TSMC、10-12月期は過去最高益、AI半導体が成長牽引
はじめに
半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、2025年10-12月期決算で売上高・純利益ともに過去最高を記録しました。米NVIDIAをはじめとする顧客向けの人工知能(AI)関連半導体の販売拡大が、好業績を強力に牽引しています。
生成AIブームを背景に、TSMCは世界の半導体産業において圧倒的な存在感を示しています。本記事では、TSMCの最新決算内容と、AI半導体市場の動向、そして今後の成長戦略について詳しく解説します。
2025年10-12月期決算の概要
過去最高の売上高と純利益
TSMCが2026年1月15日に発表した2025年10-12月期決算は、売上高が前年同期比20.5%増の1兆460億台湾ドル(約5兆2000億円)、純利益が35%増の5057億台湾ドル(約2兆5400億円)でした。いずれも四半期ベースで過去最高を更新しています。
この好業績を牽引したのは、NVIDIAなどに供給するAI向け先端半導体の販売拡大です。生成AIの処理を担うサーバー向けチップの需要が急増しており、TSMCの先端プロセス技術への注文が殺到しています。
市場予想を上回る業績
純利益は市場予想を上回り、投資家からの評価も高まりました。この好決算を受けて、ニューヨーク株式市場ではダウ工業株30種平均が反発して始まるなど、世界の金融市場にもプラスの影響を与えました。
設備投資計画の引き上げ
TSMCは2026年12月期通期の設備投資計画を前年から引き上げることを発表しました。AI需要の拡大に対応するため、先端プロセスの生産能力増強を加速させる方針です。2025年の設備投資額は約409億ドルとなっています。
AI半導体市場の急成長
生成AI需要が牽引
TSMCの好業績の背景には、生成AI市場の爆発的な成長があります。ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)の普及により、高性能なAIチップへの需要が急増しています。
UBSの予測によると、グローバルAI設備投資は2025年に60%増の3,600億ドル、2026年にはさらに33%増の4,800億ドルに成長する見通しです。この投資の多くがTSMCの先端半導体製造に向けられています。
NVIDIAとの緊密な関係
TSMCの最大顧客の一つであるNVIDIAは、AI学習用GPUで圧倒的なシェアを持っています。NVIDIAのBlackwellアーキテクチャは、TSMCの先端プロセスで製造されており、データセンター向け売上は四半期で411億ドルに達しています。
NVIDIAは次世代の「Rubin」「Rubin Ultra」チップにTSMCの3nm・2nmプロセスを採用する計画であり、両社の関係はますます深まっています。
半導体市場全体の見通し
世界半導体貿易統計(WSTS)によると、2025年の世界半導体市場は前年比22.5%増の7,722億ドル、2026年はさらに26.3%増の9,755億ドルに達する見込みです。2024年から3年連続の2桁成長が予測されており、その成長の中心にAI関連半導体があります。
先端プロセス技術の進化
2nmプロセスの量産開始
TSMCは2025年12月、次世代の2nmプロセス(N2)の量産を正式に開始しました。この技術は「Nanosheet GAA(Gate-All-Around)」構造を採用しており、前世代の3nmプロセスと比較して、同じ電力レベルで10-15%の性能向上、または同じ速度で25-30%の消費電力削減を実現します。
新竹および高雄の製造施設における歩留まりはすでに70%に達しており、初期段階としては非常に優れた水準です。AppleやNVIDIAなどの主要顧客が、2nmプロセスの採用を計画しています。
今後の技術ロードマップ
TSMCのロードマップは2nmで終わりではありません。2nmの強化版であるN2Pに続き、2026年後半には1.6nm(A16)プロセスの量産を計画しています。さらに2028年には「A14」プロセスの生産開始も予定されており、技術革新のペースは衰える気配がありません。
ただし、先端プロセスのコスト上昇は課題となっています。2nmウェハーのコストは25,000〜30,000ドルと推定され、3nmと比較して約50%増加しています。
熊本工場と日本市場
熊本第1工場の稼働
TSMCは2024年2月に熊本県に第1工場を開所し、同年12月に量産を開始しました。ソニーグループ、デンソー、トヨタ自動車が出資する「JASM」を通じて運営されており、主に車載・産業向け半導体を生産しています。
政府は国策としてTSMCの日本進出を支援しており、第1工場と第2工場を合わせて最大1兆2,320億円の補助金を交付する方針です。
第2工場の計画変更
熊本第2工場は建設中ですが、TSMCは当初の6nmプロセスから、AI向けで主流となっている4nmプロセスへの切り替えを検討しています。この計画変更により、2027年の量産開始スケジュールに影響が出る可能性があります。
一方で、より先端的なプロセスを日本で製造する可能性が出てきたことは、日本の半導体産業にとってはプラス材料といえます。
経済波及効果
九州フィナンシャルグループの試算によると、TSMC進出に伴う熊本県への経済波及効果は10年間で6.8兆円に達するとされています。また、九州経済調査協会は九州全体の半導体産業への波及効果を10年間で約20兆円と推計しており、「100年に1度の規模」と評されています。
今後の展望と課題
メモリ供給の逼迫
AI需要の拡大に伴い、高帯域メモリ(HBM)の供給が逼迫しています。SKハイニックスは2026年分のHBMがすでに完売したと発表し、サムスン電子もサーバー向けDRAM価格を大幅に引き上げました。S&Pグローバル・レーティングは、メモリの供給逼迫は2026年まで続くと予測しています。
先端パッケージングの課題
TSMCの先端パッケージング技術「CoWoS」の生産能力も、AI需要に追いついていない状況です。2025年末から2026年末にかけて生産能力を60%以上拡大する計画ですが、局所的な供給制約が発生するリスクは残っています。
地政学的リスク
台湾を拠点とするTSMCにとって、米中対立や台湾海峡の緊張は潜在的なリスク要因です。このリスク分散のため、米国アリゾナ州や日本熊本県への工場建設を進めていますが、生産能力の大部分は依然として台湾に集中しています。
まとめ
TSMCの2025年10-12月期決算は、AI半導体市場の力強い成長を如実に示しています。NVIDIAをはじめとする顧客向けの先端チップ需要は今後も拡大が見込まれ、TSMCの業績成長は当面続くと予想されます。
2nmプロセスの量産開始、設備投資の拡大、日本を含む海外展開の加速など、TSMCは積極的な成長戦略を推進しています。世界の半導体市場が2026年に1兆ドル規模に迫る中、TSMCの動向は引き続き注目に値します。
参考資料:
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