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by nicoxz

米最高裁が相互関税を違憲判断、代替関税10%へ

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はじめに

2026年2月20日、米連邦最高裁はトランプ大統領が各国・地域に課した相互関税を違憲と判断しました。国際緊急経済権限法(IEEPA)は大統領に関税を課す権限を与えていないとする、6対3の歴史的判決です。

トランプ大統領は判決に「深く失望した」と表明しつつ、即座に1974年通商法122条に基づく10%のグローバル関税を発動する大統領令に署名しました。さらに翌21日には15%への引き上げも表明しています。本記事では、判決の内容と代替関税の仕組み、そして今後の展望を解説します。

最高裁判決の詳細

判決の要旨

この訴訟は「Learning Resources, Inc. v. Trump」および「Trump v. V.O.S. Selections, Inc.」として審理されました。最高裁は9人の判事のうち6人の多数意見で、IEEPAに基づくトランプ関税を違法と判断しています。

判決の核心は、米国憲法が関税を課す権限を連邦議会に付与しているという点です。IEEPAは国際的な経済緊急事態に対処するために大統領に幅広い権限を与えていますが、最高裁はこの権限に関税の賦課は含まれないと判断しました。

無効となった関税

この判決により、IEEPAを根拠とした以下の関税が即座に無効となりました。

  • 相互関税:各国・地域に課された個別税率の関税(日本向けは24%)
  • フェンタニル関税:合成麻薬の米国流入を理由に中国、カナダ、メキシコに課された追加関税

一方で、通商拡大法232条に基づく自動車関税(25%)、鉄鋼・アルミニウム関税(25%)は最高裁判決の対象外であり、引き続き有効です。

約1,330億ドルの還付問題

違憲判決が出たことで、これまでIEEPAに基づいて徴収された約1,330億ドル(約20兆円)の関税の還付問題が浮上しています。最高裁判決は還付について明示していませんが、トランプ大統領は「法廷で争う」と表明しました。輸入企業による還付請求訴訟が相次ぐ可能性が指摘されています。

代替関税の仕組み

通商法122条とは

トランプ大統領が代替措置として用いた1974年通商法122条は、「大規模かつ深刻な」国際収支の赤字に対処するために、大統領に最大15%の輸入課徴金または輸入割当を課す権限を付与しています。事前調査は不要で、大統領令により即座に発動できます。

この条項がこれまで関税賦課に使用された前例はなく、初めての適用となります。

122条の3つの制約

通商法122条にはIEEPAと比較して3つの重要な制約があります。

第一に、150日間の時限措置です。 発動から150日間(約5カ月間)で自動的に失効し、延長には議会の承認が必要です。つまり、2026年7月下旬までに議会が延長を承認しなければ、関税は終了します。

第二に、一律適用の義務です。 全世界に均一の税率を適用する必要があり、国・地域ごとに異なる税率を設定することができません。相互関税では各国の対米貿易黒字に応じて個別税率を課していましたが、122条ではそうした差別化が不可能です。

第三に、税率の上限が15%です。 IEEPAでは実質的に税率の上限がなく、一部の国には50%以上の関税が課されていましたが、122条では最大15%に制限されます。

10%から15%への引き上げ

トランプ大統領は2月20日に10%の代替関税を発表した後、翌21日には15%への引き上げを表明しました。122条の上限である15%まで引き上げることで、関税収入の最大化を図る狙いです。代替関税は2月24日午前0時1分(米東部時間)から発動されています。

米政権の多角的な関税戦略

複数法を組み合わせた対応

ベッセント財務長官は、通商法122条、通商拡大法232条、通商法301条を組み合わせることで「2026年の関税収入は実質的に変わらない」と述べています。これは、最高裁判決による関税収入の減少を他の法的根拠に基づく関税で補填する戦略を示唆しています。

具体的には、自動車・鉄鋼・アルミニウムへの232条関税、中国への301条関税(知的財産権侵害を理由とした関税)に加え、122条のグローバル関税を組み合わせることで、関税政策全体の維持を図っています。

議会との攻防

今後の焦点は、150日間の期限切れ後の対応です。トランプ政権は議会に新たな関税法案の可決を求める方針とみられますが、共和党内にも自由貿易派は存在し、議会の承認が得られるかは不透明です。

注意点・展望

最高裁判決は「大統領の関税権限には限界がある」という重要な判例を確立しました。しかし、トランプ政権は代替手段を次々と打ち出しており、高関税政策の基本姿勢を変える考えはありません。

世界経済にとっての影響は、122条関税の税率(最大15%)がIEEPAに基づく相互関税(多くの国で20〜50%)よりも大幅に低いことです。これは各国の輸出企業にとって短期的にはプラスですが、150日後に何が起きるかは予断を許しません。

トランプ大統領は「関税を法廷で争い続ける」と表明しており、政策の不確実性は当面続くと見られます。企業は複数のシナリオに対応できる柔軟な経営戦略が求められます。

まとめ

米連邦最高裁の相互関税違憲判決は、トランプ政権の通商政策に大きな転換を迫りました。トランプ大統領は通商法122条に基づく10〜15%の代替関税で対応していますが、150日間の時限措置であり、一律適用・税率上限15%という制約があります。

約1,330億ドルの還付問題や、150日後の関税の行方など、不確実性は残ります。「大統領だけでは関税を決められない」という最高裁判決は、今後の米国の通商政策のあり方を根本的に変える可能性を秘めています。

参考資料:

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