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by nicoxz

東京23区で家族向け賃貸が不足する構造と住み替え負担の実相分析

by nicoxz
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はじめに

東京23区で子育て世帯が賃貸住宅を探す難しさは、家賃が高いという一言では片づきません。問題は、家族で暮らしやすい広さの住戸が市場に十分並ばず、見つかっても都心部では高額物件に偏りやすい点にあります。結果として、家計を圧迫してでも狭い部屋にとどまるか、広さを求めて郊外へ移るかという厳しい二択になりがちです。

足元のデータをみると、東京23区のファミリー向け賃料は過去最高圏にあり、住み替え希望者は市場全体の上昇に追いつけていません。一方で、東京都全体には多くの住宅ストックや空き家が存在します。つまり論点は「家が足りない」ことより、「家族が無理なく借りられる広さと価格の物件が、必要な場所に十分ない」ことです。この記事では、そのミスマッチがなぜ拡大しているのかを整理します。

供給不足の正体と市場のゆがみ

量の不足ではなく広さの不足

総務省の住宅・土地統計調査を基にした東急リバブルの整理によれば、2023年時点の東京23区の総住宅数は522万戸、借家は271万戸で、借家比率は長く5割強で推移しています。東京都の住宅政策本部も、23区の空き家数は64万6800戸、空き家率は10.9%と公表しています。住宅の戸数そのものは少なくありません。

それでも家族向け賃貸が足りないと感じられるのは、広さの条件を付けた瞬間に選択肢が細るためです。アットホームの月次調査では、30㎡以下をシングル向き、50〜70㎡以下をファミリー向き、70㎡超を大型ファミリー向きとして追っています。民間調査でも70㎡超は別枠で扱われることが多く、家族がゆとりを求める水準に入ると、もともと供給母数が薄い市場だと分かります。

東京都の新設住宅着工も追い風ではありません。東京都の2024年新設住宅着工戸数は12万3091戸で前年比4.1%減、うち貸家は6万5433戸で6.9%減でした。区部全体でも3年連続の減少です。新たな賃貸供給が増えにくい中で、広い住戸の層だけを厚くするのはさらに難しくなっています。

都心では高額物件への偏在

広い物件が全く存在しないわけではありません。ただし、都心では高額帯への偏在が強まっています。LIFULLの2025年調査では、東京23区のファミリー向け賃料上位1%のボーダーラインは70万円で、上位1%物件の平均賃料は23区全体平均の約5.8倍でした。しかも上位1%のファミリー向け物件の51.5%は港区に集中しています。

この数字が示すのは、広い住戸の一部が富裕層向けや高級賃貸として供給される一方、一般的な子育て世帯が狙う価格帯では厚みが出ていないことです。都心で「広い賃貸」を探すと、普通の家族向け住戸というより、港区や渋谷区、新宿区の高額物件と向き合う場面が増えます。供給はあっても、需要と価格帯がずれているわけです。

家計負担の上昇と住み替えの妥協

上がる賃料、縮む専有面積

価格上昇はすでに記録的な水準です。LIFULLの2026年1月版マーケットレポートでは、東京23区のファミリー向き掲載賃料は25万2464円で前年同月比13.4%上昇し、過去最高を更新しました。反響賃料も18万4892円まで上がりましたが、掲載賃料との差は6万7572円に広がっています。借り手が実際に問い合わせる価格帯が、市場の提示価格に追いついていない構図です。

アットホームの2026年1月調査でも、東京23区のマンション賃料は全面積帯で過去最高を更新し、ファミリー向きの上昇が5カ月連続で全13エリアに広がりました。テレビ朝日の報道でも、東京23区の平均賃料は2026年1月時点でファミリー向けが25万2464円、シングル向けが12万5814円と紹介されています。家賃上昇が一時的な局面ではなく、広い住戸ほど重くのしかかっていることが確認できます。

その結果、住み替え行動にも妥協が表れています。LIFULLの2025年調査では、賃料上昇局面の東京23区で、問い合わせ物件の面積は掲載物件より小さくなる傾向が鮮明でした。渋谷区のファミリー向けでは、問い合わせ面積が掲載面積より6.21㎡狭く、港区や中央区でも同様の傾向が続いています。家賃に合わせて広さを削る動きが、都心の家族向け市場で起きています。

郊外移動という現実的な選択肢

都心にとどまれない世帯は、首都圏近郊へ住み替えます。内閣府の「日本経済レポート」を踏まえたリクルート系メディアの整理では、25〜44歳と0〜14歳の人口は東京都から東京都以外の首都圏各県へ流出傾向がみられ、背景に住宅費高騰があるとされます。東京から30分圏内の近郊都市が人気を集めるのも、住宅費と通勤の折り合いをつけやすいためです。

ただし、郊外移動は万能策ではありません。通勤時間が延びれば、共働き世帯では育児と就業の両立コストが上がります。都心に残れば家賃負担、郊外に出れば移動負担というトレードオフです。家族向け賃貸不足の問題は、住宅政策だけでなく、保育、働き方、交通と一体で考えなければ解けません。

注意点・展望

このテーマで誤解しやすいのは、空き家が多いのだから家族向け賃貸も増やせるはずだ、という見方です。実際には空き家には老朽化物件や立地条件の悪い物件、流通に乗りにくい物件も多く、そのまま子育て世帯向けの賃貸として活用できるとは限りません。空き家の多さと、70㎡前後の良質な賃貸が足りないことは両立します。

今後の焦点は二つあります。一つは、都心部で一般所得層向けの広め賃貸をどう増やすかです。もう一つは、近郊都市への人口流出を前提に、通勤負担を抑えられる鉄道・保育・生活インフラをどう整えるかです。新設貸家が減る中では、市場任せで自然に解消する可能性は高くありません。既存ストックの改修支援や、子育て世帯向け住戸への誘導策が問われます。

まとめ

東京23区の家族向け賃貸問題は、住宅総量の不足というより、広さ、価格、立地の三つが同時にかみ合わないことにあります。貸家の新規供給は減り、都心の広い住戸は高級賃貸に偏り、一般的な家族は賃料上昇に追いつけず面積を削るか郊外に移るかを迫られています。

今後も分譲価格の高止まりが続けば、購入を見送ったファミリー層が賃貸市場へ流れ、広い住戸の争奪はさらに厳しくなる公算が大きいです。住まい探しの問題に見えて、実態は少子化対策、就業継続、都市構造の問題でもあります。家族向け賃貸を増やす議論は、住宅市場の周辺論点ではなく、都市政策の中心課題として扱う必要があります。

参考資料:

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