春闘賃上げ率5.26%、中小も5%超で人材争奪が加速
はじめに
2026年春季労使交渉(春闘)の第1回回答集計が3月23日に公表されました。ベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は平均5.26%となり、3年連続で5%台の高水準を維持しています。前年の初回集計時(5.46%)からは0.20ポイント低下したものの、歴史的な賃上げの流れは衰えていません。
特に注目すべきは、組合員300人未満の中小企業の賃上げ率が5.05%と、2年連続で5%台に乗せた点です。深刻化する人手不足を背景に、大企業だけでなく中小企業にも賃上げの波が確実に広がっています。本記事では、2026年春闘の回答状況と中小企業の賃上げ動向、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
大手企業で満額回答が相次いだ集中回答日
自動車業界は全社満額という歴史的結果
3月18日の集中回答日では、大手製造業を中心に労働組合の要求に満額で応じる企業が相次ぎました。とりわけ自動車業界では、トヨタ自動車が6年連続で満額回答を出したことに加え、自動車メーカー11社すべてが満額もしくは要求を上回る回答を示しました。全自動車メーカーがそろって満額回答するのは統計開始以来初めての快挙です。
米国のトランプ政権による関税政策の不透明感など、自動車業界にとって逆風ともいえる環境にもかかわらず、各社が「人への投資」を緩めなかった点は特筆に値します。企業が短期的な業績リスクよりも、中長期的な人材確保を優先する姿勢が鮮明になりました。
電機業界も高水準のベースアップを実現
電機大手でも高水準の回答が続きました。基本給を底上げするベースアップについて、月額1万8,000円の統一要求に対し、日立製作所、三菱電機、NEC、富士通、パナソニックホールディングスなど主要各社が満額で応じています。
電機連合傘下の各労組は、物価上昇を上回る実質賃金の改善を強く求めており、企業側もこれに応える形となりました。製造業全体で見ると、人材獲得競争の激化が満額回答を後押ししたといえます。
中小企業の賃上げ率5.05%が持つ意味
2年連続5%台の背景にある人手不足
今回の集計で最も注目されるのは、中小企業(組合員300人未満)の賃上げ率5.05%です。前年からは0.04ポイントの微減ですが、2年連続で5%台を維持しました。従来、中小企業の賃上げ率は大企業を大きく下回る傾向がありましたが、その格差は着実に縮小しつつあります。
この背景には、日本全体で深刻化する人手不足があります。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が加速する中、中小企業は大企業以上に採用難に直面しています。賃上げなくして人材の確保も定着もままならないという切実な事情が、中小企業の賃上げ率を押し上げています。
連合の目標「6%以上」との乖離
一方で、連合が中小企業に対して掲げた賃上げ目標は「6%以上」です。大企業との格差を是正するため、全体目標の5%に1ポイント上乗せした水準ですが、現時点の5.05%はこの目標に届いていません。
中小企業が賃上げに踏み切りにくい構造的な要因として、原材料費やエネルギーコストの上昇分を販売価格に転嫁しきれない問題があります。東京商工リサーチの調査によれば、2026年度に賃上げを「実施する」と回答した企業は全体の83.6%に達する一方、賃上げ率「5%以上」と回答した企業は35.5%にとどまり、前年度から低下しました。経営環境の厳しさの中で賃上げを続ける中小企業の努力が垣間見えます。
実質賃金の改善と物価の関係
物価上昇率の鈍化が追い風に
2026年度の消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は1.6%前後と予測されており、2025年度の2.5%から大幅に鈍化する見込みです。5%台の賃上げ率が維持されれば、実質賃金のプラスが定着する可能性が高まります。
過去数年は、名目賃金が上昇しても物価上昇に追いつかず、実質賃金のマイナスが続く時期がありました。2026年は物価の落ち着きと高水準の賃上げが重なることで、労働者が賃上げの恩恵を実感しやすい年になると期待されています。
賃上げの持続性を左右する3つの要因
専門家の分析によれば、近年の高水準の賃上げを支えてきたのは、労働需給の逼迫、企業収益の改善、物価上昇の3つの要因です。このうち物価上昇率は鈍化傾向にありますが、人手不足は人口動態の面から構造的に高止まりする見通しです。企業収益についても、大企業を中心に過去最高水準を更新する企業が相次いでいます。
ただし、これらの条件がすべて揃い続ける保証はありません。世界経済の減速リスクや為替変動、通商政策の変化など、不確実な要素が賃上げの持続性に影響を与える可能性があります。
注意点・展望
賃上げ率の「見かけ」と「実感」のギャップ
5%台の賃上げ率は数字としてはインパクトがありますが、注意すべき点もあります。連合の集計は組合のある企業が中心であり、日本の雇用者全体の約17%にすぎません。非正規雇用労働者やパート・アルバイトの賃上げ状況は別途確認が必要です。連合も非正規労働者に対して7%以上の賃上げを目標に掲げていますが、その波及にはまだ時間がかかる見込みです。
今後の焦点は4〜5月の中小企業交渉
春闘の第1回集計は大手企業の回答が中心です。中小企業の労使交渉が本格化するのは4月から5月にかけてであり、最終的な賃上げ率は今後変動する可能性があります。政府も「中小企業の価格転嫁対策」を強化しており、中小企業が持続的に賃上げを実施できる環境整備が進むかどうかが、日本経済全体の好循環を左右する重要な鍵となります。
まとめ
2026年春闘の第1回回答集計は、平均5.26%、中小企業5.05%という高水準の賃上げ率を記録しました。自動車メーカー全社満額回答という歴史的な結果に象徴されるように、企業は人材確保を最優先課題に位置づけています。物価上昇率の鈍化もあいまって、実質賃金のプラス定着への期待が高まっています。
一方で、中小企業の価格転嫁の困難さや、非正規雇用への波及の遅れなど、課題も残されています。4月以降の中小企業交渉の動向と、賃上げが消費拡大を通じて経済全体の好循環につながるかどうかに注目が集まります。
参考資料:
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