訪日客カード決済16%増、欧州シフトの実態
はじめに
2025年12月の訪日外国人によるクレジットカード決済額が、前年同月比で16%増加したことが明らかになりました。注目すべきは、中国人観光客の消費が半減するなかでも、全体として堅調な伸びを維持している点です。
中国政府が2025年11月に日本への渡航自粛を呼びかけて以降、訪日中国人は大幅に減少しました。かつてインバウンド消費の最大の柱だった中国市場の縮小は、観光業界に大きな衝撃を与えています。しかし、フランスや英国をはじめとする欧州市場の伸びが、その穴を埋める形で存在感を高めています。
本記事では、三井住友カードの決済データをもとに、訪日客消費の最新動向と構造変化の実態を読み解きます。
中国人観光客の急減とその背景
渡航自粛要請の経緯
中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけた背景には、日中間の政治的緊張があります。2025年11月、高市早苗首相が国会答弁で「台湾有事は存立危機事態にあり得る」と発言したことに中国が反発し、対抗措置として渡航自粛を要請しました。
中国の大手航空会社6社は、12月末までに出発する顧客に対して手数料なしでのキャンセルに応じると発表しました。この影響は即座に数字に表れ、2025年12月の訪日中国人は前年同月比で45.3%減少しています。
消費額への影響
三井住友カードのデータ分析サービス「Custella(カステラ)」によると、2025年12月の国・地域別消費額で中国は51%の減少を記録しました。中国からの訪日消費は2025年通年で2兆26億円と、国・地域別で最大規模を維持しているものの、12月単月では大幅な落ち込みとなっています。
野村総合研究所の試算では、渡航自粛の影響による経済損失は年間1兆7,900億円に達し、GDPを0.29%押し下げる可能性があるとされています。
欧州市場の伸びが消費を下支え
フランス・英国の存在感
中国市場が縮小するなかで、フランスと英国を中心とした欧州市場が急速に存在感を高めています。2025年の1人当たり旅行支出では、ドイツが43万5,512円でトップに立ち、英国が38万2,829円、フランスが36万1,321円と続いています。
欧州からの旅行者は平均滞在日数が長いことが特徴です。フランスの平均泊数は18.4泊、ドイツは18.0泊と、アジア圏の旅行者と比べて3倍以上の長期滞在となっています。滞在が長い分、宿泊費や飲食費、交通費などの消費額が自然と大きくなります。
欧米豪市場全体の成長
欧米豪市場全体の消費額は前年比28%増と大きく伸長しました。訪日外客数でも欧米豪は前年比22%増の720万人を記録しています。中国市場に依存しない消費構造への転換が、結果として訪日消費全体の安定につながっている形です。
2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,559億円と過去最高を更新しており、中国の減少分を他市場がカバーして余りある成長を遂げています。
業種別に見る消費の濃淡
宿泊・飲食は堅調
訪日外国人の消費を費目別に見ると、宿泊費が33.4%で最も高い割合を占めています。次いで買物代が29.3%、飲食費が22.5%と続きます。
特に欧州からの旅行者は宿泊費への支出が大きく、英国の旅行者は宿泊費だけで平均17万948円を費やしています。長期滞在型の旅行スタイルが、高級ホテルや旅館の稼働率を押し上げる要因となっています。
買物消費の構造変化
一方で、買物消費には構造変化が見られます。かつて中国人観光客による「爆買い」が話題となりましたが、中国客の減少に伴い、家電量販店やドラッグストアでの大量購入型の消費は減少傾向にあります。
代わりに、欧州や北米からの旅行者は、伝統工芸品や地元の食材、体験型サービスなど、いわゆる「コト消費」への支出が多い傾向があります。これは地方経済にとってもプラスの効果をもたらしており、都市部に集中しがちだったインバウンド消費の地方分散にもつながっています。
注意点・展望
リスク要因
欧州市場の成長は心強い材料ですが、いくつかのリスク要因も存在します。まず、為替変動の影響です。円安が訪日消費を押し上げてきた面がありますが、円高に転じた場合には消費額が目減りする可能性があります。
また、中国との関係改善の見通しが立たない状況が長期化すれば、年間2兆円規模の中国人消費の回復が遅れ、観光業界の一部セクターには引き続き厳しい環境が続くことになります。日本総研の試算では、日中関係が本格的に悪化した場合、3年間で訪日消費額が2.3兆円減少する可能性があるとしています。
多角化戦略の重要性
今後は、特定の国・地域に依存しないインバウンド戦略がますます重要になります。2025年の実績が示すように、欧米豪市場は高単価・長期滞在型の消費をもたらす有望な市場です。地方自治体や観光事業者には、欧州向けのプロモーション強化や、長期滞在者向けのサービス整備が求められます。
まとめ
2025年12月の訪日客カード決済額は、中国人観光客が半減するなかでも前年比16%増と堅調な伸びを示しました。この背景には、フランスや英国を中心とした欧州市場の力強い成長があります。
1人当たり消費額が高く、長期滞在型の欧州旅行者の増加は、インバウンド消費の質的な向上をもたらしています。業種別では宿泊・飲食が堅調な一方、買物消費は「モノ消費」から「コト消費」への転換が進んでいます。
中国市場への依存度を下げ、多様な国・地域からの誘客を進めることが、今後の日本の観光戦略における最重要課題です。
参考資料:
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