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by nicoxz

EU産業促進法でEV・再エネに域内生産優遇策

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はじめに

欧州連合(EU)の欧州委員会は2026年3月4日、域内の環境技術産業を支援するための「産業促進法(Industrial Accelerator Act、IAA)」を正式に発表しました。電気自動車(EV)や太陽光・風力発電などの脱炭素分野が対象で、補助金の条件として一定比率を域内で生産することを求める内容です。

この法案は、安価な中国製品の流入に対抗し、欧州の産業競争力を強化することを主な狙いとしています。「Made in EU」基準の導入という保護主義的な色合いが強く、EU加盟国間でも意見が分かれる中での法案提出となりました。本記事では、IAA法案の具体的な内容と、国際貿易への影響を解説します。

産業促進法(IAA)の主な内容

「Made in EU」基準の導入

IAA法案の核となるのは、公共調達や政府補助金に「Made in EU」基準を組み込む仕組みです。政府が商品を購入したり企業に補助金を出す際に、一定のCO2排出基準と域内生産比率を満たすことを条件とします。

対象となる戦略的セクターは、鉄鋼、セメント、アルミニウム、自動車、ネットゼロ技術などです。特にEV分野では、部品の70%を域内で調達することが求められます。欧州委員会は、域内の製造業をGDP比20%に引き上げる目標を2035年までに達成する方針です。

EV・バッテリー分野の具体策

EV分野では、「Made in EU」規定の導入により、域内でのバッテリー生産体制の構築を加速させます。欧州委員会は18億ユーロ(約2,900億円)を投じて、域内でバッテリーを生産する企業の設備投資を支援する計画です。

ただし、現実的な移行を考慮した過渡期間も設けられています。初期段階では、アジアからのバッテリーセルを使用してEU域内でバッテリーシステムを組み立て、域内生産のバッテリー管理システムを装備すれば基準を満たすことができます。完全な域内調達への移行は段階的に進められる見通しです。

外国投資への規制強化

IAA法案は、1億ユーロ以上の外国投資にも条件を課しています。バッテリーやEVなどの「新興戦略セクター」において、世界の製造能力の40%以上を占める国からの投資に対して特別な条件が適用されます。これは事実上、中国企業を念頭に置いた規制です。

対象となる外国投資家は、6つの条件のうち4つを満たす必要があります。従業員の50%以上をEU市民とすること、関連するEU企業の持ち株比率を49%以下に抑えること、技術移転を行うことなどが含まれています。

中国への対抗策としての側面

中国製品の価格攻勢への危機感

EUがこのような保護主義的な法案を打ち出す背景には、中国製クリーンテック製品の急速な台頭があります。中国製EVやソーラーパネルは欧州製品と比べて大幅に安く、欧州の自動車メーカーや再エネ機器メーカーが苦戦を強いられています。

特にEV市場では、中国メーカーが価格競争力を武器に欧州市場でのシェアを急速に拡大しています。EUはすでに2024年に中国製EVに対する追加関税を導入していますが、IAA法案はさらに踏み込んだ対策となります。

EU内部の意見対立

法案の内容をめぐっては、EU加盟国間で深い意見の相違があります。フランスやイタリアなど自国産業の保護を重視する国は法案を支持する一方、自由貿易を重視するオランダやスウェーデンなどの北欧諸国は慎重な姿勢を示しています。

在EU中国商工会議所は「現在の法案設計は、ルールに基づく開かれた市場から排他的な保護主義システムへの転換を意味する」と批判しています。この法案が国際的な貿易摩擦を激化させる可能性も指摘されています。

日本企業・産業への影響

自動車メーカーへの影響

日本の自動車メーカーにとって、IAA法案は複雑な影響をもたらします。域内生産比率の要件を満たすためには、欧州拠点での部品調達比率を引き上げる必要があります。すでに欧州に生産拠点を持つトヨタや日産などは対応可能ですが、サプライチェーンの再編にはコストがかかります。

一方で、中国メーカーの欧州進出が規制される点は、日本メーカーにとって有利に働く可能性もあります。欧州市場での競争条件が変わることで、新たなビジネスチャンスが生まれる余地があります。

グローバルな産業政策の潮流

EUのIAA法案は、米国のインフレ抑制法(IRA)と同様に、クリーンテック分野での自国生産を促進する世界的な潮流の一部です。米国、EU、中国がそれぞれ産業補助金を拡大する中で、日本も自国の産業戦略を見直す必要に迫られています。

注意点・今後の展望

法案成立までの道のり

IAA法案は欧州委員会が提案した段階であり、今後は欧州議会とEU理事会での審議が必要です。加盟国間の意見対立が大きいことから、法案の修正が行われる可能性が高いです。成立までには数カ月から1年以上かかる見通しです。

保護主義の連鎖リスク

各国が自国産業の保護を競い合う「補助金競争」がエスカレートするリスクがあります。米国のIRA、EUのIAA、中国の産業補助金と、主要経済圏がそれぞれ保護主義的な政策を強化する中、WTO(世界貿易機関)を中心とした自由貿易体制への影響が懸念されます。

まとめ

EUの産業促進法(IAA)は、「Made in EU」基準を軸に、EV・再エネなどのクリーンテック分野で域内生産を優遇する画期的な産業政策です。中国製品への対抗策として明確な保護主義的色彩を持ち、EV部品の70%域内調達、外国投資への条件付けなど、踏み込んだ内容となっています。

法案成立までには加盟国間の調整が必要ですが、米国のIRAに続くEUの動きは、グローバルなクリーンテック産業政策の大きな転換点です。日本企業を含む各国の産業界は、新たなルールへの対応を求められることになります。

参考資料:

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