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by nicoxz

JR東日本初の廃線へ、久留里線が示す地方鉄道の岐路

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はじめに

JR東日本が千葉県を走る久留里線の一部区間について、鉄道事業の廃止届を提出すると発表しました。地震などの災害による被災路線を除けば、JR東日本管内では初めての廃線となります。

廃止対象は久留里駅から上総亀山駅までの9.6km区間で、2027年4月1日付の廃止が見込まれています。1日の利用者がわずか64人にまで落ち込んだこの区間は、100円の収入を得るのに1万円以上の費用がかかる深刻な赤字路線でした。

この決定は、人口減少が進む日本の地方鉄道が直面する厳しい現実を象徴しています。本記事では、廃線に至った経緯と代替交通計画、そして全国のローカル線が抱える課題について解説します。

久留里線とは何か

房総半島を走るローカル線

久留里線は千葉県木更津市の木更津駅から君津市の上総亀山駅までを結ぶ全長32.2kmの非電化路線です。房総半島の東京湾側と内陸部を結び、沿線には久留里城や亀山湖などの観光資源が点在しています。

千葉県内で唯一のJR非電化ローカル線として知られ、ディーゼルカーが緑豊かな房総の山間部を走る風景は、鉄道ファンにも親しまれてきました。

利用者数の激減

廃止対象となる久留里〜上総亀山間の利用者減少は深刻です。JR東日本が発足した1987年度には1日あたり823人が利用していましたが、2023年度にはわずか64人にまで減少しました。実に92%もの利用者を失ったことになります。

君津市の人口ビジョンによると、廃止区間の沿線地域では少なくとも1955年(昭和30年)から人口減少が続いています。過疎化の進行に加え、自動車社会の浸透が鉄道離れに拍車をかけました。

廃線に至るまでの経緯

赤字の深刻さを示す数字

久留里〜上総亀山間の採算状況は、JR東日本のローカル線の中でも際立って悪化していました。「営業係数」は6,694に達しています。これは100円の営業収入を得るために6,694円の費用がかかることを意味します。別の年度のデータでは、100円の運輸収入に対して1万3,580円の経費がかかるという数字も報告されています。

1日8.5往復の列車を走らせても、車両に乗っているのは平均数人という状態が常態化していました。鉄道としての輸送力は明らかに過剰で、観光利用を最大限に見積もっても1日50人程度にとどまっていたのです。

検討会議での結論

2023年から始まった「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」では、千葉県、君津市、JR東日本、地域住民らが参加し、路線の今後について議論が重ねられました。

2024年10月21日の第5回検討会議で最終結論が出されました。報告書は「自動車中心の交通体系への移行により利便性が高まる」と判断。鉄道を維持するよりも、バスに転換した方が住民にとってメリットがあるという結論に至ったのです。

これを受け、同年11月27日にJR東日本は正式に廃止方針を表明しました。

地域住民の反応

一方で、廃線に対する地域住民の反発もありました。「いきなり廃線」と感じた市民の声は少なくありません。長年にわたって地域の足として機能してきた鉄道の廃止は、沿線コミュニティにとって単なる交通手段の喪失以上の意味を持ちます。

しかし現実問題として、利用者が極端に少ない路線を維持し続けることの経済合理性は低く、限られた公共交通の資源をより効果的に活用する方法が模索された結果の決断でした。

代替バス計画の全容

鉄道より便利な交通体系へ

廃線後の代替交通として、路線バスの運行が計画されています。起点は上総亀山駅近くにある「やすらぎ館」で、現行の鉄道路線におおむね沿ったルートを走ります。

注目すべきは、バスの方が鉄道よりも利便性が向上する点です。鉄道が1日8.5往復だったのに対し、バスは13往復に増便される計画です。所要時間も20〜30分程度で、鉄道とほぼ変わりません。きめ細かな停留所の設置により、駅から離れた地域の住民にとってはアクセスが改善される可能性もあります。

JR東日本が18年間の費用負担

代替バスの運営費用については、JR東日本が18年間にわたって負担することが合意されています。2025年12月に開かれた「君津市地域公共交通会議」でこの方針が確認され、地域にとっては一定の安心材料となりました。

鉄道事業者が長期間にわたって代替交通の費用を負担するスキームは、今後の廃線議論におけるモデルケースとなる可能性があります。

全国に広がるローカル線の危機

JR東日本だけで790億円の赤字

久留里線の問題は氷山の一角にすぎません。JR東日本が公表した2024年度のローカル線収支によると、利用者が少ない36路線71区間すべてが赤字で、赤字額の合計は790億円に達しています。前年度から33億円増加しており、状況は年々悪化しています。

最も採算が悪い路線は陸羽東線の鳴子温泉〜最上区間で、100円の収入を得るのに2万2,360円の費用がかかっています。JR西日本でも32区間で267億円の赤字が報告されており、全国的な課題となっています。

各地で進む存廃協議

久留里線以外にも、複数の路線で存廃協議が進行中です。JR東日本管内では、青森県の津軽線(蟹田〜三厩間)について、JR東日本と沿線自治体がNPO法人を共同設立して代替交通を運営する基本合意が2025年6月に結ばれました。2027年春から新たな交通体系への移行が予定されています。

また、米坂線や吾妻線など複数の路線で協議が継続されており、2026年以降もローカル線の存廃をめぐる議論は全国各地で続く見通しです。

注意点・今後の展望

廃線をめぐる議論で注意すべきは、「鉄道の廃止=地域の衰退」と短絡的に結びつけないことです。久留里線のケースが示すように、利用実態に合った交通手段への転換は、むしろ住民の利便性を向上させる可能性があります。

一方で、代替交通の持続可能性は重要な課題です。JR東日本の費用負担が終了する18年後、バス路線を地域が自立的に維持できるかどうかは不透明です。バスの運転手不足も全国的に深刻化しており、長期的な交通確保には新たな仕組みが求められます。

今後は自動運転技術の進展や、デマンド型交通(予約制の乗合サービス)の導入など、テクノロジーを活用した地域交通の再構築が鍵を握ります。鉄道という「手段」にこだわるのではなく、地域住民の移動をいかに保障するかという「目的」に立ち返った議論が求められています。

まとめ

JR東日本初の廃線となる久留里線の一部区間廃止は、日本の地方鉄道が直面する構造的な課題を浮き彫りにしています。利用者の9割減という現実の前に、鉄道の維持よりも代替交通への転換が合理的と判断されました。

全国には同様の課題を抱える路線が数多く存在します。久留里線の事例は、JR東日本による18年間の費用負担という枠組みを含め、今後の廃線議論の先行事例として注目されます。地域交通の未来を考える上で、この決定がどのような結果をもたらすか、引き続き注視が必要です。

参考資料:

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