東京で新築億ション急増、価格上昇が常態化する理由と次の焦点整理
はじめに
東京の新築マンション市場で、「1億円以上が特別ではない」という状態が一段と鮮明になっています。4月1日に東京カンテイが公表した最新資料では、2025年末時点の全国の新築億ション累計供給戸数は7万6,954戸でした。前年末の6万8,351戸との差を取ると、全国では1年で8,603戸増えた計算になり、高額帯の供給拡大が加速していることが分かります。この増加の中心が東京圏にあることは、周辺統計からも確認できます。
ただし、ここで重要なのは「高額物件が少し増えた」という話ではない点です。2025年の首都圏全体の新築マンション発売戸数は2万1,962戸と1973年以降で最少でしたが、その一方で1億円以上の住戸は5,669戸と前年比55.4%増でした。市場全体は細るのに、高価格帯だけが増える。このねじれこそが、東京の住宅市場の変質を物語っています。この記事では、億ション急増の背景と、今後どこまで広がるのかを整理します。
過去最多を支える供給構造の変化
億ション化が一部高級物件にとどまらない理由
高額化は、都心の超高級住戸だけの現象ではありません。不動産経済研究所の2025年通年集計では、東京23区の新築マンション価格中央値は1億1,380万円と前年比27.3%上昇し、初めて1億円を超えました。平均価格も1億3,613万円と過去最高です。平均だけでなく中央値まで1億円を超えたことは、極端な超高額物件が数字を押し上げただけではなく、相場全体が高価格帯へ移ったことを意味します。
半期ベースで見ても同じ傾向です。2025年上半期の東京23区では、発売2,964戸のうち1,640戸、つまり55.3%が1億円以上でした。中央値は1億1,010万円、平均は1億3,064万円で、平均との差は2,054万円まで縮小しています。これは、都心の一握りのプレミアム住戸だけではなく、23区の広い範囲で価格帯そのものが上にずれたことを示しています。
東京カンテイや不動産経済研究所が共通して指摘しているのは、人件費、用地費、資材費の上昇です。価格を抑えられる余地が小さくなった結果、従来なら8,000万〜9,000万円台で売り出せた物件が、1億円を超えてしまうケースが増えています。つまり「億ション化」は豪華仕様の演出よりも、コスト構造の変化によって起きている面が大きいと言えます。
供給戸数が増えても広がらない買いやすさ
もう一つ見逃せないのは、供給増がそのまま買いやすさにつながっていないことです。不動産経済研究所の2025年集計では、首都圏新築マンションの初月契約率は63.9%と、好不調の目安とされる70%を2年連続で下回りました。価格が上がっても供給が消化されている面はありますが、購入層は確実に絞られています。
そのなかでも都心6区は別格です。2025年の都心6区の中央値は1億7,000万円、平均価格は1億9,503万円でした。ここでは「1億円超」が入り口にすぎず、上は数億円クラスまで広がります。一方で、23区全体の中央値が1億円を超えたという事実は、都心6区以外でも価格が急上昇していることを意味します。結果として、富裕層向けの市場拡大と、一般的な実需層の購入可能エリア縮小が同時に進んでいます。
東京の価格上昇を押し上げるコストと土地
用地難と地価上昇の重なり
東京の新築億ション増加を支える最大の土台は、土地の希少化です。不動産経済研究所は2026年の東京23区供給を8,000戸と見込み、2025年比で5.9%減ると予測しています。理由として挙げるのが、23区内での大規模物件用地の確保難です。供給が減るのに、価格帯の高い物件は増える。これは、デベロッパーが限られた用地をより高単価で回収できる案件へ振り向けていることを示します。
土地価格そのものも上昇しています。国土交通省が2026年3月17日に公表した地価公示では、東京都の住宅地は前年比6.5%上昇し、18年ぶりの全国トップでした。都心部ではマンション需要が地価を押し上げ、地価上昇がさらに分譲価格へ転嫁される循環が続いています。用地費が上がれば、販売価格の下限も上がるため、駅近や再開発隣接エリアほど「1億円未満で出す理由」が薄れていきます。
建設現場の人手制約と工期管理
建設コストを押し上げるのは資材だけではありません。国土交通省白書によると、建設業の2023年度の年間平均労働時間は2,018時間で、他産業より62時間長い状態でした。こうした労働環境を背景に、2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、原則として月45時間、年360時間が上限となりました。
この規制は労働環境の改善には不可欠ですが、供給側には工期の組み直しと人員確保のコストを生みます。国交省の周知資料でも、著しく短い工期での契約は禁止され、追加費用や工期変更への適切な協議が求められています。現場の余裕が薄いなかで、工事費の上昇を販売価格に転嫁しやすい都心大型案件へ開発が寄るのは自然な流れです。結果として、億ションは「富裕層向け商品」だから増えているのではなく、「その価格でなければ成立しにくい商品」になっている側面があります。
注意点・展望
今後の焦点は、億ション増加がさらに23区外へ波及するのか、それとも都心偏重のまま進むのかという点です。足元では2025年上半期の時点で23区の過半が1億円超となっており、2026年以降も中央値の二ケタ上昇が続く可能性が指摘されています。ただし、供給の伸びが続いても契約率が70%を下回る状況が続けば、価格設定の強気姿勢には調整圧力もかかります。
注意したいのは、「億ションが増える=市場が好況」という単純な見方です。実際には、総発売戸数は歴史的な低水準で、一般的な世帯に届く価格帯の供給が細っている面があります。高価格帯の拡大は、住宅市場の成熟ではなく、供給制約とコスト高が招いた二極化とも読めます。買い手にとって重要なのは、平均価格のニュースだけで判断せず、中央値、発売戸数、契約率をセットで見ることです。
まとめ
東京で新築億ションが急増している背景には、都心人気だけでは説明できない構造変化があります。用地取得難、地価上昇、資材費と人件費の上昇、工期規制への対応が重なり、1億円以上でなければ事業が成立しにくい案件が増えました。その結果、供給全体は減っているのに、高価格帯だけが拡大するという歪んだ市場が生まれています。
今後を見るうえでは、「どれだけ売れたか」以上に「どの価格帯しか出せなくなっているか」を読む必要があります。東京の億ション増加は、富裕層の旺盛な購買力を映すニュースであると同時に、都市部の住宅が一般世帯から遠ざかっている現実を示すシグナルでもあります。
参考資料:
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