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by nicoxz

トランプ関税に違憲判決、日本企業2.9兆円の行方

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はじめに

2026年2月20日、米連邦最高裁判所はトランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した相互関税について、大統領の権限を逸脱しているとして違憲判決を下しました。判決は6対3の賛成多数で、ロバーツ長官が多数意見を執筆しました。

日本企業にとってこの判決は極めて大きな意味を持ちます。IEEPA関税による日本企業の年間負担額は約2.9兆円規模とされており、違憲判決を受けて過去に支払った関税の還付を求める動きが急速に広がる見通しです。一方で、トランプ大統領は直ちに通商法122条に基づく新たな関税を発動するなど、通商政策の混乱は続いています。本記事では、判決の詳細とその影響について解説します。

米最高裁判決の詳細と法的根拠

IEEPAに基づく関税は「大統領権限の逸脱」

米連邦最高裁は、トランプ大統領が1977年制定の国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠として各国・地域に課した関税について、「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」と明確に判断しました。ロバーツ長官が執筆した法廷意見では、IEEPAの条文にある「輸入を規制する(regulate importation)」という文言に関税の賦課は含まれないと結論づけています。

米国憲法は関税を課す権限を連邦議会に付与しており、大統領が議会の承認なく一方的に関税を設定することは権力分立の原則に反するという考え方が判決の根幹にあります。ゴーサッチ判事とバレット判事は補足意見で、大統領への権限委譲の限界を改めて強調しました。また、リベラル派のケーガン判事もソトマイヨール、ジャクソン両判事とともに結論に同意しています。

違憲判決の対象となった関税措置

今回の判決により無効とされた関税は広範囲にわたります。具体的には、カナダ・中国・メキシコに対するフェンタニル関連関税、70カ国・地域以上を対象とした相互関税(いわゆる「解放の日」関税を含む)、ブラジル向け関税、インド向け二次関税などが含まれます。

一方で、通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム関税(25%)や、日米合意に基づく自動車関税(15%)は今回の判決の対象外であり、引き続き有効です。つまり、すべてのトランプ関税が撤廃されたわけではなく、法的根拠の異なる関税は存続しているという点に注意が必要です。

訴訟の経緯と判決に至るまで

IEEPA関税の合法性を巡る訴訟は、2025年から米国際貿易裁判所(CIT)で争われてきました。一審のCITがIEEPA関税を違法と判断した後、連邦巡回控訴裁判所もこの判断を支持。最終的に最高裁が上告を受理し、2026年2月20日に違憲判決を確定させました。この間、1,000社を超える企業が関税の返還を求める訴訟を提起しており、訴訟件数は2026年1月時点で900件超に達していたと報じられています。

日本企業への影響と還付訴訟の行方

年間2.9兆円の関税負担とその軽減見通し

日本に対しては、2025年7月の日米合意に基づきIEEPA関税率が15%に設定されていました。この関税による日本企業の年間負担額は約2.9兆円規模とされています。今回の違憲判決により、このIEEPA関税の法的根拠が消滅したことで、理論上はこの負担が大幅に軽減される可能性があります。

しかし、後述するようにトランプ大統領は直ちに通商法122条に基づく新たな関税を発動しており、日本企業にとって関税負担が完全になくなるわけではありません。それでも、IEEPA関税の15%と比較すれば、新たな関税は当面10〜15%の範囲であり、一定の負担軽減となる見込みです。

日本企業による還付訴訟の動向

判決前から、豊田通商(トヨタグループ)、横浜ゴム、住友化学、リコーなど少なくとも9社の日系企業が米国際貿易裁判所に提訴していたことが明らかになっています。これらの訴訟は、違法と判断された場合に関税の還付を受ける権利を確保するための「権利保全」としての性格が強いものでした。

違憲判決が確定した現在、これらの企業は実際の還付請求に向けた手続きを進めることになります。豊田通商は判決後、「関税の還付に必要な手続きは現時点では示されていないため、今後の状況を注視するとともに粛々と対応する」とコメントしています。

還付の規模と手続きの課題

ペンシルベニア大学ウォートン校の予算モデル(Penn Wharton Budget Model)の試算によると、IEEPA関税として米税関・国境警備局(CBP)が徴収した総額は2025年12月時点で約1,335億ドル(約20兆円)に達しています。2026年2月までの徴収分を含めると最大1,750億ドル(約26兆円)に上る可能性があるとされています。

ただし、最高裁判決は還付の自動的な仕組みを定めておらず、具体的な還付手続きの詳細は今後、米税関・国境警備局と米国際貿易裁判所の指針に委ねられています。TDセキュリティーズの推計では、実際の還付が行われるまでに12〜18カ月かかる見通しです。日本企業にとっては、対象となる輸入品目の特定、過去の通関データの整理、納付額の精査など、膨大な事務作業が求められることになります。

トランプ政権の対応と新たな関税措置

通商法122条による代替関税の発動

トランプ大統領は最高裁判決を受け、「非常に残念だ」「この国の恥だ」と最高裁を強く非難しました。そのうえで、IEEPA関税の徴収を終了する大統領令に署名する一方、直ちに1974年通商法122条に基づく新たな関税を発動すると発表しました。

通商法122条は、国際収支の深刻な赤字に対処するため、大統領が事前調査なしに最大15%の関税を全世界に一律で課すことができる規定です。当初は10%で発動するとしていましたが、翌21日には15%への引き上げを表明。この新関税は2026年2月24日午前0時1分(東部標準時)から発動されました。

通商法122条の制約と今後の見通し

通商法122条には重要な制約があります。最大で150日間の時限措置であり、延長には議会の承認が必要です。つまり、2026年7月中旬には期限を迎えることになります。また、税率の上限は15%であり、IEEPAで課していた高率の国別関税(中国向け145%など)を再現することはできません。

150日後の選択肢としては、議会に延長を求める、新たな法的根拠を模索する、あるいは関税をいったん失効させてから再度発動するといった手段が考えられますが、いずれも政治的・法的なハードルが高いとされています。米国の通商政策は大きな転換期を迎えており、今後の動向に注視が必要です。

注意点・今後の展望

今回の判決は画期的ではありますが、日本企業が直面する課題は依然として複雑です。

まず、還付訴訟については、権利保全のための提訴期限(リキデーション期限)が重要なポイントとなります。期限を過ぎると還付請求権を失う可能性があるため、まだ提訴していない企業は早急な対応が求められます。還付手続きの詳細が確定していない中でも、過去の通関記録の整理や納付額の検証など、準備を進めておくことが重要です。

次に、通商法122条に基づく新関税は150日間の時限措置ですが、その後に何が来るかは不透明です。議会が新たな関税法を制定する可能性や、他の法的根拠を活用した関税措置が導入される可能性もあり、日本企業は複数のシナリオを想定した対応策を用意する必要があります。

さらに、鉄鋼・アルミニウム関税(25%)や自動車関税(15%)はIEEPAとは異なる法的根拠に基づいているため、今回の判決の影響を受けません。日本の製造業にとって、これらの関税が引き続き経営上の負担となることには変わりありません。

まとめ

米最高裁によるIEEPA関税の違憲判決は、トランプ政権の通商政策に対する歴史的な司法判断となりました。日本企業にとっては、年間2.9兆円規模の関税負担が軽減される可能性がある一方で、還付手続きの不確実性や新たな関税措置の影響など、多くの課題が残されています。

企業としては、還付請求に向けたデータ整理を早期に進めるとともに、通商法122条の150日間の期限後を見据えた中長期的な戦略の見直しが不可欠です。米国の通商政策は依然として流動的であり、最新の動向を注視しながら柔軟に対応していくことが求められます。

参考資料

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