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by nicoxz

南鳥島沖でレアアース泥の回収に成功、産業化へ

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はじめに

内閣府と海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2026年2月2日、小笠原諸島・南鳥島沖の水深約6,000メートルの海底から、レアアース(希土類)を含む泥の引き揚げに成功したと発表しました。地球深部探査船「ちきゅう」を使った今回の試験は、世界でも前例のない深海からの資源回収への挑戦です。

レアアースは電気自動車(EV)のモーターや風力発電機、スマートフォンなど、現代社会に不可欠な製品に使われる重要資源です。しかし、その生産は中国が世界の約7割を占めており、地政学リスクへの懸念が高まっています。

この記事では、今回のレアアース泥回収成功の意義、南鳥島周辺の資源ポテンシャル、そして産業化に向けた課題と展望について詳しく解説します。

世界初の深海レアアース回収への挑戦

探査船「ちきゅう」による試験

今回の試験は2026年1月11日から2月14日にかけて、南鳥島排他的経済水域(EEZ)内の水深約6,000メートルの海域で実施されました。JAMSTECが運用する地球深部探査船「ちきゅう」が、海底からレアアースを含む泥(レアアース泥)を引き揚げることに成功しました。

松本洋平文部科学大臣は2月1日、自身のSNSで「本日、文部科学省が所管する海洋開発研究機構の探査船『ちきゅう』を用いて、水深6000mからレアアース泥を揚泥することに成功したと一報がありました」と発表しています。

「ちきゅう」は全長210メートル、総トン数57,087トンの巨大な探査船で、科学掘削における世界最高の掘削能力を持っています。2012年には海面からの深さ7,740メートルという掘削世界記録を樹立しており、深海探査のパイオニアとして知られています。

試験の目的と内容

今回の試験の目的は、レアアース泥の本格的な採掘そのものではありません。揚泥管や採掘機器を水深6,000メートルの海底まで降下・接続し、採掘機を海底に貫入させる一連の動作を検証することが主な狙いでした。

この水深での採掘試験は世界でも前例がなく、日本が世界に先駆けて挑む取り組みです。試験で回収された泥は、探査船「ちきゅう」が2月15日に清水港(静岡市)に帰港した後、成分の分析が行われます。

今後のスケジュール

内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、今回の結果を踏まえ、2027年2月に1日あたり350トン規模の大規模な実証試験を計画しています。その後、2028年度以降には産業化に向けた採算性の検証や精製技術の開発へと進む予定です。

南鳥島周辺のレアアース資源

発見の経緯

南鳥島周辺のレアアース泥は、2013年に東京大学とJAMSTECの共同研究チームによって発見されました。水深約5,700メートルの深海底で、最大約6,600ppmという超高濃度のレアアースを含む堆積物が確認されたのです。

なぜ南鳥島周辺にこれほど高濃度のレアアースが集積しているのでしょうか。研究によると、この海域には太平洋を循環する深層水の流れがあり、長い年月をかけてレアアースが濃集したと考えられています。

推定埋蔵量

南鳥島周辺のEEZには、約1,600万トンのレアアースが存在すると推定されています。これは世界第3位に相当する埋蔵量です。しかも、この推定値はEEZ全体のわずか1%にあたる2,500平方キロメートルの海域を調査した結果に過ぎません。

調査が進めば、さらに多くのレアアースが発見される可能性があります。ジスプロシウムは日本の国内需要の約400年分、テルビウムは数百年から数千年分に相当するとの分析もあり、そのポテンシャルは計り知れません。

レアアース泥の特徴

南鳥島沖のレアアース泥には、ジスプロシウム、ネオジム、ガドリニウム、テルビウム、イットリウム、ユウロピウムなど6種類以上のレアアースが高濃度で含まれています。

陸上の鉱石と異なり、レアアース泥は放射性物質やヒ素などの有害物質をほとんど含みません。そのため、採掘後の精製工程で産業廃棄物の処理コストを大幅に削減できる利点があります。

レアアースの戦略的重要性

EVと再生可能エネルギーに不可欠

レアアースは現代のハイテク産業に欠かせない素材です。特に重要なのが、EVや風力発電機のモーターに使われるネオジム磁石です。

ネオジム磁石は小型でありながら非常に強力な磁力を発揮でき、EVのモーターには必須の部品となっています。さらに、高温環境でも性能を維持するために、ジスプロシウムやテルビウムといった重希土類が添加されています。

これらのレアアースは、LED照明、医療用MRI、航空宇宙産業、防衛装備品など、幅広い分野で使用されています。脱炭素社会の実現に向けて、レアアースの需要は今後も増加し続けると予測されています。

中国依存のリスク

世界のレアアース生産量の約7割は中国が占めています。精錬加工に至っては約9割が中国で行われており、サプライチェーンが極めて脆弱な状態にあります。

特に深刻なのが重希土類の依存度です。EVモーターの耐熱性向上に欠かせないジスプロシウムやテルビウムは、ほぼ100%を中国からの輸入に頼っています。

2025年4月、中国政府は米国との貿易摩擦への対抗措置として、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウムなど7種のレアアースの輸出規制を発動しました。この影響で、米国、欧州、日本の自動車メーカーが生産を一時停止する事態に陥りました。

日本への経済影響

野村総合研究所の試算によると、レアアース輸入が3カ月間停止した場合の経済損失は約6,600億円、1年間では2.6兆円に達するとされています。

特に打撃を受けるのは自動車産業、電子部品、風力発電、医療機器(MRI)、航空宇宙の5分野です。日本の基幹産業がレアアースに依存している現状は、経済安全保障上の大きな課題となっています。

中国依存脱却への取り組み

調達先の多様化

日本は2010年の尖閣諸島問題を契機に、レアアースの調達多様化を進めてきました。中国への依存度は2010年の89.8%から2024年には62.9%まで低下しています。

総合商社の双日と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、オーストラリアのレイナス社に出資し、重希土類の最大65%を日本向けに供給する契約を締結しました。また、2025年3月には岩谷産業とJOGMECがフランスのカレマグ社と提携し、重希土類について日本需要の20%相当の供給を確保しています。

使用量削減技術の開発

日本企業はレアアースの使用量を削減する技術開発も進めています。トヨタ自動車は「省ネオジム耐熱磁石」を開発し、ジスプロシウムやテルビウムを使わずに、ネオジムの使用量も最大50%削減することに成功しました。

プロテリアルは重希土類フリーのネオジム磁石を開発し、2026年4月には量産対応可能になる予定です。さらに、レアアースを一切使わないフェライト磁石モーターの実用化も2030年代前半に目指しています。

国産資源開発の意義

しかし、調達多様化や使用量削減だけでは限界があります。国産資源の確保は、供給途絶リスクへの根本的な対策として重要な意味を持ちます。

南鳥島沖のレアアース泥開発が成功すれば、日本は資源輸入国から資源保有国へと転換する歴史的な一歩を踏み出すことになります。

産業化への課題と展望

技術的課題

水深6,000メートルという深海での資源採掘は、技術的に極めて難易度が高い挑戦です。高い水圧に耐える採掘機器の開発、長大な揚泥管の安定した運用、海底での正確な位置制御など、解決すべき課題は山積しています。

今回の試験は、これらの技術的課題をクリアするための第一歩です。2027年の大規模実証試験で本格的な採掘技術を確立し、その後の産業化につなげる計画です。

経済性の壁

もう一つの大きな課題が経済性です。深海からの採掘には莫大なコストがかかり、現状では中国産のレアアースと価格で競争することは困難です。

しかし、政府は経済安全保障の観点から、採算を度外視してでも国産資源の確保を優先する姿勢を示しています。国家プロジェクトとして継続的な投資を行い、技術革新によるコスト削減を目指す方針です。

環境への配慮

深海生態系への影響も慎重に検討する必要があります。採掘活動が深海の環境にどのような影響を与えるのか、科学的な調査と評価が求められます。

JAMSTECは環境影響評価を並行して進めており、持続可能な方法での資源開発を目指しています。

まとめ

南鳥島沖でのレアアース泥回収成功は、日本の資源安全保障にとって画期的な出来事です。世界初の深海レアアース採掘に向けて、着実に技術的なステップを踏んでいます。

中国への依存度が高いレアアースの国産化は、日本の産業競争力と経済安全保障に直結する課題です。今後の大規模実証試験、そして2028年度以降の産業化に向けた取り組みが注目されます。

深海資源開発という新たなフロンティアへの挑戦は、日本が資源小国から脱却するための重要な一歩となるかもしれません。

参考資料:

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