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by nicoxz

ブラジルがトランプ新関税で最大の恩恵国に浮上した背景

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はじめに

2026年2月24日、ブラジル政府はトランプ米政権が発動した新たな関税体制のもとで、ブラジルが現時点で「最大の恩恵を受ける国」になるとの見通しを発表しました。かつて最大50%もの追加関税を課されていたブラジル産品ですが、見直しの結果、農産物の一部で10%、航空機については免税という大幅な軽減が実現しています。この劇的な転換の背景には、2月20日の米連邦最高裁判所によるIEEPA(国際緊急経済権限法)関税の違憲判決と、それに対するトランプ政権の新たな関税戦略があります。本記事では、ブラジルがなぜ最大の恩恵国となったのか、農産物や航空機産業への具体的な影響、そして今後の見通しについて詳しく解説します。

最高裁判決が変えた関税の構図

IEEPA関税の経緯と違憲判決

トランプ政権は2025年、IEEPAを根拠として各国に追加関税を課しました。ブラジルに対しては2025年7月に40%の追加関税が発動され、相互関税の10%と合わせて最大50%もの関税負担が生じていました。この関税は、ブラジルの司法当局によるボルソナロ前大統領の訴追など、「反民主的な行動」を理由とした政治的報復の色彩が強いものでした。

しかし2026年2月20日、連邦最高裁判所はロバーツ首席判事が主筆を務めた6対3の多数意見で、「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」との判決を下しました。ゴーサッチ判事、バレット判事が全面的に賛同し、リベラル派のソトマイヨール、ケーガン、ジャクソン各判事も一部賛同する形での判決でした。この判決により、ブラジルやインドに対するIEEPA関税を含む全てのIEEPA関税が無効化されました。

新たな15%グローバル関税への移行

最高裁判決を受け、トランプ大統領は即日、1974年通商法第122条に基づく10%の「暫定輸入サーチャージ」を宣言しました。2月24日から発効し、150日間(2026年7月24日まで)の時限措置です。しかし翌21日、トランプ大統領はSNS「トゥルース・ソーシャル」で税率を15%に引き上げると発表しました。

この変更がブラジルにとって追い風となりました。Global Trade Alert(グローバル・トレード・アラート)の分析によれば、新関税体制への移行により、ブラジルの対米輸出品にかかる貿易加重平均関税率は約26.3%から12.8%へ、13.6ポイントもの大幅低下を記録しました。これは全貿易相手国のなかで最大の削減幅であり、中国の7.1ポイント低下を大きく上回っています。一方で、英国やEU、シンガポールなどの同盟国はむしろ税率が上昇するという逆転現象が生じています。

農産物と航空機:セクター別の恩恵

農産物への関税軽減

ブラジルの対米農産物輸出に対する関税軽減は、実は最高裁判決以前から段階的に進んでいました。2025年11月14日、トランプ大統領は牛肉、オレンジジュース、コーヒー、肥料など約200品目を10%相互関税の対象外とする大統領令を公布しました。さらに同月20日には、コーヒー、牛肉、果物など249品目をブラジル向け40%追加関税の対象外とする追加措置を講じています。

品目別に見ると、影響は以下のとおりです。

牛肉については、相互関税(10%)と追加関税(40%)の双方から除外されました。背景には、米国内での牛肉生産量の減少があり、輸入に頼る必要性が高まっていた事情があります。2025年の統計では、ブラジル産牛肉の対米輸出額は前年同期比20.8%増加しています。

コーヒーは、関税引き上げの影響を大きく受けた品目でした。2025年7月の40%追加関税の導入後、対米コーヒー輸出量は680万袋から456万袋へと大幅に減少していました。関税免除措置により、この流れの反転が期待されています。輸出額ベースでは前年同期比6.8%増を維持していましたが、数量ベースでの回復が今後の焦点となります。

オレンジジュースについては、ブラジル柑橘果汁ジュース輸出業者協会が、10%の関税が企業の利益率を直接圧迫していたと指摘しています。米国はブラジル産オレンジジュース輸出の42%を占める最重要市場であり、関税軽減の影響は特に大きいとされています。

ブラジルのファバロ農業・畜産相は、一連の措置により「技術的・制度的対話が正常化した」と評価し、「交渉すべき項目はまだ多いが、ブラジル農業にとって喜ばしい決定だ」とコメントしています。副大統領兼開発商工サービス相のアルクミン氏は、高関税対象品の割合がブラジル輸出全体の36%から22%に低下したと説明しました。

航空機免税とEmbraerへの恩恵

航空機セクターでは、さらに踏み込んだ恩恵が実現しました。新たな関税体制のもとで、商用航空機、エンジン、航空宇宙関連機器は15%のグローバル関税から完全に免除されています。

この措置が最も大きな恩恵をもたらすのが、ブラジルの航空機メーカーEmbraer(エンブラエル)です。同社のE175型機は米国のリージョナル(地域間)航空市場で約80%のシェアを持ち、まさに支配的な地位にあります。2013年以降、E175は同セグメントで837機を受注し、88%という圧倒的な市場占有率を記録してきました。

これまでブラジル製航空機には10%の輸入関税が課される一方、競合するフランスのダッソー・アビアシオンやカナダのボンバルディエの製品は無税で米国市場に参入できるという不均衡がありました。今回の免税措置により、この競争上の不利が解消されることになります。

米国のリージョナル航空会社にとっても朗報です。アメリカン航空の地域子会社エンボイ・エアは2026年から2027年にかけて33機の新型E175の納入を予定しており、アラスカ航空も夏に次のE175納入を控えています。Embraerの試算では、2030年までに米国で76座席クラスの航空機300機以上が退役する見込みで、年間約40機の置き換え需要が見込まれています。

注意点と今後の展望

ブラジルが受けた恩恵は大きいものの、いくつかの不確実性が残ります。

第一に、15%のグローバル関税は1974年通商法第122条に基づく150日間の時限措置であり、2026年7月24日に期限を迎えます。その後の関税体制がどうなるかは不透明です。第二に、トランプ政権はブラジルの貿易慣行について国家安全保障の観点から調査を進めており、航空機やエンジン、部品に対する新たな関税が課される可能性も否定できません。

また、ブラジルは中国との貿易でも新たな課題に直面しています。2026年1月1日から、中国は輸入枠を超える牛肉に55%の関税を課しており、ブラジルの枠は年間110.6万トンに設定されました。これは2025年に約170万トンを輸出した実績を大きく下回るものです。米国市場での恩恵が、中国市場での制約をどの程度補えるかが今後の注目点となります。

2026年3月には、ルーラ大統領とトランプ大統領の首脳会談が予定されています。関税、投資、エネルギー・技術分野の協力など、幅広い議題が議論される見通しであり、この会談の成果が今後の米ブラジル通商関係を大きく左右するでしょう。

まとめ

米連邦最高裁のIEEPA関税違憲判決を契機に、ブラジルは対米輸出の関税環境が劇的に改善し、Global Trade Alertの分析によれば全貿易相手国のなかで最大の恩恵国となりました。農産物では牛肉、コーヒー、オレンジジュースなどの主力品目が関税免除を獲得し、航空機分野ではEmbraerが完全免税の恩恵を受けています。ただし、15%グローバル関税の時限性や国家安全保障調査の行方など、不確実性も残ります。3月の首脳会談を含め、今後の動向に注目が必要です。

参考資料

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