IHI受注高1.9兆円へ上振れ、原子力需要が追い風
はじめに
総合重工メーカーのIHI(旧石川島播磨重工業)が、2026年3月期の受注高見通しを大幅に上方修正しました。従来予想から900億円引き上げ、前期比11%増の1兆9400億円と過去最高を更新する見通しです。
上方修正の最大の要因は、原子力をはじめとするエネルギー関連需要の取り込みです。世界的なAIブームによる電力需要の急増や、日本国内の原発再稼働の動きが同社の事業を後押ししています。航空エンジンや防衛関連も好調で、IHIは複数の成長エンジンが同時に回るかつてない好環境にあります。
本記事では、IHIの受注高上振れの背景と各事業セグメントの状況、さらに今後の成長戦略について詳しく解説します。
受注高上方修正の全体像
900億円の上振れ要因
IHIは2026年2月10日に発表した第3四半期決算において、通期の受注高見通しを従来の1兆8500億円から1兆9400億円へ引き上げました。上振れの主な内訳は、原子力関連で約250億円、防衛関連で約200億円、その他エネルギー関連で数百億円とみられています。
売上収益は前期比1%増の1兆6400億円、純利益は前期比11%増の1,250億円をそれぞれ見込んでおり、こちらは従来予想を据え置いています。受注高、売上高、営業利益、純利益のいずれも過去最高を更新する見通しで、同社にとって歴史的な好業績の年度となりそうです。
受注残が示す将来の安心感
IHIの受注残高は1兆5,000億円を超えており、これは今後の売上を支える大きなバッファとなります。重工業メーカーにとって受注残の厚さは業績の安定性を示す重要な指標です。受注から売上計上まで数年かかるプロジェクトも多いため、現在の受注高の好調さは2027年3月期以降の業績にも好影響を与えます。
原子力事業が成長エンジンに浮上
世界的な原発回帰の波
IHIの受注高上振れの最大の牽引役が原子力事業です。この背景には、世界規模で進む原子力発電への再評価があります。
AI(人工知能)やデータセンターの急速な普及により、世界のエネルギー需要は急増しています。24時間安定した大量の電力を供給できる原子力発電は、再生可能エネルギーだけでは賄いきれない需要を補完する手段として注目されています。各国政府がカーボンニュートラル目標を掲げる中、CO2を排出しない原子力は脱炭素電源としての価値も高まっています。
IHIの原子力事業戦略
IHIは原子炉格納容器や原子炉圧力容器などの重要部品を製造する国内有数のメーカーです。同社は今後3年間で約200億円を投じ、原子力発電所向け部品の増産体制を整備する計画を進めています。
特に注目されるのが次世代原子炉への対応です。小型モジュール炉(SMR)や革新軽水炉といった次世代炉の開発が世界的に進む中、IHIは大型炉・小型炉の双方に対応した部品供給体制を構築しています。同社は原子力事業の売上収益を2030年代に1,000億円規模へ引き上げる目標を掲げており、国内の再稼働需要に加え、海外の新設案件も積極的に取り込む方針です。
国内原発の再稼働動向
日本国内では、既設33基の原子炉のうち14基が再稼働済みです。柏崎刈羽原子力発電所の6号機・7号機や東海第二原子力発電所など、追加の再稼働候補も控えています。再稼働に伴う設備更新や安全対策工事は、IHIのような重工メーカーにとって大きなビジネスチャンスです。
ただし、福島第一原発事故以降、原子力サプライチェーンから撤退した企業も20社を超えており、技術者の高齢化も深刻です。IHIにとっては、こうした業界の「空白」がむしろ受注機会の拡大につながっている側面があります。
航空エンジン・防衛も好調を持続
民間航空エンジンのスペアパーツが伸長
IHIのもう一つの収益柱である航空エンジン事業も好調が続いています。コロナ禍からの旅客需要回復が鮮明となり、世界的な航空旅客数の増加に伴って、エンジンのスペアパーツ(交換部品)販売が大きく伸びています。
航空エンジン事業は、新品エンジンの製造よりもスペアパーツのアフターサービスで利益率が高い構造となっています。既存エンジンの稼働率が上がるほどスペアパーツ需要も増えるため、旅客需要の堅調な推移はIHIの収益力向上に直結します。
防衛予算拡大の恩恵
日本の防衛費はGDP比2%を目標に大幅に増額されており、IHIは哨戒機や練習機向けの航空エンジンを手がけています。2026年3月期は防衛事業だけで70億円の増益が見込まれており、受注面でも堅調に推移しています。
防衛装備品は長期にわたる保守・運用が必要なため、一度受注すれば安定的な収益が期待できます。日本の安全保障環境の変化を背景に、防衛関連事業はIHIの中長期的な成長ドライバーとして位置付けられています。
注意点・展望
サプライチェーンの再構築が課題
原子力事業の拡大を目指す上で、サプライチェーンの維持・再構築は大きな課題です。福島第一原発事故から15年が経過し、原子力分野の経験者が退職・高齢化する「2030年問題」が指摘されています。IHIが掲げる原子力事業1,000億円目標の達成には、人材確保と技術伝承が不可欠です。
為替リスクと地政学リスク
IHIの業績は為替変動の影響を受けやすい構造にあります。航空エンジン事業はドル建て取引が多く、円高に振れた場合は業績の下振れ要因となります。また、防衛関連は国際情勢の変化によって受注環境が大きく変わる可能性があるため、地政学リスクにも注意が必要です。
株式市場での評価
IHIの時価総額は直近3年半で約6倍に上昇しており、同期間の日経平均株価の伸び率(1.7倍)を大幅に上回っています。原子力・防衛・航空エンジンという3つの成長テーマを兼ね備えた銘柄として市場の注目度は高く、今後の決算内容次第でさらなる株価上昇の可能性もあります。
まとめ
IHIの2026年3月期の受注高が1兆9400億円に上振れた背景には、原子力需要の回復、航空エンジン事業の好調、防衛費拡大という3つの構造的な追い風があります。特に原子力事業は、世界的なエネルギー需要の拡大と脱炭素化の流れを受けて、同社の中長期的な成長を支える柱として注目されています。
受注高・売上高・利益のいずれも過去最高を更新する見通しで、IHIは複数の成長エンジンが同時に回る好循環に入っています。今後はサプライチェーンの再構築や人材確保といった課題にどう対応するかが、持続的な成長のカギとなるでしょう。
参考資料:
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