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by nicoxz

トランプ関税の還付請求権が「転売」市場を生む

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はじめに

2026年2月20日、米連邦最高裁判所はトランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した関税を6対3で違憲・無効と判断しました。この画期的な判決により、推定1300億〜1750億ドルに上る徴収済み関税の還付が焦点となっています。

しかし、最高裁は還付の方法や時期について具体的な判断を示さず、米国際貿易裁判所(CIT)に差し戻しました。トランプ政権は還付に応じる姿勢を見せておらず、「裁判で5年かかる可能性がある」と述べています。

こうした不確実性の中で、還付金を受け取る「権利」を売買する取引市場が急速に拡大しています。この記事では、還付請求権取引の仕組みと中小企業への影響を解説します。

最高裁判決の衝撃と還付問題

IEEPAの関税は違憲

ロバーツ首席裁判官が執筆した多数意見は、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと明確に判断しました。これにより、2025年4月以降にトランプ大統領が発動した「相互関税」、および中国・メキシコ・カナダへの追加関税が法的根拠を失いました。

判決を受け、トランプ政権は2月24日午前0時をもってIEEPAに基づく関税の徴収を停止する大統領令を発出しました。ただし、通商法122条など別の法的根拠に基づく新たな関税措置への移行を模索しています。

還付の道のりは険しい

最大の問題は、既に徴収された関税の還付です。最高裁は「還付すべきかどうか」について明確な判断を示さず、CITに差し戻しました。ベッセント財務長官は「還付には訴訟が何年もかかる可能性がある」と発言し、トランプ政権は「徴収済みの資金は有効」という立場を崩していません。

現在、CITには1000件以上の還付関連訴訟が提起されています。コストコなどの大手小売業を含む約2000社の輸入業者が訴訟を起こしており、CITは訴訟を一元管理するための運営委員会の設置を検討しています。

還付請求権の「転売」市場

中小企業が権利を手放す理由

還付の実現時期が不透明な中、資金繰りを早く安定させたい中小企業の間で、還付請求権を売却する動きが広がっています。法的には、関税の還付を政府に請求できるのは「記録上の輸入者」(importer of record)に限られます。しかし、契約上の取り決めにより、還付金の受取権を第三者に譲渡することが可能です。

中小企業にとって、数年にわたる訴訟を続ける資金的余裕はありません。ある中小企業経営者は「お金を取り戻すためだけに訴訟当事者にならなければならないのはおかしい」と不満を表明しています。還付額の一部を手数料として差し引かれても、今すぐ現金を確保できる方が経営上の合理性があると判断する企業が増えています。

違憲判決で買取価格が急騰

最高裁判決により還付の可能性が大幅に高まったことで、還付請求権の買取価格が急上昇しています。判決前は還付見込み額の30〜40%程度だった買取価格が、判決後には60〜80%程度まで上昇したとの報告があります。

投資家やリティゲーション・ファイナンス(訴訟金融)の専門会社が、還付請求権を購入する主な買い手です。彼らは長期の訴訟リスクを引き受ける代わりに、最終的に還付が実現した際に利益を得ることを狙っています。

法的な課題

この取引には法的な複雑さがあります。CITは2026年1月に訴訟の提出書式を改定し、訴訟を起こす原告に対して「第三者から資金提供を受けているかどうか」を開示するよう求めるようになりました。

また、サプライチェーン上の契約関係も問題です。輸入業者が還付請求権を売却する場合、契約上の他の当事者(サプライヤーや小売業者)への通知や同意が必要となるケースがあります。こうした権利関係の整理が不十分なまま取引が行われれば、後に紛争の原因となる可能性があります。

日本企業への影響

還付訴訟への参加

日本の輸出企業や米国子会社も、還付請求権の確保に動いています。ブルームバーグの報道によると、リコーなどの日本企業も還付の対象となり得ます。弁護士事務所は日本企業に対し、CITへの訴訟提起や行政手続きでの還付申請を急ぐよう助言しています。

還付権利を確保するためには、関税の「清算」(liquidation)が確定する前に行動する必要があります。通常、清算は輸入日から約314日後に行われるため、時間的な猶予は限られています。

情報整理が急務

多くの日本企業にとって、自社がどの程度の関税を支払い、どの法的根拠に基づく関税が対象となるのかを正確に把握することが第一歩です。IEEPA関税と、それ以前から存在する301条関税(対中国)や232条関税(鉄鋼・アルミ)は別の法的枠組みであり、今回の違憲判決の対象はIEEPA関税に限定されます。

注意点・展望

還付実現の見通し

原告側はCITに対して「10日以内に政府各機関に還付を指示する」命令を求めていますが、2月26日に政府側に最初の回答期限が設定されており、司法省の対応が注目されています。楽観的なシナリオでも還付開始は2026年後半以降とみられ、悲観的なシナリオでは数年かかる可能性があります。

新たな関税への警戒

トランプ政権はIEEPA関税が無効になった後も、通商法122条や301条など別の法的根拠で新たな関税を課す可能性を示唆しています。最高裁判決は「IEEPAでは関税を課せない」と述べたに過ぎず、議会が承認した貿易法に基づく関税は引き続き有効です。企業は還付を待つ間にも、次の関税リスクに備える必要があります。

まとめ

米最高裁がIEEPA関税を違憲と判断したことで、推定1300億〜1750億ドルの還付が焦点になっています。しかし還付時期が不透明なため、中小企業を中心に還付請求権を第三者に売却する取引市場が急速に拡大しています。

違憲判決後、買取価格は急騰しましたが、取引には法的な複雑さがあり、訴訟金融会社や投資家が主な買い手となっています。日本企業も還付権利の確保に動いていますが、対象となる関税の整理と迅速な対応が求められます。今後はCITでの還付手続きの進展と、トランプ政権の新たな関税措置の動向が注目されます。

参考資料:

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