TSMC、AI半導体需要に生産能力追いつかず過去最高投資へ
はじめに
半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、2026年の設備投資を過去最高となる520億〜560億ドル(約8兆2,000億〜8兆8,800億円)とする計画を発表しました。前年比で27〜37%の大幅増となります。
TSMCは人工知能(AI)向け半導体の生産をほぼ独占していますが、需要の急増に供給が追いついていません。同社CEOの魏哲家(C.C.ウェイ)氏は「生産能力は非常にタイトな状況」と述べており、増産が急務となっています。
好調な業績
2025年12月期決算
TSMCが1月15日に発表した2025年12月期決算は、売上高が前期比31.6%増の3兆8,090億台湾ドルとなりました。年間売上高は初めて1,000億米ドルを突破しています。
2025年10-12月期(第4四半期)の純利益は5,057億台湾ドル(約2兆5,400億円)に達し、アナリスト予想平均の4,670億台湾ドルを上回りました。8四半期連続の成長を記録し、過去最高益を更新しています。
AI・HPCが牽引
好業績を支えたのはAIおよび高性能コンピューティング(HPC)向けプロセッサの販売です。2025年売上高の58%をこのセグメントが占めました。エヌビディアやAMDなど主要顧客からの需要は引き続き非常に強い状況です。
設備投資計画
過去最高の投資規模
2026年の設備投資額520億〜560億ドルは、2025年の409億ドルから大幅な増加となります。2024年の298億ドルから3年連続で約37%の成長を続けています。
この巨額投資は、エヌビディア、グーグル、アップルなどの主要顧客からの注文が減少する見込みがないことを示唆しています。AI向けデータセンターの建設・整備への投資は、計画支出で1兆米ドルを超えています。
パッケージング技術への注力
TSMCは今年の設備投資の10〜20%をパッケージング技術に充てる計画です。先進パッケージングは業界のボトルネックとなっており、エヌビディアのような企業が完成したチップシステムを待つ原因となっています。HPC顧客からの急速な需要増加に対応するため、積極的な能力拡大を進めています。
需給逼迫の実態
「非常にタイト」な生産能力
魏CEOは生産能力について「非常にタイトな状況」と表現しています。エヌビディアやブロードコムは追加の生産能力を要請しましたが、TSMCからは希望どおりの供給量を確保できないと告げられました。
2nmウェハーの予約状況
TSMCの2nmウェハーへの需要は供給を圧迫しており、同社の生産能力は2026年末まで予約で埋まっています。3nmノードでも供給不足が予想され、2026年に価格が3%上昇する見込みです。
台湾の電力問題
台湾の電力供給不足は大きな課題です。魏CEOは、台湾で無制限の能力拡大とAIデータセンターの成長を支えるのに十分な電力を確保することへの懸念を認めています。
グローバル展開
米国アリゾナ工場
TSMCはアリゾナ州での能力拡大を加速しています。高稼働生産は2027年後半に開始予定で、第3工場の建設は既に開始されています。第4工場と先進パッケージング施設の許可申請も行っており、拡張計画を支援するため大規模な土地の2回目の購入も完了しました。
日本・ドイツでの工場建設
TSMCは日本やドイツでも工場建設を進めています。熊本県では第1工場が稼働を開始し、第2工場の建設も進行中です。台湾で最先端技術を開発しながら、国際的な事業拡大を加速させています。
競合他社の状況
圧倒的な市場シェア
2025年第3四半期時点で、TSMCは世界のファウンドリ市場において72%のシェアを獲得しています。2024年第2四半期の65%から、わずか1年あまりで7ポイント上昇しました。「TSMC一強」の構図は2026年に向けてさらに強固になると分析されています。
サムスン・インテルの苦戦
サムスンはTSMCに次ぐ2位のファウンドリですが、最先端プロセスでの歩留まりで苦戦しています。インテルは2021年にファウンドリ事業を本格開始しましたが、外部顧客獲得が難航しています。
インテルは財務上の懸念から、次世代チップ「14A」の開発を中止する可能性を警告しました。これが実現すれば、米国の半導体製造に打撃を与え、TSMCの優位性がさらに拡大するリスクがあります。
注意点・今後の展望
AIバブルへの警戒
魏CEOはAIバブルの可能性について「非常に神経質になっている」と述べています。巨額の設備投資を行う一方で、不注意な投資は「TSMCにとって確実に災難となる」と警戒感を示しています。需要が期待通りに継続するかどうかが重要な不確実要素です。
地政学的リスク
世界のAI開発と経済安全保障がTSMCの製造能力と台湾海峡の安定に依存している現状は、深刻な課題です。サプライチェーンのリスクが台湾の一企業に集中していることへの懸念は、各国の政策立案者にとって重要なテーマとなっています。
競合の巻き返し可能性
増産が滞れば、サムスンやインテルの巻き返しにつながる可能性があります。ただし現時点では、TSMCのエコシステムの規模が最大の優位性となっており、競合他社が短期間で追いつくことは困難な状況です。
まとめ
TSMCの過去最高となる設備投資計画は、AI半導体需要の持続的な成長への確信を示しています。しかし、需要に対して供給が追いついていない「綱渡り」の状況は2026年も続く見通しです。
世界の半導体製造がTSMC一社に依存する構図は、地政学的リスクとサプライチェーンの脆弱性という課題を浮き彫りにしています。AI産業の急成長を支えるTSMCの動向は、2026年のテクノロジー市場全体を占う重要な指標となるでしょう。
参考資料:
- TSMC announces 2026 capex spend of $56bn after posting eighth consecutive quarter of growth
- TSMC delivers another record quarter as profit jumps 35% fueled by robust AI chip demand
- TSMC plans record capex of up to $56bn 2026 amid AI boom
- TSMC「一強」体制の完成:世界シェア72%へ拡大
- TSMC ‘very nervous’ about AI bubble concerns despite another record-setting quarter
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