インテルAIパソコン戦略に暗雲、メモリ不足の深刻な影響
はじめに
米インテルが2025年10〜12月期決算で再び赤字に転落しました。売上高は前年同期比4%減の136億7400万ドル、最終損益は約5億9100万ドルの赤字となっています。
注目すべきは、この業績悪化の主因が単なる需要減退ではなく、世界的なメモリ不足にあるという点です。インテルが復活の切り札として位置づける「AIパソコン」の生産が、DRAM供給制約により停滞しています。
本記事では、インテルの決算内容とAIパソコン戦略への影響、そしてメモリ危機の背景と今後の見通しについて詳しく解説します。
インテル2025年10-12月期決算の詳細
全体業績と赤字転落の背景
インテルは2026年1月22日に2025年度第4四半期決算を発表しました。売上高136億7400万ドルは市場予想を上回ったものの、前年同期比4%減となりました。最終損益は5億9100万ドルの赤字で、前四半期の黒字から再び赤字に転落しています。
CFOのデビッド・ジンスナー氏は決算説明会で「過去数カ月間、DRAMや基板などの主要部品の供給が、AI インフラの急速な拡大を支える強い需要により、業界全体で逼迫している」と説明しました。
セグメント別の明暗
事業セグメント別では明暗が分かれています。データセンター&AI(DCAI)部門は好調で、売上高は前年同期比9%増の47億ドルを記録しました。NVIDIAのDGX B200やB300などのGPUシステムでホストCPUとして採用されているXeon 6プラットフォームの需要が堅調でした。
一方、PC向け半導体を主力とするクライアント・コンピューティング・グループ(CCG)は売上高81億9300万ドルで、前年同期比7%減となりました。ジンスナー氏は「Lunar Lakeのウェハがもっとあれば、もっと売れていた」と供給制約の深刻さを認めています。
供給不足の構造的要因
インテルのLunar LakeおよびArrow Lakeプロセッサは、チップレットの製造をTSMCに委託しています。しかし、インテルに割り当てられたN3B(3nmクラス)プロセスのウェハ供給量は、需要を満たすには不十分な状況です。
さらに、Lunar Lakeはオンパッケージでメモリを搭載する設計を採用しており、LPDDR5X-8533のメモリを16GBまたは32GB統合しています。このAppleのMシリーズに似たアプローチは、性能と省電力性では優れていますが、メモリ確保の難しさという課題を抱えています。
世界的なDRAM危機の実態
AI需要がメモリ市場を席巻
現在のDRAM価格高騰は、AIデータセンター需要の爆発的増加が主因です。2025年第3四半期のDRAM契約価格は前年比171.8%上昇し、消費者向けメモリは2〜3倍に高騰しています。
特に大きな影響を与えたのが、2025年10月にOpenAIがSamsungおよびSK Hynixとの間で結んだDRAM供給契約です。この契約では、両社合計で毎月ウェハ90万枚分のDRAMをOpenAIに供給するとされており、「Stargate」プロジェクトが世界のDRAM供給の約40%を確保しようとしているとの報道もあります。
寡占市場と生産優先順位の問題
DRAM市場はSamsung、SK Hynix、Micronの3社が95%を占める寡占状態にあります。これらのメーカーは、利益率の高いHBM(高帯域幅メモリ)やサーバー向けメモリの生産を優先しており、消費者向けのLPDDR4などは後回しになっています。
Counterpoint Researchの予測によると、メモリ価格は2025年第4四半期に30%上昇し、2026年初頭にはさらに20%上昇する可能性があります。S&Pグローバル・レーティングは、メモリの供給逼迫は2026年まで続き、正常化は2027〜2028年ごろになると予測しています。
PC・スマートフォン市場への波及
このメモリ危機は一般消費者にも直接的な影響を及ぼしています。国内では一部PCメーカーが転嫁値上げに動き始めており、マウスコンピューターは2025年12月にPCの早期購入を呼びかけました。
さらに、Windows PCではAI処理能力が標準要件となりつつあり、搭載メモリ容量は8GBから16GB、さらには32GBへと引き上げられる流れが加速しています。1台あたりの搭載量増加は、市場全体のメモリ需要をさらに押し上げる悪循環を生んでいます。
リップブー・タンCEOの再建戦略
経営体制の刷新
2024年末にパット・ゲルシンガー前CEOが退任した後、2025年3月にリップブー・タン氏が新CEOに就任しました。タン氏はケイデンス・デザイン・システムズのCEOとして同社の収益を2倍以上に成長させ、株価を3,200%以上上昇させた実績を持つ経営者です。
タン氏は就任以来、人員を約15%削減し、従業員数を2024年末の10万8900人から約7万5000人へと縮小。コスト構造の改革を進めながら、Intel Foundry事業を分離し、18Aプロセスロードマップに資源を集中させています。
ファウンドリ事業への賭け
インテルの復活戦略の核心は、受託製造(ファウンドリ)事業の拡大です。米国政府からCHIPS法に基づく57億ドルの支援金転換に加え、NVIDIAから50億ドル、ソフトバンクから20億ドルの投資を受けています。
ただし、課題も山積しています。インテルのファウンドリ事業の潜在顧客であるNVIDIA、Apple、Qualcommは、インテルの製品部門とも競合関係にあり、TSMCとの長年の取引関係を持っています。TSMCが米国内に1650億ドル規模の製造能力を建設中であることも、インテルの優位性を弱める要因となっています。
注意点と今後の展望
短期的な課題
2026年第1四半期について、インテルは売上高117億〜127億ドルの見通しを示しています。ジンスナーCFOは「供給可能量は第1四半期が最も低く、第2四半期以降に改善する」と述べており、短期的には厳しい状況が続く見込みです。
中長期的な回復シナリオ
インテルの回復シナリオは、2026年に投入予定のPanther Lake(ノートPC向け)とNova Lake(デスクトップ向け)、そして18Aプロセスの量産成功にかかっています。これらはいずれもIntel 18Aプロセスで製造される予定で、製造技術での巻き返しを図ります。
ただし、アナリストの一部は「18Aとその後の14Aプロセスの成功が、インテルがファウンドリ事業で成功するか、あるいは長期的に製造から撤退するかを左右する」と指摘しています。
メモリ危機の長期化リスク
最も懸念されるのは、メモリ危機が予想以上に長期化する可能性です。SK Hynixは消費者向けDRAMの不足が少なくとも2028年まで続く可能性を警告しています。2026年のメモリ生産枠はすでに完売しているとの報道もあり、インテルのAIパソコン戦略が計画通りに進むかは不透明な状況です。
まとめ
インテルは2025年10-12月期に再び赤字に転落し、復活への道のりが容易でないことが明らかになりました。リップブー・タンCEOの下で経営改革は進んでいますが、世界的なメモリ不足という外部要因がAIパソコン戦略の足かせとなっています。
2026年は18Aプロセスの量産開始とPanther Lake投入という重要な年となりますが、メモリ供給制約が解消されなければ、製品があっても出荷できないという状況が続く可能性があります。
インテルの復活シナリオが実現するかどうかは、自社の技術開発力だけでなく、メモリ業界全体の供給動向にも大きく左右される状況です。投資家や業界関係者は、決算数字だけでなく、サプライチェーン全体の動向を注視する必要があるでしょう。
参考資料:
- Intel Reports Fourth-Quarter and Full-Year 2025 Financial Results
- Intel (INTC) earnings report Q4 2025 - CNBC
- Intel prioritizes Xeons over client chips to meet AI demand - The Register
- AI巡るメモリ争奪戦――2026年はPC、スマホに”冬”が到来 - PC Watch
- LPDDRが足りない AIブームで価格高騰 - EE Times Japan
- This Could Derail Intel’s Comeback in 2026 - The Motley Fool
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