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by nicoxz

三菱重工、旧MRJの「遺産」に好機到来

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はじめに

世界で航空機の需給が逼迫し、修理ニーズが高まっています。米ボーイングは品質問題で減産を余儀なくされ、欧州エアバスも機体異常で供給が遅れているためです。こうした状況を背景に、三菱重工業は米国の修理子会社「MHIRJアビエーショングループ」の人員を2026年度にも1割増やす計画を発表しました。かつて目指していた国産初のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の開発は中止となりましたが、その過程で買収したカナダ・ボンバルディアのCRJ事業が、思わぬ形で「遺産」として生きています。本記事では、航空機修理需要の高まりの背景、三菱重工の戦略、そして航空業界全体への影響について詳しく解説します。

航空機修理需要の急増

ボーイングの品質問題と減産

米ボーイングは、2024年1月のアラスカ航空の事故以降、737MAX型機の胴体パネルの品質問題で減産を余儀なくされています。米当局は同型機の生産に上限を設けていますが、ボーイングはその水準にも達していない状況です。

ボーイングは世界の航空機市場で約45%のシェアを持つ巨大メーカーですが、品質問題の連続により信頼性が低下し、生産能力も大幅に制約されています。複数の航空会社が737MAX型機に依存していることから、米国の航空会社が受領する航空機は1年前の計画より32%減少する見込みで、航空会社の運航スケジュールにも影響が出ています。

エアバスの供給遅延

欧州エアバスも機体異常を受け生産計画を引き下げています。エンジンメーカーRTXは、プラット&ホイットニーのエンジン検査のため、2024年上半期に最大650機のエアバスA320neo機が運航停止になる可能性があると発表しました。

エアバスは数年先までほぼ完売状態で、ボーイングと同様に生産量を新型コロナウイルス禍前の水準へと再び引き上げることに苦慮しています。世界の航空機の7割を占める主流の単通路型小型機の受注残は1万機と過去最高で、受注解消に10年かかる事態となっています。

修理ニーズの高まり

新型機の供給が遅れる中、航空会社は既存機材を長期間使い続ける必要があります。これにより、修理・整備の需要が急増しています。ユナイテッド航空、デルタ航空、アメリカン航空の修理費用は2023年に2019年比で40%増加しました。

航空会社にとって、機材を運航可能な状態に保つことは死活問題です。新型機の納入が遅れるほど、修理・整備の重要性が増し、修理事業者への需要が拡大します。

三菱重工のCRJ修理事業拡大

MHIRJアビエーショングループの人員増強

三菱重工業は、2020年にカナダのボンバルディアから約590億円で買収した小型旅客機「CRJ」事業を手掛ける子会社「MHIRJアビエーショングループ」の人員を2026年度にも1割増やす計画です。

MHIRJは、米国とカナダの4カ所のサービス拠点でCRJシリーズの保守、顧客サポート、販売、型式証明などを継承しています。今回の人員増強により、増加する修理需要に迅速に対応する体制を整えます。

格納庫の拡張

MHIRJはサービス拠点の拡張で2つの格納庫を整備し、1年半後をめどに運用を始める予定です。この拡張により、一度に受け入れられる機数を最大20機に増やす計画です。

格納庫の拡張は、修理作業の効率化とキャパシティ増強に直結します。航空会社は機材を修理に出す際、できるだけ短期間で作業を完了してもらいたいと考えており、格納庫の増設は顧客満足度の向上にもつながります。

CRJシリーズの市場規模

CRJシリーズは、カナダのボンバルディアが開発した小型旅客機で、50〜100席クラスのリージョナルジェットとして世界中で運航されています。主に短距離路線で使用され、地方空港と主要空港を結ぶフィーダー路線(支線)で重要な役割を果たしています。

CRJシリーズは、世界中で約1,800機が就航しており、特に北米市場で高いシェアを持っています。これらの機材が老朽化する中で、修理・整備の需要は今後も継続的に発生すると見込まれます。

旧MRJの「遺産」が生きる背景

MRJ開発の経緯と中止

三菱重工は、国産初のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の開発を2008年に開始しました。後に「スペースジェット」に改称され、70〜90席クラスの小型旅客機として市場投入を目指しましたが、開発遅延が相次ぎ、2023年2月に開発中止を発表しました。

開発中止の理由は、技術的な課題、型式証明取得の難航、新型コロナウイルス禍による航空需要の減少など、複合的な要因によるものでした。総投資額は約1兆円に達し、三菱重工にとって大きな痛手となりました。

CRJ事業買収の戦略的意義

三菱重工は、MRJ開発の一環として、2019年にボンバルディアのCRJ事業を買収しました。当初の狙いは、CRJシリーズの顧客基盤とサービスネットワークを活用し、MRJの販売・サポート体制を構築することでした。

MRJの開発中止により、この戦略は実現しませんでしたが、CRJ事業そのものは三菱重工の航空機事業の重要な柱として残りました。皮肉にも、MRJ開発のために取得したCRJ事業が、現在の航空機修理需要の高まりの中で「遺産」として生きる形となっています。

インフラと人材の活用

MRJ開発の過程で、三菱重工は航空機製造・整備のインフラを整備し、技術者や整備士を育成しました。これらのインフラと人材は、CRJ事業に転用され、修理・整備事業の拡大に活かされています。

MRJ開発は中止となりましたが、その過程で蓄積された技術や経験は無駄にはなっていません。航空機産業は長期的な視点での投資が必要であり、三菱重工の取り組みは、形を変えて今後の事業基盤を支えています。

航空業界全体への影響

航空会社の経営への影響

新型機の供給遅延は、航空会社の経営を圧迫しています。新型機は燃費性能が高く、運航コストを削減できますが、納入が遅れることで、既存の燃費の悪い機材を使い続けなければなりません。

また、修理費用の増加も経営の負担となっています。ユナイテッド航空、デルタ航空、アメリカン航空の修理費用が2019年比で40%増加したことは、航空会社の収益性に直接的な影響を及ぼします。

航空遅延リスクの増大

機材不足は、航空遅延のリスクを高めます。予定していた新型機が納入されないことで、航空会社は路線の拡大や増便を見送らざるを得ません。また、既存機材の故障や整備による運休が発生しやすくなります。

航空遅延は、旅客の満足度低下や航空会社のブランドイメージ悪化につながります。特にビジネス旅客にとって、定時性は重要な選択基準であり、遅延が頻発すると顧客離れを招く可能性があります。

修理事業者への好機

一方、修理事業者にとっては、需要増加の好機となっています。三菱重工のMHIRJだけでなく、世界中の航空機修理・整備事業者が、設備投資や人員増強を進めています。

修理・整備事業は、航空機製造と比べて投資額が小さく、安定的な収益を見込めるビジネスモデルです。航空会社が既存機材を長期間使用する傾向が強まる中で、修理事業者の重要性は一層高まっています。

注意点と今後の展望

ボーイング・エアバスの生産回復の時期

航空機修理需要の高まりは、ボーイングとエアバスの供給遅延が前提となっています。両社が品質問題を解決し、生産を正常化すれば、修理需要は相対的に減少する可能性があります。

ただし、受注残が10年分に膨張している現状を考えると、供給正常化には数年を要すると見られます。その間、修理事業者は引き続き需要を取り込めるでしょう。

新興国の航空需要拡大

アジア、中東、アフリカなどの新興国では、航空需要が急速に拡大しています。これらの地域では、新型機の導入だけでなく、既存機材の修理・整備のニーズも高まっています。

三菱重工のMHIRJが、北米市場だけでなく、アジア・太平洋地域などにも事業を拡大できれば、さらなる成長が期待できます。

環境規制と航空機の長寿命化

航空業界は、環境規制の強化により、燃費性能の高い新型機への転換が求められています。一方で、機材の製造には大量の資源とエネルギーが必要であり、既存機材を適切に整備して長期間使用することも、環境負荷低減の観点から重要です。

航空機の長寿命化は、修理・整備事業者にとって追い風となります。三菱重工は、環境配慮型の整備技術や部品再利用の仕組みを開発することで、競争力を高められるでしょう。

まとめ

世界の航空機需給が逼迫する中、三菱重工業は米国の修理子会社「MHIRJアビエーショングループ」の人員を2026年度にも1割増やす計画です。ボーイングの品質問題とエアバスの機体異常により、新型機の供給が遅れ、航空会社は既存機材を長期間使用せざるを得ず、修理ニーズが急増しています。

三菱重工がカナダ・ボンバルディアから買収したCRJ事業は、当初は国産初のジェット旅客機「MRJ」の販売・サポート体制構築のためでしたが、MRJ開発中止後も航空機事業の重要な柱として機能しています。かつて目指した国産旅客機の「遺産」が、思わぬ形で生きる状況となりました。

航空会社にとっては、機材不足と修理費用増加が経営を圧迫する一方、修理事業者には好機が訪れています。三菱重工は、格納庫の拡張と人員増強により、増加する修理需要に対応し、CRJ修理事業の拡大を目指します。今後、ボーイング・エアバスの生産回復の時期や新興国の航空需要拡大、環境規制の動向が、修理事業の成長を左右する鍵となります。

参考資料:

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