航空機部品の国内生産が初の2兆円超え、日本製造業の新たな柱へ
はじめに
日本の航空機・部品の国内生産額が、2025年に初めて2兆円の大台を突破しました。日本航空宇宙工業会の発表によると、2024年度の航空機生産額(速報値)は前年度比22%増の2兆619億円に達し、2019年度以来5年ぶりに過去最高を更新しています。
この成長の背景には、新型コロナウイルス禍からの航空需要の力強い回復があります。民間旅客機用のエンジンや機体部品の受注が大きく伸びており、防衛力強化に伴う防衛向け需要の増加も全体を押し上げています。
EV(電気自動車)シフトや中国メーカーの台頭により自動車関連産業が転換期を迎えるなか、航空機産業は日本のものづくりの新たな柱として存在感を高めています。本記事では、航空機部品産業の現状と成長の要因、そして今後の展望について詳しく解説します。
航空機産業が急成長する背景
コロナ禍からの航空需要回復
航空機産業の急成長を支えている最大の要因は、世界的な航空旅客需要の回復です。コロナ禍で大幅に落ち込んだ航空需要は、2023年以降に急速な回復を見せ、2024年にはコロナ禍前の水準を上回る旅客数を記録しました。
この旅客需要の回復に伴い、航空機メーカーであるボーイングやエアバスへの発注が急増しています。航空会社各社が老朽化した機体の更新と新規路線の開設を進めており、新造機の需要は当面高水準で推移する見通しです。
エンジン・部品需要の拡大
特に注目すべきは、航空機エンジンとその部品の需要拡大です。新造エンジンの生産はもちろん、既存エンジンの保守・点検に必要なスペアパーツの需要が急増しています。航空機エンジンは定期的な部品交換が必要であり、機体の運航時間が増えれば自動的にアフターマーケット需要も拡大する構造です。
IHI、三菱重工業、川崎重工業の重工大手3社は、プラット・アンド・ホイットニーやGEエアロスペース、ロールス・ロイスといった世界的なエンジンメーカーと国際共同開発を行っています。これらのパートナーシップを通じて、日本企業はエンジンの主要部品を供給し、安定的な収益基盤を築いています。
重工大手3社の航空事業が好調
IHIのスペアパーツ事業が収益の柱に
重工大手3社のなかでも、特にIHIの航空エンジン事業の成長が目覚ましい状況です。IHIは民間航空機エンジンのスペアパーツ販売が力強く成長しており、スペアパーツ比率は事業全体の6割前後にまで高まっています。
IHIは2026年3月期の業績見通しにおいて、受注高・売上高・営業利益のすべてを上方修正しました。民間航空機エンジンのスペアパーツ販売増が大きく寄与しており、航空エンジン事業が同社の収益の柱として確固たる地位を築いています。
三菱重工と川崎重工も過去最高益
三菱重工業と川崎重工業も、航空・宇宙・防衛分野が牽引する形で過去最高益を記録しています。三菱重工業はボーイング787向けの複合材主翼の製造を手がけており、川崎重工業はボーイング777X向けの胴体パネルなどを供給しています。
防衛省の予算拡大も3社の業績を押し上げる要因です。日本政府は2027年度までに防衛費をGDP比2%に引き上げる方針を示しており、航空機関連の防衛需要は今後も増加が見込まれています。また、日本・イギリス・イタリアの3カ国による次期戦闘機の共同開発プログラム「GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)」も本格的に動き出しており、防衛航空機産業への追い風となっています。
自動車産業からの転換と中小企業の挑戦
EVシフトで揺らぐ自動車部品産業
航空機産業への注目が高まる背景には、日本の製造業を長年支えてきた自動車部品産業の構造転換があります。EVシフトの進展により、エンジンやトランスミッションといった内燃機関関連の部品需要は中長期的に減少が見込まれています。
さらに、中国のBYDをはじめとするEVメーカーの急速な台頭が、日本の自動車関連企業に大きな影響を与えています。従来の自動車部品サプライチェーンは再編を迫られており、新たな成長分野への展開が急務となっています。
航空機部品への参入を目指す中小企業
こうしたなか、自動車部品で培った精密加工技術を航空機部品に転用する動きが広がっています。大型旅客機には約300万点もの部品が使われており、サプライチェーンの裾野は極めて広いです。国内では約250社がJIS Q 9100(航空宇宙品質マネジメントシステム)の認証を取得しており、そのうち中小企業が50〜60%を占めています。
ただし、航空機部品への参入は容易ではありません。航空機部品に求められる品質基準は自動車部品以上に厳格で、Nadcap(特殊工程の国際認証)の取得も必要です。また、自動車のような大量生産ではなく少量多品種の生産が基本となるため、生産体制の根本的な見直しが求められます。
注意点・展望
トランプ政権の関税リスク
航空機産業の成長を脅かすリスクとして、米国トランプ政権による追加関税の動きがあります。日本航空宇宙工業会の中村知美会長(SUBARU会長)は、航空機や部品に対する追加関税の検討について強い懸念を表明しています。日本の航空機部品は米国向け輸出が大きな比率を占めるため、関税が発動されれば産業全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
完成機事業への挑戦
経済産業省は2024年に「航空機産業戦略」を策定し、2035年頃までに完成機事業の創出を目指す方針を打ち出しています。三菱航空機のスペースジェット(旧MRJ)の開発中止という教訓を踏まえ、まずは国際共同開発でのポジション向上とインテグレーション能力の獲得を優先する現実的なアプローチが採られています。
部品供給にとどまらず、将来的には完成機の開発・製造まで手がけることができれば、付加価値は飛躍的に高まります。ただし、この道のりは決して平坦ではなく、長期的な視点での技術蓄積と人材育成が不可欠です。
まとめ
日本の航空機・部品の国内生産額が初めて2兆円を超えたことは、日本の製造業にとって重要な転換点です。コロナ禍からの航空需要回復、エンジン部品・スペアパーツの需要拡大、そして防衛費の増額が三位一体となって成長を牽引しています。
自動車産業がEVシフトで転換期を迎えるなか、航空機産業は日本のものづくりの新たな柱として期待が高まっています。関税リスクや人材確保などの課題はありますが、重工大手3社の好調な業績と中小企業の参入拡大は、日本の航空機産業の裾野の広がりを示しています。今後は部品供給から完成機事業へのステップアップを見据えながら、産業全体の成長を注視していく必要があります。
参考資料:
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