インバウンド、踊り場に——JTB予測「2026年は3%減」の背景
はじめに
4年連続で過去最高を更新してきた訪日外国人(インバウンド)が、2026年は減少に転じる見通しです。JTBは2026年1月8日、2026年のインバウンドが4140万人と前年見込み比3%減ると発表しました。
減少の主因は、日中対立の影響による中国人旅行客の落ち込みです。訪日客の2割を占める中国市場が冷え込む一方、日本側でも人手不足による航空便やホテルの供給制約が懸念されています。
政府が2030年に6000万人の目標を掲げる中、インバウンド需要は踊り場にさしかかりそうです。
2025年は4260万人で過去最高更新
コロナ後の急回復
JTBの推計によると、2025年の訪日客数は前年比16%増の4260万人となりました。2024年の3687万人から大幅に増加し、年間の過去最高を更新しました。
日本政府観光局(JNTO)の発表でも、2025年1〜11月の累計は3906万人に達し、すでに2024年通年を上回っています。単月で300万人超えは14カ月連続となり、インバウンド市場の堅調さを示していました。
円安と物価安が追い風
2025年までの急増を支えたのは、円安と日本国内の相対的な物価安です。JTBは、コロナ禍前と比較した各国・地域の所得水準上昇による需要押し上げ効果も加わり、2025年まで高い伸びが続いたと分析しています。
しかし、これらの効果は2025年でおおむね一巡したとみられ、2026年以降は各国経済の成長に伴う「自然増」が増加の主因になると予測されています。
2026年減少の主因——日中対立
中国政府の渡航自粛要請
2025年11月、高市早苗首相の「台湾有事は存立危機事態になりうる」との発言に中国が反発。中国政府は自国民に対して日本への渡航自粛を呼びかけました。
これに伴い、中国の大手航空会社は日本路線の無料変更・払い戻しを発表し、旅行会社によるツアー中止も相次ぎました。一部の旅行会社は日本への団体旅行を以前の6割程度にするよう指示され、販売の全面中止を求められたケースもあります。
中国人客は訪日市場の2割
中国は訪日客数で最大の市場です。2025年1〜11月の累計では、中国からの訪日客は876万人と最多を記録しました。しかし、渡航自粛要請の影響で11月以降は伸び率が大きく鈍化しています。
民間の宿泊管理システムによると、渡航自粛要請後の中国からの宿泊予約は全国で半減しました。訪日客の約2割を占める中国市場の冷え込みは、全体の数字に大きく影響します。
中国・香港を除けばプラス成長
JTBの予測によると、2026年の訪日客数は中国・香港の需要減で前年比2.8%減となりますが、この2市場を除けば5.6%増となる見通しです。
中国・香港の減少が恒常化しない前提で、2027年以降は総数が再びプラス成長へ転じるとJTBは見込んでいます。ただし、日中関係の行方次第では、さらなる下振れリスクも残ります。
供給制約という日本側の課題
航空便の不足
インバウンド増加に対し、国際線の供給が追いついていない問題があります。コロナ禍で減便した路線の回復が遅れており、特に需要の高いアジア路線でキャパシティ不足が指摘されています。
空港の発着枠にも限りがあり、需要があっても供給できない状況が一部で生じています。
ホテル・人手の不足
観光地を中心にホテルの客室不足も深刻化しています。コロナ禍で離職した人材の復帰が進まず、人手不足からサービスを制限せざるを得ない施設もあります。
こうした供給制約は、インバウンドの「量」を追求する戦略の限界を示しており、「量から質へ」の転換が求められる背景となっています。
消費額は微増の見通し
9.64兆円と過去最高更新へ
訪日客数は減少する見通しですが、訪日消費額は前年比100.6%の9.64兆円と微増が予想されています。これは過去最高の更新となります。
旅行コストの上昇に加え、滞在期間の長い欧米豪市場からの旅行者が増加していることが要因です。1人当たりの消費単価が高い市場のシェアが拡大することで、総消費額は維持される計算です。
「量から質」への転換
政府は2030年に訪日客6000万人、消費額15兆円の目標を掲げています。しかし、オーバーツーリズム(観光公害)や人手不足といった課題を踏まえると、単純な人数増加ではなく、高付加価値観光の推進が重要になります。
地方への分散、長期滞在の促進、富裕層向けコンテンツの充実など、「量から質へ」の転換が今後の課題です。
注意点・展望
日中関係の行方
インバウンド市場の最大のリスク要因は日中関係です。日本総研の試算では、中国政府が長期にわたって渡航を禁止する場合、向こう1年間の訪日消費額は1.2兆円減少し、3年間での損失総額は2.3兆円にのぼる可能性があります。
一方で、2026年春節(旧正月)に向けた中国からのホテル予約は前年比6割増と好調で、個人客の需要は底堅いとの見方もあります。
円高リスク
円安が訪日旅行の誘因となっている韓国や台湾については、円高が進んだ場合に旅行先が東南アジアなど割安な国へシフトする可能性もJTBは指摘しています。為替動向は引き続き注視が必要です。
2030年目標への影響
2026年に減少となれば、2030年6000万人の政府目標達成には、年平均10%以上の成長が必要となります。目標の見直しや、「量」以外の指標(消費額、地方分散度など)を重視する方向転換も議論される可能性があります。
まとめ
JTBは2026年のインバウンドを4140万人と予測し、4年ぶりの減少となる見通しを示しました。日中対立による中国人客の減少と、航空便・ホテルの供給制約が主な要因です。
訪日消費額は9.64兆円と微増が見込まれますが、市場構造の変化を踏まえた戦略の見直しが求められています。「量から質へ」の転換を進めながら、日中関係の改善と供給制約の解消に取り組むことが、2030年目標達成への鍵となりそうです。
参考資料:
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