Pグローバルは自動車業界で「パニック買い」が発生する可能性を指摘し、スマートフォンの平均販売価格は前年比約7%上昇するとの予測も出ています。この記事では、メモリー不足の構造的な原因と各産業への影響について解説します。

AI需要がメモリー市場を「爆食」

データセンターが世界の生産量の7割を消費

2026年に世界で生産されるメモリーチップの約70%がデータセンターに消費される見通しです。Microsoft、Google、Meta、Amazonなどの大手テック企業がAIインフラの構築に巨額の投資を行っており、特に高帯域幅メモリー(HBM)の需要が急拡大しています。

OpenAIの「Stargate」プロジェクトだけで、世界のDRAM供給の約40%を確保しようとしているとされています。残りの供給をPC、スマートフォン、自動車、産業機器など全ての産業が奪い合う構図になっています。

供給側の構造的制約

メモリー市場はサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンの3社がほぼ寡占しています。これらの企業はいずれも利益率の高いAI向けHBMの増産に経営資源を集中させています。汎用メモリーの生産ラインは後回しにされ、供給不足が慢性化しています。

NVIDIAのGPU向けHBMスタックに割り当てられるウエハー1枚は、中価格帯のスマートフォン用LPDDR5Xモジュールには使えません。AIサーバー向けの利益率が高い製品に生産能力がシフトした結果、汎用品の供給が構造的に絞られています。

さらに、DRAMへの設備投資の多くが生産能力の拡大ではなく、次世代プロセスへの移行に充てられており、ウエハー処理枚数自体は増えていません。新しい半導体工場は計画から量産まで5年以上を要するため、短期間での供給増は困難です。

各産業への波及効果

自動車業界:パニック買いの懸念

自動車1台あたりのDRAM搭載コストは現在50〜110ドルと推定されています。メモリー価格の高騰は自動車セクターに大きなコスト増をもたらす見込みです。

ウェルズ・ファーゴは、2021年の半導体不足の際に見られたパニック買いと同様の動きが再び始まっていると警告しています。OEMメーカーが将来の在庫確保を見越して投機的な発注を行い、需要のシグナルが歪む事態が懸念されています。コスト増を吸収できなければ、生産停止に追い込まれる可能性もあります。

EV(電気自動車)やプレミアム車セグメントは、車載メモリーの搭載量が多いため、特に影響を受けやすい状況です。自動運転機能やインフォテインメントシステムの高度化に伴い、車1台あたりのメモリー使用量は増加傾向にあります。

スマートフォン:値上がりと出荷減

Counterpoint Researchの分析によると、DRAMの価格高騰によりスマートフォンの部品コスト(BoM)は低価格帯で約25%、中価格帯で約15%、高価格帯で約10%上昇しています。2026年のスマートフォン平均販売価格は前年比6.9%上昇する見通しです。

メモリー価格の上昇を受けて、2026年のスマートフォン出荷台数は前年比2.1%減と下方修正されました。従来の予測ではフラットからプラス成長が見込まれていたため、大幅な修正です。低価格帯のスマートフォンでは、2026年にRAM容量が4GBに戻るモデルも出てくる見通しです。

PC市場への影響

PC向けメモリーも影響を受けています。サムスンはDDR5モジュールの新規受注を一時停止し、マイクロンはコンシューマー向けブランド「Crucial」からの撤退を決めました。32GBのCorsair RAMキットは2025年初頭の110ドルから442ドルまで4倍に高騰しています。

DDR4からDDR5への移行が進まない自動車や産業機器向けでは、供給がさらに細っています。DDR4がDDR5よりも高くなる「価格逆転現象」も起きており、レガシーメモリーの調達がより困難になっています。

注意点・展望

供給回復は2027年以降

メモリーの供給逼迫は少なくとも2026年いっぱいは続く見通しです。SynopsysのCEOは2027年まで「チップクランチ」が継続すると述べています。マイクロンがアイダホ州ボイシに建設中の2つの新工場は、2027年と2028年に生産を開始する予定ですが、短期的な供給不足の解消にはつながりません。

最も悲観的な見方では、NANDフラッシュ大手PhisonのCEOが「NANDフラッシュの供給不足は10年続く可能性がある」と主張しています。

価格操作の疑惑も

メモリー業界が「AI需要による供給不足」を理由に価格を引き上げている一方で、実際には価格操作が行われているのではないかという指摘もあります。メモリー市場はかつてもカルテルによる価格操作で罰金を科された歴史があり、寡占市場構造に対する監視の目は厳しくなっています。

まとめ

AI需要の爆発的な拡大が引き起こしたメモリー不足は、テック業界だけでなく自動車、スマートフォンなど幅広い産業に影響を及ぼしています。データセンターが世界の生産量の7割を消費し、残りを全ての産業が奪い合う構図は、少なくとも2026年いっぱいは続く見通しです。

消費者にとっては、スマートフォンやPCの値上がりという形で影響が現れます。自動車業界ではパニック買いによる生産遅延のリスクも指摘されています。AI時代のインフラ構築が、意図せずして広範な産業に「デジタル増税」を課す構図が鮮明になっています。

参考資料:

関連記事

最新ニュース