建設業界7割が大型工事受注できず、人手不足が経済成長の足かせに
はじめに
日本の建設業界が深刻な岐路に立たされています。日本経済新聞の調査により、大手・中堅の建設会社の約7割が2026年度内に大型工事を新規受注できない見通しであることが明らかになりました。背景にあるのは、業界全体を蝕む深刻な人手不足です。この状況は単に建設業界の問題にとどまらず、民間の設備投資や公共投資を制約し、日本経済全体の成長を阻む要因となる可能性があります。本記事では、建設業界が直面する人手不足の実態と、それが経済に与える影響について詳しく解説します。
建設業界の人手不足の実態
就業者数の急激な減少
建設業界の人手不足は数字で見ると一層深刻さが際立ちます。国土交通省の統計によると、1997年には685万人いた建設業就業者が、2022年には479万人まで落ち込み、実に200万人以上が減少しました。これはピーク時と比べて約28%の減少に相当します。
さらに懸念されるのは、就業者の高齢化です。令和4年時点で建設業就業者の35.9%は55歳以上となっており、一方で29歳以下の就業者はわずか11.7%にすぎません。この構造は、今後さらに労働力が減少することを示唆しています。
倒産件数の急増
人手不足は建設企業の経営を直撃しています。帝国データバンクの調査によると、2025年上半期(1月から6月)には人手不足倒産が202件も発生しました。これは過去最多の水準であり、業界の厳しい状況を物語っています。建設企業は仕事を受注する際に、施工体制を組むための職人や現場監督を確保できないため、優良案件の受注を諦めざるを得ない状況が頻発しているのです。
2024年問題の影響
状況をさらに複雑にしているのが、2024年4月から施行された時間外労働の上限規制です。いわゆる「2024年問題」により、休日出勤を含めた長時間労働の制限が厳しくなりました。これにより、天候による工期の遅れを残業で取り戻すという従来の手法が使えなくなっています。
多くの工事現場で「1割から3割分に相当する工期不足」を抱えていることが明らかになっており、時間外労働の制限が工期遅延を加速させています。従来の工期を守るためにはより多くの人員を投入する必要が生じるため、人件費の総額である労務単価が実質的に上昇し、企業の収益を圧迫しているのです。
経済成長への影響
設備投資と公共投資への制約
建設業界の受注余力縮小は、日本経済全体に深刻な影響を及ぼします。設備投資はGDP全体の約2割を占め、財(モノ)やサービスの供給能力を形成するため、経済成長の原動力としての役割を果たしています。建設業界が新規案件を受注できないということは、企業の生産設備拡張や工場建設が遅延することを意味します。
また、公共投資についても同様の制約が生じます。政府が景気刺激策として公共事業を増やしても、それを実行する建設業界の受注能力が限界に達していれば、政策効果は大きく減殺されてしまいます。建設投資は日本銀行が景気判断の重要な材料としている指標であり、その停滞は経済全体の減速を招く可能性があります。
工期遅延がもたらす連鎖的影響
今回の調査では、契約済みの工事で工期が遅れる可能性があると回答した企業が約4割に上りました。工期遅延は単に建設プロジェクトの完成が遅れるだけでなく、様々な連鎖的影響をもたらします。
製造業の新工場が予定通り稼働できなければ、生産計画に狂いが生じます。商業施設のオープンが遅れれば、テナント企業の事業計画に影響が及びます。インフラ整備の遅延は、地域経済の発展を阻害します。このように、建設業界の問題は経済全体に波及する構造的課題なのです。
需給ギャップの拡大
建設投資は近年回復傾向にあります。2025年度の建設投資見通しは前年度比3.2%増の75兆5,700億円とされており、特に民間投資は前年度比4.5%増と堅調です。しかし、建設業界の労働力は減少を続けており、需要と供給のギャップが拡大しています。
この需給ギャップは、工事単価の上昇を招く一方で、受注できない案件が増えるという矛盾した状況を生み出しています。需要があっても供給できないという状態は、経済の潜在成長力を抑制する要因となります。
業界が直面する課題と対策の方向性
若年層の人材確保の困難さ
建設業界が敬遠される最大の理由は、激務や休日が少ないというイメージです。若い世代にとって、長時間労働が常態化している業界は魅力的に映りません。新規採用が難しく、採用できても定着しないという悪循環が続いています。
この状況を打破するには、働き方改革が不可欠です。4週8休を確保できる適正な工期設定、週休2日制の実現、そして労働環境の改善が求められます。しかし、これらの改革を進めるほど、短期的には受注能力がさらに低下するというジレンマも存在します。
業務効率化とDX化の推進
人手不足を補う方法として、業務効率化とデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されています。建築図面の管理や現場管理にITツールを導入することで、検査にかかる時間を短縮できます。ドローンやAIを活用した現場監視、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)による設計効率化なども進められています。
また、建設キャリアアップシステムの導入により、技能者の資格や現場の就業履歴を業界横断的に登録・蓄積し、建設技能者の能力を見える化する取り組みも進んでいます。これにより、適正な評価と処遇改善を実現し、業界の魅力向上を図る狙いがあります。
適正な工期とコストの確保
発注者側の理解と協力も重要です。従来の短納期・低価格という発注慣行を見直し、適正な工期とコストを確保する必要があります。長時間労働を是正するためには、十分な工期を設定し、適切な人員を配置できる予算を確保しなければなりません。
公共工事においては、国や地方自治体が率先して適正な発注条件を提示することが期待されます。民間工事においても、発注企業が持続可能な建設業界の実現に向けて、協力する姿勢が求められています。
まとめ
建設業界の人手不足は、業界単独の問題ではなく、日本経済全体の成長を左右する重要な課題です。大手・中堅企業の7割が大型工事を新規受注できないという状況は、民間設備投資と公共投資を制約し、経済成長の足かせとなります。
解決には、働き方改革による業界の魅力向上、DX化による生産性向上、そして発注者側の理解に基づく適正な工期・コスト設定が必要です。これらの取り組みは一朝一夕には実現できませんが、持続可能な建設業界を構築し、日本経済の成長基盤を守るために、官民一体となった抜本的な改革が急務となっています。
企業は長期的視点で人材育成と業務効率化に投資し、政府は規制緩和と支援策を講じ、発注者は適正な取引条件を提供する。この三者の協力があってこそ、建設業界の再生と日本経済の持続的成長が実現できるのです。
参考資料:
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