EV電池市場で中国勢シェア7割突破の衝撃
はじめに
電気自動車(EV)の心臓部とも言える車載電池市場で、中国企業の寡占がさらに進んでいます。2025年の世界市場における中国メーカーのシェアは約69%に達し、2021年の約50%弱から大幅に拡大しました。
その中心にいるのが、世界最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)です。2025年通年のシェアは39.2%に達し、8年連続で首位を独走。中国・欧州での受注拡大により最高益を更新しました。一方、主力の米国市場が逆風にさらされた韓国勢は深刻な業績悪化に見舞われています。
本記事では、EV電池市場の最新勢力図と、各プレーヤーの戦略を詳しく解説します。
CATLの圧倒的な支配力
世界シェア39%、8年連続首位
CATLは2025年の世界EV電池搭載量で39.2%のシェアを獲得し、2位以下を大きく引き離しました。搭載量は464.7GWhに達し、前年の342.5GWhから35.7%の大幅増を記録しています。世界で唯一、シェア30%を超える電池メーカーとしての地位を不動のものにしました。
CATLの強みは、幅広い製品ラインナップにあります。三元系リチウムイオン電池からリン酸鉄リチウム(LFP)電池まで、顧客のニーズに応じた多様な製品を供給できる体制を整えています。特にLFP電池は、コバルトを使わないためコストが低く、安全性にも優れることから、世界的に需要が拡大しています。
テスラからBMWまで、顧客は世界の名だたるメーカー
CATLの顧客リストには、テスラ、BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンといった世界の主要自動車メーカーが名を連ねています。加えて、中国国内ではZeekr(ジーカー)、Li Auto(理想汽車)、小米(シャオミ)など、急成長する新興EVメーカーへの供給も拡大しています。
この幅広い顧客基盤が、CATLの安定的な成長を支える大きな要因です。特定の自動車メーカーへの依存度が低いため、市場環境の変動にも強い体質を持っています。
欧州市場への積極展開
ドイツ・ハンガリーで生産拠点を稼働
CATLは欧州市場での存在感を急速に高めています。すでにドイツのチューリンゲン州に工場を稼働させているほか、ハンガリー東部のデブレツェン市には73億4,000万ユーロ(約1兆2,000億円)を投じた大規模工場を建設中です。このハンガリー工場は2025年に量産を開始し、最終的には年間100GWhの生産能力にまで拡大する計画です。
さらに、ステランティスとの合弁でスペインにも工場を建設する計画が進行中です。欧州域内での生産体制を強化することで、輸送コストの削減と、欧州の現地調達要件への対応を図っています。
新製品で攻勢を強化
2025年9月には、ドイツ・ミュンヘンで新型LFP電池「神行PRO」を発表しました。この電池は従来のLFP電池の弱点であった低温性能を大幅に改善し、欧州の寒冷地での使用にも適した仕様となっています。こうした技術的な進歩が、欧州の自動車メーカーからの信頼をさらに高めています。
CATLの2025年上半期の海外売上高は前年同期比21.1%増の612億元(約1兆2,000億円)に達し、売上高全体の34.2%を占めました。海外事業の粗利益率は29.0%で、国内の22.9%を大きく上回っており、海外展開が収益性の向上にも貢献しています。
韓国勢の苦境:米国市場の逆風
3社そろって赤字転落
韓国のEV電池大手3社であるLGエナジーソリューション、サムスンSDI、SKオンは、2025年10-12月期に一斉に営業赤字に転落しました。LGエナジーソリューションが1,282億ウォン(約140億円)、サムスンSDIが3,843億ウォン(約420億円)、SKオンが4,027億ウォン(約440億円)の営業損失を計上しています。
韓国勢の苦境の最大の要因は、主力市場である米国でのEV需要の減速です。特に、トランプ政権が2025年9月にEV購入補助金を廃止したことが大きな打撃となりました。LGエナジーソリューションが受け取る先端製造生産税額控除(AMPC)の金額も、2025年10-12月期には3,328億ウォンと大幅に減少しています。
工場建設の延期・中止が相次ぐ
米国市場の見通しの悪化を受けて、韓国勢は米国での生産拠点拡張計画を見直さざるを得なくなっています。LGエナジーソリューションは、GMとの合弁でインディアナ州に建設予定だった第4工場の計画を中止しました。SKオンも、2026年の稼働を目標としていたケンタッキー州の第2工場の建設を延期しています。
巨額の設備投資がすでに行われた段階での計画変更は、各社の財務状況をさらに圧迫する要因となっています。
ESS事業への軸足移動
韓国のバッテリー3社は、EVへの依存度を下げ、エネルギー貯蔵システム(ESS)を新たな収益の柱として育てる方針を打ち出しています。2026年の各社CEO年頭辞においても、ESSへの注力が明確に示されました。
再生可能エネルギーの普及に伴い、大型蓄電池の需要は急拡大しており、ESS市場はEV市場よりも安定的な成長が見込まれています。ただし、ESS分野でもCATLが強い競争力を持っており、韓国勢が容易に巻き返せるかは不透明です。
BYDの急成長も見逃せない
中国勢の躍進はCATLだけではありません。BYD(比亜迪)は2025年のEV電池シェアで16.4%を獲得し、2位の座を確固たるものにしています。CATLとBYDを合わせた中国2社だけで、世界市場の55%以上を占める計算です。
BYDは自社でEVの設計・製造・販売まで一貫して手がけるビジネスモデルが特徴で、特に欧州市場では2025年1-10月の電池使用量が前年同期比216%増の11.2GWhに達するなど、急速にシェアを拡大しています。
注意点・展望
EV電池市場の中国一極集中は、各国の産業政策にも大きな影響を与えています。EUは中国製EVに対する追加関税を導入するなど、中国企業の急速な進出に対する警戒感を強めています。ただし、CATLのように欧州域内に工場を建設する企業には、関税の影響は限定的です。
米国でも、インフレ削減法(IRA)によるサプライチェーンの国内回帰政策が進められていますが、トランプ政権下でのEV補助金廃止という矛盾した政策が、かえって中国勢以外の電池メーカーの競争力を弱めるという皮肉な結果を招いています。
今後注目すべきは、全固体電池の実用化です。トヨタを筆頭に日本メーカーが開発を加速しており、実用化されれば市場の勢力図が大きく変わる可能性があります。ただし、量産化には依然として技術的なハードルが高く、少なくとも2020年代後半までは現在のリチウムイオン電池が主流であり続けるとの見方が有力です。
まとめ
2025年のEV電池世界市場は、中国勢のシェアが7割に迫り、CATLの一強体制がさらに強まる結果となりました。CATLは中国国内だけでなく、欧州での生産拠点を積極的に拡大し、海外売上比率も着実に高めています。
一方、韓国の大手3社は米国市場の逆風を受けて軒並み赤字に転落し、工場建設の見直しを迫られています。EV電池のサプライチェーンを特定の国に過度に依存するリスクは、自動車メーカーにとっても各国政府にとっても重要な課題です。今後の技術革新や政策動向を注視しながら、この市場の行方を見守る必要があります。
参考資料:
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