豊田織機TOB価格を15%引き上げ、買収総額5.4兆円に
はじめに
トヨタ不動産などは2026年1月14日、豊田自動織機へのTOB(株式公開買い付け)価格を1株1万8800円に引き上げると発表しました。従来の1万6300円から15%上積みし、買収総額は約5兆4000億円と、従来より7000億円程度増える見通しです。
豊田自動織機はトヨタグループの「源流」にあたる企業で、1926年に豊田佐吉氏が設立しました。今回の非公開化は、トヨタグループ再編の象徴的な動きとして注目されています。本記事では、TOB価格引き上げの背景と豊田自動織機の概要、株主への影響について解説します。
TOB価格引き上げの詳細
買付け条件の変更
トヨタ不動産、トヨタ自動車、および豊田章男会長が出資する持ち株会社が特別目的会社(SPC)を通じてTOBを実施します。買付け価格は従来の1株1万6300円から1万8800円へと15%引き上げられました。
買付け期間は当初より前倒しされ、2026年1月15日から2月12日までとなります。豊田自動織機は同日、TOBへの応募推奨を表明しました。当初は中立の立場をとっていましたが、価格引き上げを受けて方針を転換した形です。
出資額の増額
TOB価格の引き上げに伴い、各出資者の負担額も増加します。トヨタ自動車は議決権のない優先株による出資を約7000億円から約8000億円に増額し、トヨタ不動産の出資も約1800億円から約2000億円に増えます。
買収総額は当初発表時の約4兆7000億円から約5兆4000億円に膨らみ、日本企業を対象としたTOBとしては過去最大級の規模となります。
延期からの経緯
TOBは当初2025年12月上旬に開始予定でしたが、国内外の競争法令に基づく手続きや対応の完了時期が1月中旬以降になることから、2026年2月以降への延期が発表されていました。今回、手続きの進展により開始時期が前倒しされました。
アクティビストの動向と価格交渉
エリオットの参入
2025年12月上旬、アクティビスト(物言う株主)として知られる米エリオット・インベストメント・マネジメントが豊田自動織機の株式5%超を取得したことが判明しました。エリオットは同年11月、「本件取引は豊田織機の企業価値を著しく過小評価している」と指摘していました。
また、アジアのコーポレートガバナンス向上を目指す機関投資家団体もTOB価格の透明性確保を求める声明を出すなど、当初の価格設定に対する批判が相次いでいました。英運用会社からは「2万円以上が適正」との意見も出されていました。
15%引き上げの背景
今回の価格引き上げは、こうしたアクティビストや機関投資家からの批判を受けたものとみられます。ただし、「2万円以上が適正」との指摘に対しては、1万8800円という価格はなお乖離があり、一部の株主からは不満の声も出ています。
豊田自動織機の概要
トヨタグループの源流
豊田自動織機は1926年、発明王・豊田佐吉氏によって株式会社豊田自動織機製作所として設立されました。トヨタグループの本家・源流にあたる企業です。
1933年に自動車部を設置し、1935年に大衆乗用車の試作車が完成。1937年には自動車部を分離し、トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)を設立しました。現在のトヨタ自動車は、豊田自動織機から生まれた企業なのです。同様に、現在の愛知製鋼も1940年に豊田自動織機から分社化されました。
現在の事業構成
現在の豊田自動織機は、原点である繊維機械にとどまらず、多角的な事業を展開しています。
主要事業:
- 産業車両事業:フォークリフトや高所作業車を開発・販売。トヨタ・レイモンド・チェサブのブランドで世界展開し、フォークリフトのシェアは世界トップです。
- 自動車事業:トヨタ車の車両組立、エンジン、カーエアコン用コンプレッサー、カーエレクトロニクスなどの開発・生産。カーエアコン用コンプレッサーのシェアも世界トップです。
- 繊維機械事業:自動織機やエアジェット織機などを製造。エアジェット織機のシェアは世界トップです。
2023年度の売上高は3兆8,332億円、営業利益は2,004億円で、いずれも過去最高を更新しています。現在では産業車両事業と自動車事業が売上高の96.1%を占めています。
トヨタ自動車との関係
豊田自動織機は現在もトヨタ自動車の株式8.28%を保有する筆頭株主(信託銀行分を除く)であり、トヨタグループ各社の株式も多数保有しています。2005年にはトヨタグループ各社による持株比率合計を過半数以上に引き上げる防衛策がとられ、トヨタ自動車が支配株主となっています。
非公開化の目的と株主への影響
非公開化を選ぶ理由
豊田自動織機が非公開化を選択する主な理由として、以下が挙げられています。
-
長期的視点での経営:トヨタグループのモビリティカンパニーへの変革を推進するにあたり、公開市場からの短期的な業績プレッシャーから解放され、長期的な視野に基づいた投資や事業再編に集中できます。
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グループシナジーの強化:経営基盤の強化とグループ連携の深化を図り、シナジー効果を最大化します。
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経営判断の迅速化:株主総会の簡素化により、経営判断をより迅速に下せるようになります。また、上場維持にかかる費用やコンプライアンス対応の負担も軽減されます。
株主への影響
TOBに応じる場合: 市場価格にプレミアムが上乗せされた1万8800円で売却でき、売買手数料もかかりません。多くの株主にとっては有利な条件での売却機会となります。
保有し続ける場合: TOB成立後は上場廃止となり、市場での売買ができなくなります。最終的にはスクイーズアウト(強制買取)により、TOB価格と同額で強制的に買い取られることになります。実質的には現金化する選択を迫られる形です。
今後の展望
TOB成立の見通し
豊田自動織機がTOBへの応募推奨を表明したことで、成立の可能性は高まっています。ただし、エリオットなど一部のアクティビストが価格に不満を持っている可能性もあり、最終的な応募状況は注視が必要です。
トヨタグループ再編の行方
今回の非公開化は、トヨタグループの大規模な再編の一環とみられています。自動車業界が100年に一度の変革期を迎える中、電動化やソフトウェア化への対応を加速するため、グループ内の連携強化が急務となっています。
グループの源流企業である豊田自動織機の非公開化は、トヨタグループがより一体的な経営体制へと移行する象徴的な動きといえます。
まとめ
トヨタグループは豊田自動織機へのTOB価格を1株1万8800円に15%引き上げ、買収総額は約5兆4000億円となりました。買付け期間は1月15日から2月12日までで、豊田自動織機は応募推奨を表明しています。
トヨタグループの源流企業である豊田自動織機の非公開化は、自動車業界の変革に対応するためのグループ再編の一環です。株主は2月12日までに、TOBに応じるか否かの判断を迫られることになります。
参考資料:
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