高市政権に追い風、労働規制緩和を支持する議員6割の意味
はじめに
2026年2月8日の衆議院選挙で自民党が316議席を獲得する歴史的大勝を収めました。この圧勝によって注目されているのが、労働規制の緩和に向けた動きです。日本経済新聞の候補者アンケートによると、当選者のうち「もっと働ける規制緩和」を支持する議員がおよそ6割を占めることが明らかになりました。
高市早苗首相は2025年10月の就任後、労働時間規制の緩和検討を厚生労働相らに指示しています。衆院選の結果により、国会からもこの方針を後押しする態勢が整ったことになります。
労働規制の緩和は経済成長と働き手の健康のバランスが問われる難題です。アンケート結果の意味と、今後の論点を整理します。
衆院選の結果と政策アンケート
自民党316議席の歴史的圧勝
2026年2月8日投開票の第51回衆議院選挙で、自民党は戦後最多の316議席を獲得しました。単独で衆院の3分の2を超えたのは戦後初めてのことです。1986年の中曽根政権時の304議席、2009年の民主党の308議席をも上回る記録です。
日本維新の会を合わせると352議席の巨大与党が誕生し、参院で否決された法案の衆院再可決や、憲法改正の発議も可能な議席数を確保しました。高市首相は第2次内閣を発足させ、政策実行力を大幅に強化しています。
6割が規制緩和を支持
日本経済新聞が立候補者1,284人の8割から回答を得た政策アンケートでは、当選者400人のうち働き方の制度に関する質問で約6割が規制緩和を支持しました。「もっと働きたい人が働けるようにすべき」という趣旨の回答が多数を占めています。
この結果は、高市政権が検討する労働時間規制の緩和を国会から後押しする強い動力源となります。労働規制の改革は法改正を伴うため、国会での賛成多数が不可欠です。6割の支持基盤は、法案審議を有利に進める上で大きな後ろ盾です。
高市政権の労働規制緩和方針
2025年10月の指示内容
高市首相は2025年10月21日、厚生労働大臣らに対し、労働時間規制の緩和検討を指示しました。「心身の健康維持と本人の選択」を前提条件とした上で、現行の労働時間規制を見直す方針です。
具体的に検討されている方向性は主に二つあります。一つは「高度プロフェッショナル制度」の拡大・要件緩和です。現行では年収1,075万円以上の高度専門職に限定されている制度の年収要件を引き下げ、対象職種を広げることが検討されています。
もう一つは「オプトアウト制度」の導入です。労働者自身の選択により、残業規制の上限から外れることを可能にする仕組みです。本人が希望すれば、より多くの時間働けるようにするという考え方に基づいています。
働き方改革との整合性
2019年に施行された働き方改革関連法では、残業時間の上限が法的に定められました。原則として月45時間・年360時間、特別な事情がある場合でも月100時間未満・年720時間以内という規制です。
2024年4月からは、建設業、トラック運転手、医師など5年間の猶予期間が設けられていた業種にもこの上限が適用されました。いわゆる「2024年問題」として、物流や建設業で人手不足が深刻化する一因となっています。
高市政権の規制緩和方針は、この働き方改革の流れとは逆方向に進むものです。従来の「労働者の負担軽減」から「柔軟な働き方の実現」へと、政策の力点がシフトしています。
賛否両論の声
賛成派の主張
規制緩和を支持する側は、日本の労働生産性の低さを根拠に挙げています。OECD諸国の中で日本の労働生産性は低位にとどまっており、画一的な時間規制が生産性向上を阻害しているという見方です。
特にIT技術者やコンサルタント、研究者など、成果が労働時間に比例しない職種では、時間ではなく成果で評価する仕組みが求められています。「働きたい人が働ける環境」をつくることで、個人の能力を最大限に発揮できるという主張です。
また、人手不足が深刻化する中で、既存の労働力をより柔軟に活用する必要性も指摘されています。残業規制があるために必要な仕事を終わらせられないという現場の声は、建設業や医療分野を中心に少なくありません。
反対派の懸念
一方、労働組合や労働法の専門家からは強い懸念の声が上がっています。連合の芳野友子会長は「長時間労働の是正に逆行する」と述べ、「労使の交渉力に差がある中で、本人の選択というのは形式的になりかねない」と指摘しました。
労働時間規制は長時間労働による過労死や健康被害を防ぐために設けられた制度です。形式的には「本人の選択」であっても、上司や職場の雰囲気によって実質的にオプトアウトを強いられるリスクがあります。
さらに、東洋経済オンラインの指摘によれば、高市首相が掲げる「労働時間の規制緩和」と「少子化対策」は両立が極めて難しいとされています。長時間労働は育児や家事の時間を圧迫し、出生率の低下につながる可能性があるためです。
注意点・今後の展望
労働基準法改正の行方
当初2026年の通常国会に提出予定だった労働基準法の包括改正案は、高市政権の方針転換により先送りとなっています。従来の「連続14日以上の勤務禁止」などの規制強化路線から、規制緩和を含む新たな改正案の策定が進められています。
6割の議員が緩和を支持しているとはいえ、具体的な制度設計の段階で意見が割れる可能性は十分あります。対象職種の範囲、年収要件、健康管理措置の内容など、詰めるべき論点は多岐にわたります。
働き手の選択肢が増えるか
労働規制の見直しで最も重要なのは、働き手にとって本当に選択肢が増えるかどうかです。「もっと働きたい人が働ける」という理想は正しくても、その実現には実効性のある健康管理の仕組みや、労働者の交渉力を担保する制度設計が不可欠です。
法改正の具体案が示された段階で、改めて内容を精査する必要があります。
まとめ
衆院選で自民党が圧勝し、労働規制緩和を支持する当選者が6割を占めたことで、高市政権の政策推進に大きな追い風が吹いています。「心身の健康維持と本人の選択」を前提とした労働時間規制の見直しが、今後の国会で本格的に議論される見通しです。
ただし、過労死防止や少子化対策との両立、労使間の交渉力格差など、克服すべき課題は多く残されています。経済成長と働き手の健康・生活のバランスをどう取るか、具体的な制度設計の段階で真価が問われることになります。
今後の労働基準法改正の動向と、具体的な緩和策の内容に注目していくことが重要です。
参考資料:
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