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by nicoxz

マブチのレアアース耐性 小型モーターの代替設計と中国規制

by nicoxz
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はじめに

中国のレアアース輸出規制が再び製造業の神経を逆なでするなか、マブチモーターの「ほとんど代替材料に置き換えた」という説明は、単なる強気発言として片づけにくい現実味があります。小型モーター専業の同社は、量産品でフェライト磁石を使いこなす設計と生産の蓄積が厚く、希土類価格の急変や輸出規制に対して、他の高性能モーター依存企業より防御力を持ちやすいからです。

ただし、ここで重要なのは「全面的な脱レアアース」ではないことです。マブチの公式製品情報をみても、フェライト磁石の量産品が多数を占める一方、超小型高出力品にはレアアース磁石採用モデルが残っています。記事として見るべき論点は、同社が本当に無傷かどうかではなく、どの製品群で代替が進み、どこにまだ希土類依存が残るのかです。

なぜマブチは比較的強いのか

フェライト中心で成立する量産ビジネス

マブチは公式サイトで、自社を年産14億個を誇る世界有数の小型電動モーターメーカーと位置付けています。2025年の連結売上高は2004億1700万円で、車載、家電、事務機器、医療など広い用途に供給しています。この事業構造自体が、希土類リスクに対する一つの防波堤です。

理由は単純で、マブチの主力が「極限性能を競う大型駆動モーター」ではなく、用途別に最適化した小型DCモーターだからです。公式製品検索を見ると、家電向けのRS-385SH-2270や、複合機・ATM・美容家電向けのFK-280SA-18165は、いずれもフェライト磁石を採用しています。量産品の厚い部分がこの系統にあるなら、希土類磁石の価格や輸出許可に業績全体が振り回されにくいのは自然です。

フェライト化が効く理由は、マブチが磁石そのものの強さだけでなく、巻線、回転数、トルク、騒音、コストの全体最適で製品を組んできたからです。同社の技術ガイドでは、磁力の弱い磁石に変えると失速トルクは下がり、無負荷回転数は上がると説明しています。裏を返せば、求める用途に合わせて磁石特性を織り込み、設計全体で帳尻を合わせるノウハウがあるということです。フェライトは希土類より磁力で劣りますが、安価で供給の地政学リスクも相対的に低い。量産向け小型モーターでは、このバランスが効きます。

2010年以降の学習効果

日本企業が希土類依存の見直しを急いだ原点は、2010年の対中摩擦でした。ロイターは同年9月、日本の経済産業相が、中国から日本向けのレアアース輸出が商社ベースで止まっていると聞いていると述べたと伝えています。中国側は公式禁輸を否定しましたが、供給が政治リスクにさらされることを日本企業に強く印象づけた局面でした。

小型モーターは価格競争が激しく、材料代の変動が収益を削りやすい分野です。そうした産業では、調達安定性も設計仕様の一部になります。マブチが早い段階からフェライト化や代替設計を積み上げていたとしても不自然ではありません。実際、同社の現在の公開製品群を見ると、低価格量産領域ではフェライトが広く定着しており、過去の供給ショックを経て事業の土台そのものを組み替えた可能性が高いと読めます。

それでも影響ゼロではない理由

高性能・小型化領域に残るレアアース依存

一方で、マブチの公式サイトにはレアアース磁石採用モデルも残っています。たとえばFF-N20WA-9Z190は、電動歯ブラシや電気錠など向けの超小型ブラシモーターですが、製品仕様に「Rare earth magnets」と明記されています。小型・軽量で静音性や出力密度を重視する領域では、いまなお希土類磁石の優位性が大きいことを示す材料です。

この点は重要です。代替が「ほとんど」進んだとしても、全部ではありません。特に、狭いスペースで高トルク、高効率、低騒音を同時に求める用途では、フェライトへの置き換えに限界が出ます。マブチのブラシレス製品群も、AGV・AMR向けに180Wや200W級の高出力をうたっており、公開ページでは磁石種別を必ずしも開示していないものの、性能競争が厳しい分野ほどレアアース比率が上がりやすいとみるのが自然です。

したがって、同社の強さは「全製品が無希土類」ではなく、「数量の大きい量産帯でフェライトを使える」ことにあります。収益の土台がフェライトで守られている一方、先端用途や高付加価値品ではレアアースが残る。この二層構造で見ると、社長発言の含意が理解しやすくなります。

中国規制の射程と顧客側リスク

中国の規制も、単純な全面禁輸ではありません。中国商務省と税関総署は2025年4月4日、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウムなど中・重希土類関連品の輸出管理を即日発効し、サマリウム・コバルト永久磁石材料も対象に含めました。ロイターは同年12月、中国がライセンスの迅速化を進めている一方、4月の制度導入後にレアアース磁石輸出が4月と5月に落ち込み、一部自動車メーカーが生産の一部停止に追い込まれたと伝えています。

ここで見落としやすいのは、メーカー自身の磁石調達だけがリスクではない点です。たとえマブチの多くの製品がフェライト化済みでも、顧客の完成品側で高性能磁石を必要とする部材が詰まれば、最終需要が鈍ります。車載や産業機器では、一つの磁石部材やセンサー、アクチュエーターが遅れるだけで組み立て全体が止まることがあります。つまりマブチにとってのリスクは、自社材料コストだけでなく、顧客サプライチェーン全体の停滞でもあります。

注意点・展望

注意したいのは、「代替材料に置き換えた」を、そのまま「希土類問題は終わった」と読むことです。実際には、用途ごとの性能要件で置き換え可能性は大きく異なります。フェライトで十分なモーターもあれば、寸法、重量、熱、騒音の条件から希土類磁石が残る製品もあります。

今後の見通しとしては、二つの流れが続きそうです。第一に、量産小型モーターでは、コスト安定性を優先したフェライト化や磁石使用量の削減がさらに進む可能性があります。第二に、ロボット、電動モビリティ、医療など高性能用途では、希土類を完全になくすより、使用量を減らす設計やライセンス調達の安定化が現実的な解になります。マブチの競争力は、無希土類を掲げることそのものより、「どの用途ならフェライトで勝てるか」を見極める設計力にあります。

まとめ

マブチモーターがレアアース問題に比較的強いのは、主力の小型量産モーターでフェライト磁石を広く使いこなしているためです。年産14億個規模の事業で、その土台が希土類依存の薄い設計に移っていれば、中国規制の直撃はかなり和らぎます。

ただし、高性能・小型化用途ではレアアース磁石のモデルが残っており、顧客側の部材不足も無視できません。したがって今回の論点は「脱レアアース達成」ではなく、「大量量産帯では代替が進み、高付加価値帯では依存が残る」という見取り図で捉えるのが適切です。

参考資料:

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