日産NX8が中国で登場、EV・EREV両対応の新型SUV
はじめに
日産自動車の中国合弁ブランド「東風日産」が、新型SUV「NX8」の予約販売を開始しました。2026年4月に正式発売予定のこのモデルは、純電動(BEV)に加え、小型エンジンで発電しながら走行するレンジエクステンダー(EREV)タイプも用意しています。
中国の自動車市場ではBYDや理想汽車(Li Auto)などの地場メーカーが急成長しており、日系メーカーのシェアは縮小傾向にあります。NX8は日産が中国市場で巻き返しを図る重要な一手です。その技術的特徴と市場戦略を詳しく見ていきます。
NX8の技術仕様と特徴
車体デザインとサイズ
NX8は日産の新エネルギー車ブランド「N」シリーズ初のSUVモデルです。全長4,870mm、全幅1,920mm、全高1,680mm、ホイールベース2,917mmというミッドサイズSUVのボディサイズを持ち、同社の既存モデル「エクストレイル」を上回るサイズ感です。
フロントフェイスには横一文字のLEDヘッドライトが採用され、フラットでクリーンなデザインが特徴です。日産の新世代デザイン言語を体現するモデルとして、中国市場での注目度は高いです。
BEV(純電動)モデル
BEVモデルは73kWhと81kWhの2種類のバッテリー容量が用意されています。航続距離はCLTC基準で最長650kmを確保しており、日常使いから長距離移動まで幅広いニーズに対応します。
注目すべきは、800Vの高電圧プラットフォームと最大5Cの急速充電に対応している点です。5C充電とは、バッテリー容量の5倍の速度で充電できることを意味し、短時間での充電が可能になります。バッテリーにはCATL製のLFP(リン酸鉄リチウム)電池が採用されています。
モーターの最高出力は215〜250kW(292〜340馬力)で、力強い走行性能を実現しています。
EREV(レンジエクステンダー)モデル
NX8最大の特徴は、日産として初めてレンジエクステンダーEV(EREV)を採用したことです。EREVとは、小型のエンジンを発電専用として搭載し、その電力でモーターを駆動する仕組みです。エンジンは車輪を直接駆動せず、あくまで「発電機」として機能します。
EREVモデルには最高出力109kW(148馬力)の1.5リッター直列4気筒ターボエンジンと、195kW(265馬力)の電動モーターが組み合わされています。バッテリー容量は20.3kWh、21.1kWh、37.4kWhの3種類から選択可能です。
EV走行距離は20.3kWhと21.1kWhモデルで102km、37.4kWhモデルで185kmです。エンジンによる発電を加えた総合航続距離は大幅に延び、EVの航続距離に不安を持つ消費者にも訴求できる設計となっています。
中国EV市場における日産の戦略
地場メーカーの台頭と日系メーカーの苦戦
中国は世界最大の自動車市場であると同時に、EV化が最も進んだ市場でもあります。BYDや蔚来汽車(NIO)、理想汽車、小鵬汽車(XPeng)といった地場メーカーがシェアを急速に拡大しており、日系メーカーは厳しい競争環境に置かれています。
特に理想汽車はEREVの先駆者として知られ、「理想ONE」で月販1万台超えを達成した実績があります。中国ではゴールデンウィークなどの大型連休に数千kmのドライブをする文化があり、航続距離への不安を解消するEREVへの需要は根強いです。
なぜEREVなのか
中国市場でEREVが急成長している背景には、充電インフラの地域格差があります。都市部では充電ステーションが充実していますが、地方部ではまだ十分に整備されていません。EREVならバッテリー切れの心配なく長距離移動が可能で、充電環境が整った都市部ではEVとして走行できます。
日産がNX8でEREVを採用したのは、この市場ニーズに応えるためです。日産は従来、e-POWER(シリーズハイブリッド)技術を持っていましたが、中国市場向けにEREVとして再構成することで、より大容量のバッテリーと長い純電動走行距離を実現しています。
「N」シリーズの展開
NX8は東風日産の「N」シリーズの一角を担うモデルです。同シリーズにはすでにセダンのN7やN6が存在し、NX8はシリーズ初のSUVとして重要な位置づけにあります。SUVは中国で最も人気の高い車種カテゴリーであり、日産のシリーズ展開において不可欠なモデルです。
NX8の生産は2026年1月28日にすでにラインオフしており、4月の正式発売に向けて準備が進んでいます。
注意点・展望
競争環境の厳しさ
NX8が成功するためには、いくつかの課題を克服する必要があります。まず、価格競争力の確保です。中国の地場メーカーはスケールメリットを活かした低価格戦略を展開しており、日産がどの価格帯でNX8を投入するかが重要な鍵を握ります。
また、ソフトウェアやコネクティビティ機能の充実も求められます。中国の消費者は車載インフォテインメントや自動運転支援機能に対する期待値が高く、ハードウェアだけでは差別化が難しい状況です。
グローバル展開の可能性
現時点でNX8は中国市場向けのモデルですが、今後の海外展開も注目されます。東南アジアや中東など、EV化が進みつつもインフラ整備が追いついていない市場では、EREVの需要が見込まれます。日産がNX8をグローバルモデルとして展開するかどうかは、中国市場での販売実績次第です。
ヒョンデやルノーなど他のグローバルメーカーもEREVモデルの投入を計画しており、このセグメントの競争は今後さらに激化する見込みです。
まとめ
日産の新型SUV「NX8」は、BEVとEREVの2つのパワートレインを持つ戦略的なモデルです。800V急速充電や5C対応といった先端技術を搭載しつつ、EREVで航続距離への不安を解消するアプローチは、中国市場の実情に即した設計です。
中国では地場メーカーの攻勢が続いていますが、日産が培ってきた電動化技術と品質への信頼を武器に、NX8がどこまでシェアを取り戻せるかが注目されます。4月の正式発売後の市場反応が、日産の中国戦略の成否を占う重要な指標となるでしょう。
参考資料:
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