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by nicoxz

限界集落発の1個100円卵がミシュラン店へ届くまで

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はじめに

岡山県の北東端、鳥取県との県境に位置する西粟倉村は、人口わずか約1,300人の小さな村です。村の面積の約95%を森林が占め、過疎化が進む典型的な中山間地域でありながら、近年は「起業の村」として全国的な注目を集めています。その西粟倉村で今、耕作放棄地を活用した平飼い養鶏が新たな地域産業として立ち上がりつつあります。

手がけるのは株式会社点々の取締役・羽田知弘氏。自動販売機すらない20世帯40人の集落を拠点に、地域の未利用資源を飼料として循環させる独自の養鶏モデルを構築しています。1個約100円のプレミアム卵はミシュラン掲載店にも供給され、過疎地から1億円規模のビジネスを目指す挑戦が始まっています。本記事では、この資源循環型養鶏の全容と、地方創生における新たな可能性を解説します。

「起業の村」西粟倉村と羽田知弘氏の挑戦

合併を拒み、自立を選んだ村

西粟倉村が転機を迎えたのは2004年の「平成の大合併」の時期でした。多くの市町村が合併に向かう中、西粟倉村は合併を拒否し、自立の道を選択します。そして掲げたのが「百年の森林構想」です。村の面積の大部分を占める森林資源を50年かけて美しい百年の森に育て、林業を再生させるという壮大なビジョンでした。

この構想を起点に、間伐材を活用した木材加工や家具製造などの事業が次々と生まれ、全国から起業志向の若者が移住するようになりました。現在までに50社を超えるスタートアップが誕生し、移住者は約220人に達しています。2024年には人口戦略会議の調査で「消滅可能性自治体」からの脱却が確認されるなど、地方創生の成功モデルとして評価されています。

住友林業から過疎地の養鶏へ

羽田知弘氏は1989年生まれ、愛知県津島市出身です。三重大学を卒業後、住友林業フォレストサービス株式会社に入社しました。その後、西粟倉村へ移住し、株式会社西粟倉・森の学校(現・株式会社エーゼログループ)に参画。事業部長として木材製品の開発販売や集客施設の立ち上げを担い、地域ビジネスの最前線で経験を積みました。

村での暮らしの中で羽田氏が着目したのが、高齢化によって増え続ける耕作放棄地と、地域のさまざまな場所で利用されずに廃棄されている資源でした。「おじいおばあと一緒に働ける事業を集落に作りたい」という思いから、2022年に合同会社セリフを設立。2024年6月には株式会社点々を立ち上げ、同年11月に本格的な養鶏事業をスタートさせました。

資源循環型の平飼い養鶏モデル

耕作放棄地と間伐材で作る鶏舎

点々の養鶏の特徴は、地域の未利用資源を徹底的に活用している点にあります。鶏舎は耕作放棄地を再生して建設され、建材には西粟倉村の豊富な間伐材が使われています。床には木材工場で発生する木屑や籾殻が敷き詰められ、鶏にとって快適な環境が整えられています。

飼育しているのは純国産鶏「後藤もみじ」です。卵を産まない雄も一緒に飼育する雌雄混合飼育を行っており、自然に近い環境でストレスなく過ごせるようにしています。そのため生産される卵はすべて有精卵となります。平飼い方式により、鶏は地面の上を自由に歩き回り、本来の行動パターンに近い生活を送ることができます。

地域の「捨てられるもの」が飼料になる

この養鶏モデルの核心は、飼料の自家配合にあります。地域で利用されずに捨てられていた資源を鶏の餌として活用する仕組みです。具体的には、調理で発生する野菜くず、草刈りで切り捨てられていた青草、出荷できない規格外の米や野菜、コイン精米機に溜まった米糠、さらには酒粕なども飼料に組み込まれています。

これらの未利用資源を独自に配合した発酵飼料を鶏に与えることで、あっさりしながらも味わい深い卵が生まれます。そして鶏の糞は堆肥化され、田畑の肥料として活用されます。その肥料で育てた米の生産販売も始まっており、「鶏が介在することで未利用資源が循環する地域社会」というコンセプトが実現されています。

1個100円のプレミアム卵

こうして生まれた平飼い有精卵は、1個約100円という価格で販売されています。一般的なスーパーの卵が1個20〜30円程度であることを考えると、約3〜5倍の付加価値がついていることになります。しかし、自然に近い環境で育ち、地域資源を活用した独自の発酵飼料で育った鶏の卵には、それだけの品質と物語があります。

2025年1月からは全国販売も開始されました。卵単体だけでなく、自社生産の米やオリジナル開発の出汁しょうゆを詰め合わせた「卵かけご飯セット」なども販売しており、ECサイトを通じて消費者に直接届けています。また、岡山県西粟倉村のふるさと納税返礼品として「平飼い有精卵40個の定期便」も提供されており、新たな販路を開拓しています。

ミシュラン掲載店への供給と事業拡大

食のプロが認めた品質

点々のプレミアム卵は、食材にこだわる飲食店やホテルからも高い評価を受けています。飲食店向けに無料サンプルの限定配布を行ったところ、その品質の高さが注目を集め、ミシュラン掲載店への供給が実現しました。限界集落で生まれた卵が、日本を代表する名店のキッチンで使われているという事実は、この事業の品質と可能性を象徴しています。

ICC KYOTO 2025のソーシャルグッド・カタパルトに登壇した際には、審査員にゆで卵とオリジナルマヨネーズが配布され、その場で品質を体感してもらう演出も行われました。フード&ドリンクアワードでは準優勝を果たしています。

相次ぐ受賞と評価

点々の取り組みは、多くのビジネスコンテストでも高く評価されています。2025年10月には、東京ミッドタウン八重洲で開催された「POTLUCK AWARD 2025」において、「20世帯40人の集落発、世界へ届けるマイクロエリアブランド・点々」というテーマでグランプリを受賞しました。

さらに同年11月には「岡山イノベーションコンテスト2025」で、新規性や成長可能性が評価されグランプリとオーディエンス賞をダブル受賞しています。地域の未利用資源を餌に生かし、鶏糞は肥料にするという資源循環型のモデルと、過疎地でも高い収益性を実現できる農業の新しいかたちが、各方面から注目されています。

注意点・展望

過疎地養鶏モデルの課題

資源循環型の平飼い養鶏は理想的なモデルに見えますが、課題もあります。平飼い方式はケージ飼いに比べて生産効率が低く、1羽あたりの飼育面積も多く必要です。また、地域の未利用資源を飼料にする方法は、安定的な供給量の確保が課題となる可能性があります。季節による飼料原料の変動にどう対応するかも、今後の事業拡大において重要なポイントです。

1億円ビジネスへのロードマップ

羽田氏は過疎地で1億円規模の事業を目指すビジョンを掲げています。卵と米の販売だけでなく、2027年には宿泊施設、2028年には飲食施設の開業を計画しており、半径1km以内の集落に経済効果をもたらす「マイクロエリアブランド」の構築を進めています。養鶏を起点に、食・宿・体験を組み合わせた複合的な地域ビジネスへの発展が期待されます。

このモデルが成功すれば、全国に広がる耕作放棄地の活用策として、他の中山間地域にも応用できる可能性を秘めています。

まとめ

株式会社点々が岡山県西粟倉村で展開する資源循環型の平飼い養鶏は、過疎地の課題を逆手に取った革新的なビジネスモデルです。耕作放棄地を鶏舎に、間伐材を建材に、地域の未利用資源を飼料に転換することで、1個100円のプレミアム卵を生み出し、ミシュラン掲載店にまで供給するブランドを確立しつつあります。

人口1,300人の村の、わずか20世帯40人の集落から始まったこの挑戦は、過疎地における新しい農業と地域経済の可能性を示しています。今後の宿泊・飲食施設の開業計画を含め、「限界集落発のマイクロエリアブランド」がどこまで広がるのか、注目に値する取り組みです。

参考資料:

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