日英が重要鉱物確保で連携、レアアース供給網を強化
はじめに
2026年1月31日、高市早苗首相と英国のスターマー首相が首相官邸で会談し、重要鉱物のサプライチェーン確保に向けた協力を確認しました。中国によるレアアース(希土類)の対日輸出規制強化が念頭にあり、サイバーや宇宙分野での連携強化でも一致しています。
この会談の背景には、トランプ米大統領が掲げる「ドンロー主義」(新モンロー主義)によって米国が西半球に注力する中、同盟国同士の連携がより重要になっているという認識があります。日英両国は、インド太平洋と欧州大西洋の安全保障の一体性を強調する形で協力を深めています。
中国のレアアース輸出規制と日本への影響
深まる中国依存のリスク
世界のレアアース採掘の約70%、精製の約90%は中国が占めています。レアアースはスマートフォン、電気自動車(EV)、風力発電タービン、さらにはミサイル誘導システムなど、民生品から軍事装備まで幅広い分野で不可欠な素材です。
中国政府は2026年初頭から、一部の中・重希土類を対象に日本への輸出許可審査を厳格化する方向で検討を進めています。これは米国の対中半導体規制への対抗措置とみられていますが、日本の製造業にとっては深刻な供給リスクとなります。
過去の教訓:2010年の輸出制限
2010年の尖閣諸島沖衝突事件の際にも、中国はレアアースの対日輸出を事実上制限しました。この経験を踏まえ、日本は代替供給源の開拓や都市鉱山からのリサイクル、使用量の削減技術開発を進めてきましたが、中国への依存度は依然として高い水準にあります。
日英連携の具体的な内容
重要鉱物の供給網構築
日英首脳会談では、重要鉱物のサプライチェーン強化が「急務」との認識で一致しました。具体的には、豪州やカナダ、アフリカ諸国など中国以外の資源国との関係強化を共同で進める方針です。
英国は自国内にも重要鉱物の鉱床を有しており、リサイクル技術でも強みを持っています。日本の精製技術と組み合わせることで、中国に依存しない供給網の構築が可能になると期待されています。
サイバー・宇宙での協力拡大
経済安全保障の連携は鉱物資源にとどまりません。高市首相は「サイバー安保での日英協力を戦略的に進めていく」と表明し、サイバー脅威に関するインテリジェンス共有や外国勢力からの攻撃への対処能力の強化を進める方針を示しました。
宇宙分野でも連携を深めることで合意しており、年内に外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)を開催して具体的な協力内容を詰める予定です。
「ドンロー主義」と同盟国の危機意識
トランプ政権の西半球集中
日英が安保・経済で協調を深める背景には、トランプ政権の外交姿勢への危機感があります。トランプ大統領は19世紀の「モンロー主義」を現代版にアップデートした「ドンロー主義」を掲げ、西半球における米国の支配的地位の確立に注力しています。
2026年1月にはベネズエラへの軍事介入を実行し、マドゥロ大統領を拘束するなど、中南米への関与を強めています。米国がこの方面に国力を注ぐほど、インド太平洋や欧州への関心が相対的に低下するリスクがあります。
同盟国間の「水平連携」の重要性
米国の関与が不確実になる中、日本と英国のような同盟国同士が直接連携する「水平連携」の重要性が増しています。高市首相が会談冒頭で「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分だ」と強調したのは、この認識の表れです。
英国はEU離脱後、「グローバル・ブリテン」構想のもとインド太平洋地域への関与を強めており、日英間の安全保障協力は両国にとって戦略的な意味を持っています。
注意点・展望
重要鉱物の脱中国依存は一朝一夕には実現できません。新たな鉱山の開発には数年から十数年を要し、精製技術の確立にも時間がかかります。短期的には中国からの供給に依存せざるを得ない現実があり、外交的な関係管理も並行して行う必要があります。
G7レベルでも2026年1月に財務相級の協議が行われ、有志国での供給網整備が合意されています。片山さつき財務相は「レアアースの武器化を防ぐ」と明言しており、日本は多国間の枠組みを通じた資源確保を積極的に主導する方針です。
まとめ
日英首脳会談での重要鉱物連携の合意は、中国のレアアース輸出規制と「ドンロー主義」下での米国の動向という二つの課題に対応するものです。同盟国間の水平連携を強化し、中国依存度を下げていく取り組みは今後も継続されていくでしょう。
レアアースの安定確保は、経済だけでなく安全保障にも直結する課題です。日英の協力が具体的な成果につながるか、今後の実行段階が注目されます。
参考資料:
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