東京都が割安住宅で容積率緩和、子育て世帯の流出防止へ

by nicoxz

はじめに

東京都心の賃料高騰が深刻化する中、子育て世帯の都外流出が大きな課題となっています。2025年春、東京23区のファミリー向け物件(50〜70㎡)の家賃は5年前から26.1%も上昇し、新築マンション価格は平均1億円を超える水準が10ヶ月連続で続いています。こうした状況を打開するため、東京都は2026年度から容積率緩和を活用した「アフォーダブル住宅」の整備促進に乗り出します。本記事では、この国内初とみられる制度の仕組みと、子育て世帯への影響について詳しく解説します。

容積率緩和制度の概要と仕組み

制度の基本設計

東京都が2026年度に導入する新制度は、民間事業者が手ごろな賃料の住宅を整備する際に、マンションや複合施設の容積率を緩和するものです。容積率とは敷地面積に対する延べ床面積の割合で、この上限が緩和されることで、同じ土地により多くの住戸を建設できるようになります。

具体的には、近隣の市場相場の8割以下の賃料を目安とし、整備する戸数の規模などに応じて床面積を上乗せする仕組みが検討されています。この制度により、事業者は延べ床面積を増やすことで収益性を確保しながら、一部の住戸を割安な賃料で提供することが可能になります。

容積率緩和のメリット

容積率緩和には事業者と自治体の双方にメリットがあります。事業者側は、建物の高層化により延べ床面積を広げられるため、上階に新たな価値を生み出すことができ、顧客や収益の増加が期待できます。マンションの住戸数が増加することで、床面積あたりの価格が下がり、住宅購入の喚起にもつながります。

自治体側は、公共貢献として容積率を緩和することで、都市機能の導入を促せることが大きなメリットです。東京都の場合、子育て世帯向けの割安住宅という社会的ニーズに応える住宅供給を、民間の力を活用して実現できることになります。

東京都の賃料高騰と住宅危機

賃料上昇の実態

2025年の東京都の賃貸市場は、異例の高騰を記録しています。東京23区のワンルームマンションの平均家賃は10万3,938円(前年比+29%)と急騰し、ファミリー層向けの2LDK〜3DKでは平均家賃15万4,098円(前回比+1.82%)、上限家賃平均18万2,949円(+2.85%)と、高額帯でも成約が進んでいます。

特に注目すべきは、東京23区のうち22区が値上げとなっており、全体として強い上昇傾向にあることです。この賃料高騰は一時的な現象ではなく、構造的な問題として認識されています。

子育て世帯への影響

賃料と購入価格の双方が高騰する中、結婚・子育て世帯が「分譲購入を一旦見送り、賃貸で様子を見る」という動きが強まっています。しかし、その賃貸市場も高騰しており、子育て世帯は厳しい選択を迫られています。

ファミリー向けの賃貸市場では、土地取得費用や建築コストの高騰に加え、ファミリー物件の賃料と収益性のバランスが取りづらいという理由から、新築供給が思うように伸びていません。この供給不足が賃料上昇に拍車をかけており、悪循環に陥っている状況です。

都外流出のリスク

こうした住宅環境の悪化は、子育て世帯の都外流出を招くリスクがあります。東京都は労働力人口の維持や税収の確保、地域コミュニティの活性化などの観点から、子育て世帯の流出を食い止める必要に迫られています。アフォーダブル住宅の整備は、こうした課題に対する都の重要な政策対応となります。

アフォーダブル住宅の先行事例と展望

容積率緩和の実績

日本では、マンション建替円滑化法にもとづく容積率の緩和特例の実績があります。国内初の事例として知られる「メゾン三田」では、1968年に建設された建物が建替えられる際、容積率緩和が適用されました。

建替え前は地上11階、延べ床面積6,278平方メートル、総戸数67戸でしたが、建替え後は地上23階・地下2階建、延べ床面積1万3,216.95平方メートル、総戸数111戸となりました。容積率の緩和特例により、大幅な延べ床面積の増加が実現した好例です。

東京都の新制度の特徴

東京都の新制度は、マンション建替えではなく、新規開発におけるアフォーダブル住宅の整備促進を目的とする点で独自性があります。市場相場の8割以下という明確な賃料基準を設け、子育て世帯が優先的に入居できる仕組みを導入する方針です。

この制度は、都市計画法の「特例容積率適用地区制度」や建築基準法の「総合設計制度」など、既存の容積率緩和の枠組みを活用しながら、東京都独自の要件を加えたものと考えられます。国内初とみられるこの取り組みは、他の大都市圏にも影響を与える可能性があります。

制度実施の課題と注意点

事業者との協議プロセス

容積率緩和制度の適用にあたっては、自治体と民間事業者との綿密な協議が必要です。緩和の程度、対象地域、適用要件などの詳細を詰める必要があり、かなりの時間を要することが想定されます。

また、「要除却認定マンション」に認定される必要があるなど、実際の適用にあたってはさまざまな条件があります。東京都は2026年度の導入に向けて、これらの実務的な課題を整理する必要があります。

長期的な住宅供給への影響

容積率緩和による住戸数の増加は、短期的には住宅供給を促進しますが、長期的には地域の人口密度や生活環境への影響も考慮する必要があります。交通インフラ、教育施設、医療施設などの整備が追いつかなければ、新たな課題が生じる可能性もあります。

また、市場相場の8割という賃料基準が、地域や物件タイプによってどのように適用されるのか、詳細な制度設計が求められます。事業者にとって採算が取れる仕組みでなければ、制度の実効性が損なわれる恐れがあります。

まとめ

東京都の容積率緩和によるアフォーダブル住宅整備促進策は、深刻化する賃料高騰と子育て世帯の流出リスクに対する画期的な取り組みです。市場相場の8割以下という明確な賃料基準と、容積率緩和による事業者のインセンティブ設計を組み合わせることで、民間活力を活用した住宅供給の促進が期待されます。

2026年度の制度導入に向けて、詳細な制度設計と事業者との協議が進められることになりますが、この取り組みが成功すれば、他の大都市圏にも波及する可能性があります。東京都の住宅政策の新たな一歩として、今後の展開が注目されます。

参考資料:

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