旧マルハニチロが「Umios」に社名変更、新社長で第三の創業へ
はじめに
2026年3月1日、日本の水産・食品業界に大きな転換点が訪れました。国内最大手の水産食品企業であるマルハニチロが、「Umios株式会社(ウミオス)」へと社名を変更したのです。同時に、本社を東京都江東区豊洲から港区の高輪ゲートウェイシティへ移転。さらに4月1日付では安田大助氏が新社長に就任し、6年ぶりのトップ交代も実施されます。1880年の創業から145年以上の歴史を刻んできた老舗企業が、なぜ今このタイミングで社名まで変える大改革に踏み切ったのか。その背景と狙いを多角的に解説します。
「Umios」に込められた意味と社名変更の背景
海・ひとつ・解決を融合した造語
新社名「Umios(ウミオス)」は、創業の原点である「umi(海)」、チームの一体感を表す「one(ひとつ)」、そして社会課題の解決を意味する「solutions(解決)」を組み合わせた造語です。新たなパーパス(存在意義)として「For the ocean, for life」を掲げ、「海を起点に、食を通じて人と地球の健康を守るソリューション企業」への変革を目指すとしています。
この社名変更は2025年3月24日に正式発表されました。池見賢社長(当時)は「今変わらなければ我々に未来はない」と強い危機感を表明し、全国約40拠点を自ら巡回して社員との対話を重ねたうえで決断に至ったと語っています。
「第三の創業」と位置づけ
同社はこの変革を「第三の創業」と位置づけています。第一の創業は1880年、鮮魚仲買・運搬業としてマルハの前身が誕生した時。第二の創業は2007年、マルハとニチロが経営統合してマルハニチロが誕生した時です。そして今回の社名変更が第三の創業にあたります。
マルハは1880年に山口県下関で創業し、遠洋漁業や捕鯨業で成長。一方、ニチロは1907年にロシア近海でのサケ漁と缶詰製造で事業を拡大しました。両社は2007年10月1日に経営統合し、マルハの「海外からの水産物調達力」とニチロの「商品開発力」を掛け合わせた総合食品企業として再出発しました。しかし統合から約20年が経過し、水産業界を取り巻く環境は大きく変化しています。気候変動による漁獲量の変動、世界的なたんぱく質需要の増大、そしてサステナビリティへの社会的要請の高まりなど、従来の延長線上では立ち行かない課題が山積しているのです。
中期経営計画「For the ocean, for life 2027」
社名変更と同時に策定された中期経営計画「For the ocean, for life 2027」では、2026年度から2028年度までの3年間で6つの戦略を柱に掲げています。具体的には、(1)バリューサイクルの構築、(2)グローカル戦略の推進、(3)「挑戦」と「共創」の企業文化の醸成、(4)安定的なキャッシュ創出、(5)収益性と資本効率の向上、(6)積極的な成長投資です。水産資源の調達から加工・販売までの一貫した価値連鎖を強化しつつ、グローバルとローカルの両面から事業を拡大する方針が示されています。
新経営体制と「ワンチーム」の挑戦
安田大助新社長の人物像
4月1日付で社長に就任する安田大助氏は、1961年9月2日生まれの64歳。神奈川県出身で、1985年4月にマルハの前身である大洋漁業に入社しました。水産畑を長く歩み、2014年4月にはマルハニチロの水産第一部長に就任。その後、2020年4月に執行役員、2022年4月に常務執行役員、2025年4月に専務執行役員へと昇進し、2025年6月には取締役に選任されています。
食材流通部門を長く統括した経験を持ち、直近ではマーケティング部門長として事業間の連携強化に取り組んできました。まさに水産ビジネスの現場を熟知した「たたき上げ」の人材といえます。
CEO・COO体制の新設
今回の社長交代では、単なるトップの入れ替えにとどまらない構造的な変革が行われます。池見賢氏が代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に就任し、安田氏が代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)に就任する「CEO・COO体制」が新設されるのです。
池見CEOはグループ経営全体の監督とガバナンス強化を担い、安田COOはグループの経営戦略立案、事業ポートフォリオの管理、投資判断などの業務執行を担当します。これにより、経営の監督機能と執行機能を明確に分離し、意思決定のスピードと質の向上を図ります。社長交代は2020年以来6年ぶりのことです。
「ワンチームで動く」宣言
安田新社長は3月2日に東京都内で行った記者会見で、Umiosの社名に含まれる「one」の精神を重視する姿勢を鮮明にしました。「既存事業や国、グループ企業の枠を超え、個人個人の力を掛け合わせて新たな力を生み出す流れを作りたい」と述べ、組織の壁を越えた「ワンチーム」での経営を宣言しています。
また、「多様なたんぱく質と健康でおいしい食を安定的に届けることを責務とし、変化を恐れず挑戦を受け入れる組織を築く」とも語り、安定供給の責任を果たしながらも変革に挑む決意を示しました。池見新会長との関係については「100年に一度の変革期を二人三脚で乗り越える」と表現しており、CEO・COOの役割分担を活かした経営を進める方針です。
本社移転とグループ再編
社名変更と同日の3月1日付で、本社を東京都江東区豊洲から港区の高輪ゲートウェイシティへ移転しました。高輪ゲートウェイシティは「100年先の心豊かなくらしのための実験場」をコンセプトとする新たな都市開発エリアであり、KDDIなど他の大手企業も本社を構えています。同社はこの新拠点で多様なパートナーとの協業を通じ、「食の新たな可能性」に挑むとしています。
さらに、グループ会社の社名変更も2027年3月末までに順次進められます。物流子会社はUmiosロジ株式会社へ、技術系子会社はUmiosテック株式会社へと名称を変更するなど、グループ全体でのブランド統一が図られています。
注意点・今後の展望
社名変更は企業変革の象徴的な施策ですが、それだけで企業価値が向上するわけではありません。株式市場の反応を見ると、社名変更発表翌日こそ株価は上昇したものの、その後は売り圧力に押される展開となり、市場は変革の成否に対してまだ「半信半疑」の状態にあるようです。
過去の日本企業の社名変更事例を振り返ると、株価が5倍以上になった成功例がある一方、ブランド認知度の低下によって伸び悩んだ例もあります。「マルハニチロ」は一般消費者にも広く認知されたブランドであり、「Umios」への移行期間中にどれだけスムーズにブランド浸透を図れるかが重要なポイントとなるでしょう。
一方、SNS上では比較的肯定的な反応も見られ、製品への愛着から投資する「ファン株主」の存在も指摘されています。また、同社が掲げる「海を起点としたソリューション企業」という方向性は、世界的な食料安全保障やサステナビリティの潮流とも合致しており、中長期的には追い風となる可能性があります。
安田新社長のリーダーシップのもと、「ワンチーム」の精神がグループ全体にどこまで浸透するか。そして中期経営計画「For the ocean, for life 2027」で掲げた成長戦略を着実に実行できるか。145年の歴史を持つ老舗企業の「第三の創業」は、まさにこれからが正念場です。
まとめ
マルハニチロは2026年3月1日付で「Umios株式会社」に社名を変更し、本社を高輪ゲートウェイシティへ移転しました。新社名には「海(umi)」「ひとつ(one)」「解決(solutions)」の意味が込められ、海を起点としたソリューション企業への変革が宣言されています。4月1日には安田大助氏が新社長に就任し、池見賢会長との「CEO・COO体制」で経営の監督と執行を分離。安田新社長は「ワンチームで動く」方針を掲げ、組織の壁を越えた協働を推進する考えです。1880年の創業、2007年の経営統合に続く「第三の創業」として、145年の歴史を持つ水産大手が新たな一歩を踏み出しました。
参考資料
- マルハニチロ 新社名「Umios株式会社」発表(公式プレスリリース)
- マルハニチロは、Umiosへ。社名変更特設サイト
- 安田Umios新社長、食品の安定供給に責務 - 時事ドットコム
- Umios 100年に一度の変革期 二人三脚で新たな一歩へ - 食品新聞
- Umiosに社名変更のマルハニチロ 次期社長に安田大助氏 - 食品新聞
- マルハニチロが「Umios」に 本社移転、6年ぶりの社長交代へ - 毎日新聞
- 「今変わらなければ我々に未来はない」社長が明かすUmiosへの社名変更の真意 - PRESIDENT Online
- マルハニチロは「Umios」に…なぜ社名変更が相次ぐのか? - JBpress
- マルハニチロが「Umios」に社名変更、本社も高輪に移転 - 財界オンライン
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