フィジカルAI時代到来、ヒト型ロボット11兆円市場の全貌

by nicoxz

はじめに

2026年1月、米ラスベガスで開催されたCES 2026で、一つのキーワードが世界の注目を集めました。それが「フィジカルAI」です。

韓国の現代自動車グループは2028年までにAI搭載ロボットを年間3万台量産すると発表。NVIDIAのジェンスン・ファンCEOは「フィジカルAIのChatGPTモーメントが訪れた」と宣言しました。ヒト型ロボット(ヒューマノイド)が工場に本格導入される時代が、いよいよ現実のものとなりつつあります。

本記事では、フィジカルAIとは何か、主要プレイヤーの動向、そして急成長する市場の全貌について解説します。

フィジカルAIとは何か

NVIDIAが提唱した新概念

フィジカルAIという言葉は、AI技術の進化をけん引してきたNVIDIAが提唱した概念です。2025年のCESでジェンスン・ファンCEOが「フィジカルAI時代の到来」を宣言し、2026年のCESではこの流れがさらに加速しました。

従来のAIは言語、画像、音声の処理に優れていましたが、重力や慣性、因果関係といった物理的な理解には限界がありました。フィジカルAIは、AIが実世界で理解し、推論し、行動することを可能にする技術です。

ファンCEOは「フィジカルAIのChatGPTモーメントが到来した。機械が実世界を理解し、推論し、行動し始める瞬間だ」と述べています。

代表的なアプリケーション

NVIDIAがフィジカルAIの代表的なアプリケーションとして挙げるのは、自動運転車とヒューマノイドロボットです。

自動運転車については、NVIDIAは自律走行車向けAIプラットフォーム「Alpamayo」を発表しました。このプラットフォームにより、自動運転車が「人間のように思考する」ことを可能にするとしています。NVIDIAは2027年にロボタクシーサービスのテストを計画しています。

ヒューマノイドロボットについては、工場での部品仕分けや組み立て、物流、そして将来的には家庭での作業支援まで、幅広い用途が想定されています。

CES 2026で加速する競争

現代自動車グループの発表

現代自動車グループは、CES 2026で大規模なAIロボティクス戦略を発表しました。主な内容は以下の通りです。

  • 年間3万台生産体制: 2028年までに年間3万台のロボット生産体制を構築
  • Atlas商用化: 傘下のボストン・ダイナミクスが開発したヒューマノイド「Atlas」を2028年から工場に本格投入
  • 投資規模: 2030年までに韓国に125.2兆ウォン(約870億ドル)、米国に260億ドルを投資

Atlasは、現代自動車の米ジョージア州サバンナ近郊のEV製造施設に配備される予定です。2028年には部品仕分けなど安全性と品質が実証されたプロセスから導入を開始し、2030年までに部品組み立てにも拡大する計画です。

Boston Dynamics Atlasの進化

CES 2026で、ボストン・ダイナミクスは新型Atlasを初めて公開しました。ラスベガスのホテル会場で、Atlasは床から立ち上がり、流れるような動きでステージを歩き回り、観客に手を振る姿を披露しました。

ボストン・ダイナミクスのザカリー・ジャコウスキー氏は「新しいAtlasは、我々がこれまで設計した中で最も生産に適したロボットだ」と述べています。すべての部品が自動車サプライチェーンとの互換性を考慮して設計されており、現代モービスがアクチュエータを供給します。

2026年のAtlas出荷分はすでに全て予約済みで、現代自動車のロボティクス・メタプラント・アプリケーションセンター(RMAC)とGoogle DeepMindに納入予定です。

NVIDIAのエコシステム拡大

NVIDIAはCES 2026で、ロボット学習と推論のための新しいオープンモデル「NVIDIA Cosmos」と「GR00T」をリリースしました。

ボストン・ダイナミクス、キャタピラー、フランカ・ロボティクス、LGエレクトロニクス、NEURAロボティクスなど、多くのパートナー企業がNVIDIA技術を活用した新型ロボットを発表しています。

NEURAロボティクスは、ポルシェがデザインした第3世代ヒューマノイドを発表。また、スウェーデンのヘキサゴンは産業用ヒューマノイド「AEON」を公開しました。AEONは工場内で物を運び、設備を点検し、バッテリーが不足すれば自ら交換して作業に復帰する機能を持っています。

Teslaの野心的な計画

Optimusの生産拡大

Teslaもヒューマノイド市場に本格参入しています。同社のヒューマノイドロボット「Optimus」は、着実に進化を遂げています。

2025年の生産計画は、社内工場での利用を主目的に約5000台。部品ベースでは1万〜1万2000台分の生産を目指しています。

2026年には大きな転換点を迎えます。Q1にOptimus V3のプロトタイプを公開予定で、年末までに年間100万台の生産能力を持つラインの稼働を目指しています。フリーモント工場では既にパイロット生産が始まっており、2026年には10万〜30万台規模の生産を見込んでいます。

巨大工場の建設

2025年11月、Teslaはテキサス州のギガファクトリーに年間1000万台の生産能力を持つOptimus専用製造施設の建設を開始しました。この施設は2027年の本格稼働を目指しています。

イーロン・マスクCEOによると、Optimusの製造コストは現時点で1台あたり約2万ドル。販売価格は約3万ドルを想定しており、幅広い家庭や企業での導入を視野に入れています。

ただし、中国によるレアアース輸出規制が発表されており、レアアース磁石を使用するOptimus生産に影響を与える可能性があります。

市場規模と成長予測

急成長するヒューマノイド市場

ヒューマノイドロボット市場は、驚異的な成長が予測されています。

調査会社によって推計は異なりますが、主な予測は以下の通りです。

  • MarketsandMarkets: 2025年の29.2億ドルから2030年には152.6億ドルへ成長(年平均成長率39.2%)
  • ABI Research: 2025年の7000万ドルから2030年には65億ドルへ成長(年平均成長率138%)
  • Goldman Sachs: 2035年までに380億ドル規模に到達
  • Morgan Stanley: 2050年までに5兆ドル超の市場規模

日本円に換算すると、2030年代半ばには11兆円規模、2050年には700兆円を超える巨大市場となる可能性があります。

製造業が最大の需要源

ゴールドマン・サックスの調査によると、製造業がヒューマノイドロボットの最大の需要源となります。EV組み立てや部品仕分けなど、構造化された環境での利用から普及が始まると予測されています。

モルガン・スタンレーの予測では、2050年までにヒューマノイドの約90%(約9億3000万台)が、主に産業・商業目的の反復的でシンプルな作業に使用されるとしています。

中国市場の急成長

中国のヒューマノイドロボット市場は、2024年の27.6億元(約3.8億ドル)から2029年には750億元(約103億ドル)へと急成長する見込みです。これは世界市場の約33%に相当します。

2050年には中国が世界最多の3億230万台のヒューマノイドを保有し、米国の7770万台を大きく上回ると予測されています。

ビジネスモデルの変革

RaaSモデルの台頭

現代自動車は、サブスクリプション型の「ロボティクス・アズ・ア・サービス(RaaS)」モデルを導入する計画です。ハードウェアにソフトウェアアップデート、OTAアップグレード、リモートメンテナンスをバンドルして提供します。

このモデルにより、初期コストを抑え、現代自動車規模の資本力を持たない製造業者でも先進的なロボティクスを導入できるようになります。

パートナーシップの重要性

フィジカルAI時代には、技術パートナーシップが競争力の鍵となります。

現代自動車はNVIDIAとの戦略的パートナーシップを強化し、データセンター向けトレーニングチップから、ロボットに直接組み込む推論GPUへと連携を拡大しています。また、Google DeepMindとも新たなパートナーシップを締結し、AI技術の供給を受けます。

注意点・展望

技術的課題

ヒューマノイドロボットの普及には、まだ克服すべき課題があります。

iRobotの共同創業者であるロドニー・ブルックス氏は、ヒューマノイドを万能アシスタントとして捉えるマスク氏のビジョンを「純粋な空想」と批判しています。複雑な作業や予測不能な環境への対応には、まだ時間がかかるという見方です。

また、中国のレアアース輸出規制は、ロボット生産に必要なモーターやアクチュエータに影響を与える可能性があり、サプライチェーンのリスク管理が重要となります。

労働市場への影響

ヒューマノイドロボットの普及は、労働市場に大きな変革をもたらします。「危険で、汚く、単調な」作業から人間を解放する一方、雇用への影響についての議論も避けられません。

世界経済フォーラムは、ヒューマノイドロボットが破壊と可能性の両方をもたらすと指摘しています。社会全体での対応策の検討が必要です。

今後の見通し

2026年は、フィジカルAIがバズワードから本格的なトレンドへと移行する転換点となります。主要プレイヤーが量産体制の構築を進める中、2028年頃から工場への本格導入が始まる見込みです。

日本企業にとっても、自動車とロボットという得意分野でのフィジカルAI競争は重要な戦略課題となります。

まとめ

フィジカルAIとヒューマノイドロボットの時代が本格的に幕を開けました。現代自動車は年間3万台の量産体制、Teslaは年間1000万台規模の工場建設と、各社が積極的な投資を進めています。

市場規模は2030年代半ばに11兆円、2050年には700兆円を超える可能性があり、製造業を中心に社会全体を変革するインパクトを持ちます。

NVIDIAが提唱した「フィジカルAI」の概念は、AIが言葉やデータの世界から物理的な現実世界へと進出することを意味します。この変革の波に、企業も個人も備えておく必要があります。

参考資料:

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