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by nicoxz

建設業の受注余力が限界に、7割が大型工事停止で経済成長に影響

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はじめに

日本の建設業界が深刻な危機に直面しています。日本経済新聞が実施した最新調査によると、大手・中堅の建設会社の約7割が2026年度内は大型工事を新規受注できないとみていることが明らかになりました。この衝撃的な数字の背景には、建設業界の深刻な人手不足と2024年問題の影響があります。

さらに憂慮すべきことに、約4割の建設会社が契約済みの工事で工期が遅れる可能性があると回答しています。これは、民間企業の設備投資や公共インフラ整備が大幅に遅延する可能性を意味し、日本経済の成長戦略に重大な影響を及ぼす懸念があります。

本記事では、建設業界の受注余力縮小の実態、人手不足が深刻化した背景、2024年問題の具体的な影響、そして日本経済への波及効果について詳しく解説します。

建設業界の受注余力縮小の実態

調査結果の詳細

日本経済新聞が2025年12月中旬に実施した調査は、国内の建築工事売上高(単体ベース)の上位71社を対象としており、45社から回答を得ました。この調査から浮かび上がったのは、業界全体の受注能力が限界に達しているという厳しい現実です。

大手・中堅の建設会社の約7割が2026年度内は大型工事を新規受注できないと回答した理由は、慢性的な人手不足にあります。建設業界では、時間外労働の上限規制が2024年4月から適用されたことで、従来のように長時間労働で工期遅れを取り戻すことができなくなりました。

工期遅延のリスク

さらに深刻なのは、約4割の建設会社が契約済みの工事で工期が遅れる可能性があると回答した点です。これは、すでに発注を受けている工事であっても、予定通りに完成させることが困難になっている状況を示しています。

工期遅延の主な原因は、熟練工の不足と若手人材の確保難です。建設業では60歳以上の技術者が全体の25.7%を占める一方、29歳以下は11.7%に留まっています。高齢化が急速に進む中、技能の継承が追いついておらず、現場の生産性が低下しているのです。

受注選別の実態

人手不足が深刻化する中、大手建設会社は採算重視の受注を徹底しており、条件の厳しい工事の受注に後ろ向きになっています。具体的には、工期が短い工事、利益率の低い工事、技術的に難易度の高い工事などを敬遠する傾向が強まっています。

この受注選別により、中小規模の工事や地方の公共工事が発注されても、受注する建設会社が見つからないという「入札不調」が増加しています。経済的に余裕のある大手企業は高利益案件を選別し、中小企業は人手不足で受注能力が限られるという二極化が進んでいます。

建設業の人手不足が深刻化した背景

就業者数の長期的減少

建設業の就業者数は、1997年の685万人をピークに減少を続け、2022年には479万人まで落ち込みました。わずか25年間で200万人以上、約30%もの労働力が失われたことになります。

この減少の主な原因は、バブル崩壊後の公共事業削減により建設需要が縮小し、多くの労働者が他産業へ流出したことです。また、建設業は「きつい、汚い、危険」のいわゆる3K職場というイメージが定着し、若年層の入職が減少しました。

高齢化と技能継承の課題

建設業就業者の高齢化は他産業と比較しても際立っています。60歳以上が全体の4分の1を占める一方、若手人材の確保が進んでいません。今後10年間で大量の熟練工が引退する「2030年問題」が迫っており、技能継承が喫緊の課題となっています。

特に、型枠工、鉄筋工、左官工といった専門職種では熟練技能の継承が遅れており、技術水準の低下が懸念されています。これらの職種は経験と勘が重要であり、一朝一夕には育成できません。

人手不足倒産の急増

帝国データバンクの調査によると、2025年の人手不足倒産は427件で3年連続過去最多を更新しました。業種別では建設業が113件で初めて100件を超え、全体の約4分の1を占めています。

これは、人手を確保できないために事業継続が困難になる企業が急増していることを示しています。特に、改正建設業法の影響で工務店など小規模元請の倒産が増え、好業績の企業に人材が集中する二極化が進んでいます。

2024年問題の具体的影響

時間外労働の上限規制

建設業の2024年問題とは、2024年4月1日から建設業においても時間外労働の上限規制が適用されることを指します。働き方改革の一環として2019年4月から多くの業界で適用されていましたが、慢性的な人材不足や長時間労働が常態化していた建設業には5年の猶予期間が設けられていました。

具体的には、時間外労働は年720時間以内、月100時間未満(休日労働を含む)という上限が設けられました。これにより、従来のように休日出勤や長時間残業で工期遅れを取り戻すことが法的に不可能になりました。

工期への影響

時間外労働の制限により、最も深刻な影響を受けているのが工期管理です。現場担当者からは「天候による工期の遅れを取り戻すことが困難になった」「これまでは休日出勤で遅れを取り戻していたが、現在は休日を確保しなければならず、工期遅れへの新たな対処法を検討しなければならない」という声が挙がっています。

特に、土木工事では天候の影響を受けやすく、梅雨や台風の時期には作業が中断されることが頻繁にあります。従来は晴天時に集中的に作業を行い、遅れを取り戻していましたが、上限規制によりそれが困難になっています。

企業経営への負担増

時間外労働の制限により、同じ工事量をこなすためには、より多くの労働者を雇用する必要があります。しかし、人手不足が深刻化している現状では、必要な人員を確保することが困難です。

さらに、2023年4月からは中小企業でも月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%に引き上げられました。これにより、残業代として支払う額が増え、企業の人件費負担が増大しています。

対応状況と課題

2024年9月時点のシニア専門求人サイト調査によると、建設業のシニア向け求人では「年間休日120日以上」が20.2%、「土日祝休み」が29.9%と、他業種と比較して休日が多い傾向にあります。これは、建設業界全体で働き方改革への対応が進んでいることを示しています。

国土交通省が策定した「建設業働き方改革加速化プログラム」に基づく取り組みでは、週休2日制の導入が公共工事では着実に拡大しています。しかし、民間工事での普及は依然として課題となっており、発注者の理解促進が必要な状況です。

日本経済への波及効果と懸念

設備投資への制約

建設業の受注余力縮小は、民間企業の設備投資を直接的に制約します。2025年1月、経団連は民間企業による国内向けの設備投資を2030年度に135兆円、2040年度に200兆円にすることを目指す新たな目標を示しました。しかし、建設業の供給制約が実現への大きな障壁となっています。

実際、設備投資の計画と実績を見ると、コロナ禍以降その乖離が大きくなっており、「工期の遅れ」「工事費高騰に伴う見直し」が顕著に増加しています。企業が設備投資を計画しても、建設会社が受注できない、または工期が大幅に遅延するという事態が頻発しているのです。

公共インフラ整備の遅延

公共事業も深刻な影響を受けています。日本のインフラは高度経済成長期に整備されたものが多く、老朽化が進んでいます。道路や橋梁などのインフラで建設から50年以上経過しているものも多く、維持・更新が急務となっています。

しかし、建設業の受注余力が限界に達している現状では、必要なインフラ整備が進まないリスクがあります。特に、防災・減災対策や耐震補強などの国土強靭化に関わる工事が後回しにされる懸念があります。

建設費の高騰

人手不足を背景に、労務費が急騰しています。建設業の有効求人倍率は5倍超と、ひときわ人手不足が顕著です。企業は労働者を確保するため賃金を引き上げており、それが建設費の高騰につながっています。

労務費の上昇を主因とする建設費の高騰は、しばらく収まりそうもなく、2026~27年にかけても続けば、建築需要の減少を一層後押ししかねないと警戒されています。建設費が高騰すれば、予算の制約から工事を断念する発注者が増え、建設需要そのものが縮小する悪循環に陥る可能性があります。

経済成長への足かせ

建設投資は国内総生産(GDP)の約10%を占める重要な経済活動です。建設業の供給制約は、日本経済の成長戦略に直接的な悪影響を及ぼします。

政府は半導体工場の誘致やデータセンター建設など、成長分野への投資を促進していますが、建設業の受注余力が限られていれば、これらの政策効果は限定的になります。経済成長のボトルネックとして、建設業の人手不足問題が浮上しているのです。

注意点と今後の展望

需要縮小のバッドシナリオ

建設業界には「需要縮小のバッドシナリオ」というリスクが存在します。建設費の高騰が続けば、発注者は工事を延期または中止せざるを得なくなり、建設需要が減少します。需要が減少すれば、建設業の雇用も減少し、人手不足が一見解消されたように見えても、実際には産業全体が縮小しているという事態になりかねません。

このバッドシナリオを回避するためには、生産性の向上と適正な価格転嫁が不可欠です。

DX・ICT活用の遅れ

建設業従事者の6割が「2025年の崖」(DXの遅れによる競争力低下)を認識していないという調査結果があります。デジタル化への遅れが浮き彫りになっており、生産性向上の大きな障害となっています。

建設現場でのICT(情報通信技術)活用、BIM(Building Information Modeling)の導入、ドローンや重機の自動化など、技術革新による生産性向上の取り組みは進んでいますが、中小企業での普及は限定的です。

適正な工期・価格の実現

国土交通省や業界団体は、適正な工期設定と価格転嫁の重要性を訴えています。しかし、発注者の理解が十分でなく、短工期・低価格での発注が依然として多いのが実情です。

適正な工期と価格での発注がなければ、建設企業だけの努力では限界があります。官民一体となった継続的な取り組みが、2024年問題解決のカギとなっています。

若手人材の確保・育成

長期的には、若年層の建設業への入職促進が最重要課題です。建設業のイメージ改善、労働環境の整備、キャリアパスの明確化などにより、「選ばれる産業」に変わる必要があります。

国土交通省は、建設業の魅力発信や教育機関との連携強化など、若手人材確保に向けた施策を展開していますが、効果が現れるまでには時間がかかります。

まとめ

建設業界の受注余力縮小は、一企業や一業界の問題ではなく、日本経済全体に影響を及ぼす構造的課題です。大手建設会社の7割が2026年度の大型工事受注を停止する見込みという衝撃的な調査結果は、この問題の深刻さを如実に示しています。

2024年問題による時間外労働の上限規制は、建設業の働き方を改善する重要な施策ですが、短期的には受注能力のさらなる低下と工期遅延を招いています。人手不足倒産が過去最多を記録し、契約済み工事の4割で工期遅延リスクが指摘される現状は、危機的状況と言えるでしょう。

この問題を解決するためには、DX・ICT活用による生産性向上、適正な工期・価格での発注、若手人材の確保・育成など、多面的な取り組みが必要です。特に、発注者の理解と協力なしには、建設企業だけの努力では限界があります。

建設業は、住宅、オフィス、工場、道路、橋梁など、社会の基盤を支える重要な産業です。その供給能力が制約されることは、日本の経済成長と国民生活に直結する問題であり、官民一体となった早急な対策が求められています。

参考資料:

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