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by nicoxz

坂本花織を支えたシスメックス、一通の手紙から始まった絆

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はじめに

2026年2月20日、ミラノ・コルティナ冬季五輪のフィギュアスケート女子シングルで坂本花織選手が銀メダルを獲得しました。合計224.90点で金メダルのアリサ・リュウ(米国)にわずか1.89点差の見事な成績です。団体戦の銀メダルと合わせ、2大会連続の個人・団体メダル獲得という快挙を成し遂げました。

この快挙の裏で注目を集めているのが、坂本選手の所属先である血液検査機器大手のシスメックスです。神戸市に本社を置く同社が坂本選手を支援し始めたきっかけは、2017年に届いた一通の手紙でした。企業とアスリートの理想的な関係を築いてきた9年間の歩みを紹介します。

一通の手紙から始まった支援

坂本選手からシスメックスへ

2017年、当時シニアに上がったばかりの坂本花織選手が、地元神戸に本社を置くシスメックスに手紙を送りました。この手紙がきっかけとなり、2017年10月にシスメックスとの所属契約が締結されます。同時に、同じく神戸出身のフィギュアスケーター三原舞依選手とも所属契約を結びました。

シスメックスは医療機器メーカーであり、フィギュアスケートとは一見無縁の業種です。しかし、本社所在地と選手の出身地が同じ神戸であるという縁を大切にし、地元で育った若いアスリートを応援するという決断を下しました。

「神戸に通年リンクを」というもう一つの手紙

坂本選手と三原選手からはもう一つ切実な訴えがありました。「神戸に通年で使えるスケートリンクがない」という内容の手紙です。フィギュアスケート選手にとって、練習環境の確保は競技生活の根幹に関わる問題です。神戸市内には当時、通年で使用できるスケートリンクが存在せず、選手たちは限られた施設をやりくりしながら練習を続けていました。

この訴えを受けたシスメックスの家次恒会長は、通年型スケートリンクの建設計画を推進しました。そして2025年6月20日、神戸市初の通年型スケートリンク「Sysmex Kobe Ice Campus」が開業しました。国際規格の60m×30mのリンクを備え、シスメックス所属選手のホームリンクとして使用されています。

シスメックスという企業

世界トップの血液検査機器メーカー

シスメックスは兵庫県神戸市に本社を置く医療機器メーカーです。血液や尿、細胞などの検体検査に必要な機器・試薬・ソフトウェアの研究開発から製造、販売までを一貫して手がけています。世界190カ国以上で事業を展開し、海外売上高比率は80%を超えるグローバル企業です。

特にヘマトロジー(血球計数)分野、血液凝固分野、尿沈渣検査分野では世界首位のシェアを誇ります。連結従業員数は約1万1000名で、医療現場を裏方から支える「縁の下の力持ち」的な存在です。

スポーツ支援への取り組み

シスメックスのフィギュアスケート支援は、坂本選手と三原選手との契約から始まりました。現在は壷井達也選手、三宅咲綺選手も加わり、「シスメックス スケートチーム」として4名の選手をサポートしています。

2024年には坂本選手の今季限りでの引退発表を受け、表参道駅に応援広告を展開しました。坂本選手が直筆でつづった「決意の手紙」を掲出する企画は、SNSでも大きな反響を呼びました。選手の競技活動だけでなく、そのストーリーを社会に届ける取り組みも行っている点が特徴的です。

坂本花織の軌跡とミラノ五輪

世界選手権3連覇の女王

坂本花織選手は神戸市出身で、4歳からスケートを始めました。2018年の平昌五輪に初出場し6位入賞、2022年の北京五輪では個人で銅メダル、団体で銀メダルを獲得しています。

世界選手権では2022年から2024年まで3連覇を達成しました。女子シングルの世界選手権3連覇は、1968年のペギー・フレミング以来56年ぶりという偉業です。大技に頼らず、完成度の高い演技で勝負するスタイルが評価されてきました。

ミラノ五輪での有終の美

2025年6月、坂本選手は2025-26シーズン限りでの現役引退を表明しました。最後の五輪となるミラノ・コルティナ大会では、ショートプログラムで77.23点の2位につけ、フリーでは147.67点をマーク。合計224.90点で銀メダルを獲得しました。

金メダルのアリサ・リュウとの差はわずか1.89点。坂本選手は「完璧にできなかった分が優勝を逃した点数分」と振り返りつつも、「自分を褒めてあげたい」と涙ながらにコメントしました。北京五輪の銅から銀へとメダルの色を上げての引退は、まさに有終の美です。

さらに、17歳の中井亜美選手が銅メダルを獲得し、日本女子フィギュアスケート史上初の五輪ダブル表彰台という快挙も達成されました。

注意点・今後の展望

企業スポーツ支援のあり方

シスメックスと坂本選手の関係は、企業によるアスリート支援の理想的なモデルケースとして注目されます。単なるスポンサーシップにとどまらず、選手の手紙をきっかけに関係が始まり、練習環境の整備にまで踏み込んだ支援は、他の企業にとっても参考になるでしょう。

坂本選手の引退後も、シスメックスのフィギュアスケート支援は続きます。三原舞依選手や壷井達也選手、三宅咲綺選手が在籍しており、Sysmex Kobe Ice Campusを拠点とした選手育成と競技普及が今後の課題です。

神戸とフィギュアスケートの未来

通年型リンクの誕生により、神戸は国内有数のフィギュアスケート拠点としての基盤を得ました。一般利用も可能で、高校生以上1400円、中学生以下750円で利用できます。トップ選手と同じリンクで一般の人々がスケートを楽しめる環境は、競技の裾野拡大にもつながります。

まとめ

坂本花織選手のミラノ五輪銀メダル獲得の裏には、2017年から9年にわたって支え続けたシスメックスの存在がありました。一通の手紙から始まった関係は、所属契約、通年型スケートリンクの建設、応援広告と発展を重ね、企業とアスリートの理想的なパートナーシップを築き上げました。

坂本選手は今季限りで現役を引退しますが、シスメックスが蒔いたフィギュアスケート支援の種は、Sysmex Kobe Ice Campusとともに神戸の地で育ち続けます。企業の地域貢献とスポーツ支援が結びついた好例として、今後も多くの示唆を与えてくれるでしょう。

参考資料:

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