自民・岸田氏が物価超えベア要請、春闘の焦点は中小企業へ
はじめに
2026年春闘は3月18日に集中回答日を迎え、大手企業で満額回答が相次いでいます。こうした中、自民党の日本成長戦略本部が経済界と労働団体の代表者を集め、物価上昇を上回るベースアップの実現を要請しました。本部長を務める岸田文雄元首相は「強いリーダーシップを発揮し、物価上昇を上回るベースアップを実現してほしい」と呼びかけています。
2025年春闘では平均賃上げ率が5.25%と34年ぶりの高水準を記録しましたが、物価上昇を差し引いた実質賃金はマイナスが続いてきました。賃上げの勢いを持続させ、実質賃金のプラス定着を実現できるかが問われています。
自民党が労使に異例の直接要請
日本成長戦略本部の狙い
自民党は3月17日、党本部で日本成長戦略本部の会合を開催しました。同本部は岸田文雄元首相が本部長を務め、かつての「新しい資本主義実行本部」を改称した組織です。会合には経済界や労働団体の代表者が出席し、中小企業の賃上げ交渉が本格化する時期を見据えた要請が行われました。
岸田氏は賃上げの継続が経済の好循環に不可欠であると強調しています。イラン情勢の緊迫化による原油高が物価をさらに押し上げるリスクがある中、政府・与党として賃上げを後押しする姿勢を鮮明にしました。
高市首相との役割分担
高市早苗首相は国内投資の拡大を重点政策として掲げており、岸田氏率いる日本成長戦略本部は賃上げの推進を担当する形で役割分担が行われています。政府と党が一体となって賃上げの機運を高め、企業の行動変容を促す狙いがあります。
連合の芳野友子会長も2026年春闘方針として「賃上げ5%以上」を掲げており、政労使が足並みをそろえて賃上げの継続を目指す構図が形成されています。
集中回答日の結果と大手企業の動向
満額回答が相次ぐ大手企業
3月18日の集中回答日では、大手企業で満額回答が相次ぎました。トヨタ自動車は6年連続で労働組合の賃上げ要求に満額で応じています。電機大手では日立製作所、NEC、三菱電機がベースアップ相当分で月額1万8,000円の満額回答を行いました。
重工業セクターでは三菱重工業と川崎重工業が月額1万6,000円、鉄鋼セクターでは日本製鉄が月額1万円、神戸製鋼所が月額1万3,000円を回答しています。日本製鉄の賃上げ率は定期昇給を含めて約5.3%に達しました。
電機連合の妥結最低基準
電機連合は2026年春闘でベースアップの妥結最低基準を1万2,000円以上に設定しました。これは前年を上回る水準であり、物価上昇に対応した積極的な姿勢を示しています。自動車総連も同様にベースアップ要求額の目安を「1万2,000円以上」とする方針を掲げていました。
第一生命経済研究所の予測では、2026年春闘全体の賃上げ率は5.45%と、ほぼ前年並みの高水準が実現する見通しです。大手企業においては賃上げの定着が進んでいると評価できます。
最大の課題は中小企業の賃上げ格差
拡大する企業規模間格差
大手企業の好調な回答とは対照的に、中小企業の賃上げは依然として厳しい状況です。2025年春闘では、従業員300人未満の中小企業の賃上げ率が、1,000人以上の大企業を0.7ポイント下回りました。この企業規模間格差は2023年から拡大を続けています。
東京商工リサーチの調査によると、2026年度に「5%以上」の賃上げを予定する企業は全体の35.5%ですが、中小企業では「6%以上」と回答した企業はわずか7.2%にとどまっています。連合は中小企業に対して6%以上の賃上げを目標に掲げていますが、実現には高いハードルがあります。
価格転嫁の壁
中小企業が賃上げを実現するためには、原材料費や人件費の上昇分を製品価格に転嫁することが不可欠です。しかし、取引先との力関係から十分な価格転嫁ができない企業も多く、「賃上げ疲れ」を指摘する声も出ています。
政府は下請法の運用強化やパートナーシップ構築宣言の推進を通じて、中小企業の価格転嫁を支援する方針を打ち出しています。自民党の日本成長戦略本部による今回の要請も、大手企業だけでなくサプライチェーン全体での賃上げを意識したものです。
注意点・展望
実質賃金プラスの定着が試金石
名目賃金は44カ月連続でプラスとなっていますが、物価上昇を差し引いた実質賃金はマイナスの期間が長く続きました。連合は実質賃金を年1%上昇の軌道に乗せることを「賃上げノルム(当たり前の基準)」として社会に定着させる方針です。
原油価格の上昇や為替の円安傾向が続く場合、物価上昇率がさらに高まる可能性があります。賃上げ率が5%を超えても、物価上昇率次第では実質賃金のプラスが安定しないリスクは残っています。
今後のスケジュール
連合は3月23日に春闘賃上げ率の第1回回答集計結果を公表する予定です。中小企業の交渉は4月以降も続くため、格差是正の成果が見えてくるのはもう少し先になります。政府・与党による継続的な後押しが、中小企業の賃上げにどこまで影響を与えるかが注目されます。
まとめ
2026年春闘は集中回答日を迎え、大手企業で満額回答が相次ぐ好調なスタートとなりました。自民党の岸田文雄・日本成長戦略本部長は物価上昇を上回るベースアップを経済界と労働団体に直接要請し、賃上げの継続に向けた政治的後押しを強めています。
今後の焦点は、中小企業にまで賃上げの波が波及するかどうかです。企業規模間の賃上げ格差は拡大傾向にあり、価格転嫁の促進が鍵を握ります。実質賃金のプラス定着に向けて、政労使が一体となった取り組みが求められています。
参考資料:
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