三菱地所が丸の内賃料を強気に引き上げる背景と今後の展望
はじめに
東京・丸の内エリアのオフィス賃料が上昇を続けています。三菱地所の中島篤社長は、丸の内のオフィス賃料について「まだ上がる」との見通しを示しました。入居企業との交渉では、ほぼ全ての企業が5〜20%の賃料増額に応じているとされ、今後は20%超の引き上げも視野に入れているといいます。
丸の内は日本を代表するビジネス街であり、三菱地所が「大丸有(大手町・丸の内・有楽町)」エリアの大部分を所有・管理しています。空室率が極めて低い水準にあるなか、賃料の上昇余地はどの程度あるのでしょうか。本記事では、丸の内オフィス市場の現状と三菱地所の戦略、そして今後の見通しを独自調査に基づいて解説します。
丸の内オフィス市場の現状:空室枯渇時代の到来
都心5区の空室率は歴史的低水準
東京都心のオフィス市場は、コロナ禍からの回復を経て「空室枯渇時代」と呼ばれる状況に突入しています。不動産サービス大手JLLのレポートによると、2025年第3四半期末時点の東京都心5区におけるAグレードオフィスの空室率は0.9%を記録しました。空室率が0%台となるのは、コロナ前の2019年(0.6%)以来のことです。
2026年2月時点でも、東京都心5区の平均空室率は2.20%と低水準を維持しています。特に丸の内エリアは、三菱地所が管理するオフィスビルの空室率が2025年9月末時点で1.48%と、ほぼ満室に近い状態です。
賃料は右肩上がりの上昇トレンド
空室の逼迫を背景に、オフィス賃料も上昇基調が鮮明になっています。都心5区の平均募集賃料は2026年1月時点で21,648円/坪に達し、2023年6月の19,838円/坪から継続的に上昇しています。
さらに、丸の内・大手町・有楽町・内幸町エリアに限ると、平均募集賃料は2014年10月以降で初めて50,000円/坪を超えました。Aグレードオフィスの月額坪当たり平均賃料は37,042円で、前年比7.5%増となっています。これは企業がオフィスを「経費」ではなく「投資」と捉える流れが定着してきたことを示しています。
三菱地所の賃料引き上げ戦略
「20%超」の賃料増額も視野に
三菱地所の中島篤社長は、丸の内エリアでの賃料交渉について強気の姿勢を示しています。直近の交渉では、丸の内のオフィスに入居するほぼ全ての企業が5〜20%の賃料増額に応じたとのことです。物価高やオフィス市況の好調さを踏まえ、今後は20%を超える水準の賃料引き上げも狙う方針です。
注目すべきは、同社が「空室率と賃料のバランス」について社内で議論を重ねている点です。空室率が多少上がったとしても、賃料レベルの引き上げを優先するという判断は、丸の内の圧倒的なブランド力と立地の優位性に対する自信の表れといえます。
好調な業績が戦略を裏付け
三菱地所の2026年3月期第3四半期決算は、営業収益が前年同期比15.5%増の1.21兆円、営業利益が同16.9%増の2,273億円と大幅な増収増益を達成しました。純利益は前年同期比48.0%増の1,565億円と大きく伸長しています。
通期の経常利益予想も従来の2,700億円から2,750億円に上方修正され、3期ぶりに過去最高益を更新する見通しです。年間配当も前期比3円増の46円を計画しており、株主還元も充実しています。こうした好業績が、積極的な賃料引き上げ戦略を支える基盤となっています。
丸の内NEXTステージと大規模再開発
TOKYO TORCH:日本一の高層ビル計画
三菱地所が丸の内エリアの将来に自信を持つ理由の一つが、大規模再開発プロジェクト「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」です。東京駅日本橋口前の常盤橋エリアで進むこのプロジェクトは、総敷地面積約3.1ヘクタール、延べ床面積約74万平方メートルという、東京駅周辺で最大規模の複合開発です。
中核となるTorch Tower(トーチタワー)は高さ約390メートルで、完成すれば日本一の高層ビルとなります。2027年度の竣工を目指して建設が進んでおり、2026年1月時点で地上約52メートルまでの大型斜め柱の建て方工事が完了しています。オフィスフロアは7〜52階に設けられ、53〜58階にはラグジュアリーホテル、59〜60階には高級賃貸住宅、61階以上には展望施設が計画されています。
「丸の内NEXTステージ」構想の推進
三菱地所グループは、大手町・丸の内・有楽町エリアにおけるまちづくりを「丸の内NEXTステージ」と位置付けています。この構想では、建替えやリニューアルを通じた「街まるごとバリューアップ」、テナント企業の声をまちづくりに反映する「街まるごとアンケート」、オープンスペースを活用した「街まるごとウェルビーイング」という3つの重点施策を推進しています。
丸の内における三菱地所グループ所管ビルの約7割は、丸ビル以降の再開発ビルです。継続的な建替えとリニューアルにより、エリア全体の付加価値を高め、テナント企業の満足度向上と賃料引き上げの両立を図っています。
注意点・今後の展望
2026年以降の供給リスクに注意
丸の内オフィス市場の先行きには、いくつかの留意点があります。まず、2026〜2027年は新規供給が比較的少ないため、空室率の低下と賃料上昇が続くと見込まれています。日本不動産研究所の予測では、募集賃料は今後3年間で11.5%の上昇が見込まれ、賃料は前年比3%前後の上昇ペースが続く見通しです。
一方、2029年前後には再開発プロジェクトの竣工が集中する可能性があり、空室率が一時的に上昇する局面も想定されます。ただし、JLLのレポートによると、開発プロジェクトの延期・見直しが相次いでおり、2028年末まで空室率0%台が維持される可能性もあるとのことです。
テナント企業への影響
賃料の大幅な引き上げは、入居企業のコスト増加に直結します。特に中堅企業にとっては、20%を超える賃料増額は経営への影響が大きいでしょう。三菱地所自身も「入居企業の増床ニーズに応えきれない状況は望ましくない」と認識しており、賃料引き上げと空室率のバランスを慎重に見極める姿勢を示しています。
丸の内のオフィスは「経費」から「投資」へと位置付けが変わりつつあります。企業が丸の内に拠点を構えることで得られるブランド価値や人材獲得の優位性を考えれば、一定の賃料上昇は許容されるという見方もあります。
まとめ
三菱地所が丸の内オフィス賃料のさらなる引き上げに強気な姿勢を示す背景には、空室率1%台という需給の極端な逼迫、好調な業績、そしてTOKYO TORCHをはじめとする大規模再開発による将来への投資があります。
都心のオフィス市場は「空室枯渇時代」に突入しており、特に交通利便性の高い丸の内エリアでは賃料上昇トレンドが当面続く見通しです。テナント企業にとっては、賃料コストの上昇に備えた戦略的な判断が求められる局面といえるでしょう。オフィス移転やスペース最適化を検討している企業は、今後の賃料動向を注視しつつ、早めの意思決定が重要になります。
参考資料:
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