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by nicoxz

トランプ氏が代替関税15%を表明、揺れる通商政策の行方

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はじめに

2026年2月20日、米連邦最高裁判所がトランプ大統領の主要な関税措置を「違法」と判断する歴史的な判決を下しました。しかし、トランプ氏はわずか数時間後に別の法的根拠を用いた新たな関税措置を発表し、翌日にはその税率を10%から15%へ引き上げると表明しました。1日で方針を変更するという異例の展開は、世界の通商秩序に大きな波紋を広げています。

本記事では、最高裁判決の内容と代替関税の仕組み、そして今後の通商政策の見通しについて、複数の情報源をもとに詳しく解説します。

最高裁判決とIEEPA関税の終焉

6対3で「違法」と判断

米連邦最高裁は2月20日、「Learning Resources, Inc. v. Trump」事件において、トランプ政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて課していた広範な関税を違法とする判決を下しました。判決は6対3の賛成多数で、ロバーツ首席判事が多数意見を執筆しています。

ロバーツ首席判事は「IEEPAの中で16語離れた2つの単語『規制する(regulate)』と『輸入(importation)』に基づいて、大統領はあらゆる国からあらゆる製品に対し、あらゆる税率で、あらゆる期間にわたって関税を課す独立した権限を主張している。これらの単語にそれほどの重みを持たせることはできない」と述べました。

判決の影響範囲

この違法判断の対象は、IEEPAに基づく関税に限られています。具体的には、相互関税や対カナダ・メキシコのフェンタニル対策関税などが含まれます。一方で、通商拡大法232条(安全保障)に基づく鉄鋼・アルミニウム関税や、通商法301条(不公正貿易)に基づく対中制裁関税は、今回の判決の影響を受けず引き続き有効です。

トーマス判事、カバノー判事、アリート判事の3名が反対意見を示しましたが、多数派の判断が覆ることはありませんでした。

通商法122条による代替関税の全容

10%から15%へ、わずか1日で引き上げ

トランプ大統領は最高裁判決から数時間後、1974年通商法122条に基づく世界一律10%の関税を課す大統領布告に署名しました。122条は米国の国際収支が著しく悪化した場合に、大統領が議会の承認なしに関税を課すことを認める条項です。

翌2月21日、トランプ氏はSNS上で「世界一律関税の税率を法的に認められ、かつ法的に検証済みの15%の水準に引き上げる」と表明しました。さらに「今後数カ月のうちに、法的に許容される新たな関税を決定する」とも述べ、15%にとどまらない追加措置の可能性を示唆しています。

この新関税は2026年2月24日から発効しています。

122条の特徴と制約

通商法122条は、これまでほとんど使われたことのない条項です。その主な特徴と制約は以下のとおりです。

第一に、適用期間は最大150日間に限られます。延長するには連邦議会の承認が必要であり、現状のままでは2026年7月下旬に自動的に失効します。第二に、税率の上限は15%と法律で定められており、これ以上の引き上げはできません。第三に、全世界に一律で適用する規定であり、国ごとに異なる税率を設定することはできません。

適用除外品目

122条関税にはいくつかの重要な適用除外が設けられています。医薬品および医薬品原料、一部の重要鉱物(クリティカルミネラル)、半導体、銅、木材製品、エネルギー関連製品、肥料、そして牛肉やトマト、オレンジなどの一部食品が対象外となっています。

これらの除外品目は、米国経済への悪影響を最小限に抑える意図があるとみられています。

今後の通商政策の展望と世界への影響

150日後のシナリオ

122条関税が7月下旬に失効した後、トランプ政権がどのような手段に出るかが最大の焦点です。米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)のイヌ・マナック氏は「秋に中間選挙を控える中、議会が122条関税の延長を認める可能性は低い」と指摘しています。

そのため、トランプ政権は122条の期限切れまでに、通商法301条に基づく不公正貿易調査を完了させ、新たな法的根拠で関税を維持・強化する方針とみられています。301条は不公正な貿易慣行を行う国に対して最大50%の関税を課すことを認めており、122条よりもはるかに強力な手段となります。

また、通商拡大法232条に基づく安全保障調査を拡大し、鉄鋼やアルミニウムに加えて銅や木材、家具、自動車部品など幅広い品目に関税を課す動きもすでに進んでいます。

同盟国への影響と国際的な反発

15%への引き上げは、英国やEU、日本、韓国など米国の同盟国にも大きな衝撃を与えています。特に英国は、10%の関税を前提とした通商合意を結んでいただけに、突然の15%への引き上げに強い不満を示しています。

日本については、昨年の日米首脳会談で5,500億ドルの対米投資を約束する見返りとして相互関税を15%に抑える合意がありました。しかし、今回の措置により、投資の約束を果たしているにもかかわらず他国と同じ15%の税率が適用されることになり、日本側の交渉上の立場が弱まる恐れがあります。

EU、日本、韓国は通商協定の批准手続きや投資計画の凍結を表明しており、国際的な通商秩序は大きく揺らいでいます。

注意点・展望

今回の代替関税をめぐっては、いくつかの重要な注意点があります。

まず、122条関税は150日間の時限措置であり、恒久的なものではありません。議会の承認がなければ自動失効するため、企業は短期的な対応と中長期的な戦略の両方を検討する必要があります。

次に、トランプ氏が「数カ月内に次の措置」と述べていることから、301条や232条を活用したより高率の関税措置が控えている可能性が高いです。150日間は、いわば政権にとっての「準備期間」と位置づけられています。

さらに、122条の合法性自体も今後法廷で争われる可能性があります。この条項は「大規模かつ深刻な国際収支の赤字」への対処を目的としており、現在の米国の貿易赤字がこの要件を満たすかどうかは議論の余地があります。

まとめ

米連邦最高裁がIEEPA関税を違法と判断したことは、大統領の関税権限に対する重要な歯止めとなりました。しかし、トランプ政権は即座に通商法122条という代替手段に切り替え、税率を法定上限の15%まで引き上げるという強硬姿勢を示しています。

150日という期限付きの措置ではありますが、その間に301条調査や232条調査が進められ、さらに強力な関税体制が構築される可能性があります。日本を含む各国の企業や政府にとって、この「つなぎ期間」にどう備えるかが重要な課題となっています。

参考資料

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