米消費者物価12月2.7%上昇:政府閉鎖後の物価動向
はじめに
米労働省が2026年1月13日に発表した2025年12月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で2.7%上昇しました。市場予想の2.6〜2.7%とほぼ一致し、政府閉鎖前の9月(3.0%上昇)から鈍化しました。
トランプ政権が引き上げた関税の価格転嫁は続いていますが、そのペースは緩やかです。本記事では、米国のインフレ動向と今後の見通しについて解説します。
12月CPI発表の背景
政府閉鎖の影響を受けた統計
今回の発表は、連邦政府閉鎖の影響を大きく受けた経緯があります。政府閉鎖により、10月分のCPIは公表されませんでした。CPI算出に必要な価格調査が実施できなかったためです。
11月分は2.7%上昇として発表されましたが、通常とは異なる調査手法でデータが収集されたため、ゆがみが生じた可能性があると指摘されています。価格調査が再開されたのは11月14日で、通常と異なるデータを主に用いてCPIが算出されました。
9月からの鈍化傾向
12月の2.7%上昇は、政府閉鎖前の9月(3.0%上昇)と比較して鈍化しています。インフレ圧力が徐々に和らいでいることを示唆していますが、FRBの目標である2%にはまだ距離があります。
変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIも、11月は2.6%上昇と2021年初め以来の低い伸びとなっていました。
関税の価格転嫁状況
転嫁ペースは緩やか
トランプ政権が引き上げた関税の影響は、消費者物価に徐々に反映されています。ただし、米国内の企業は関税引き上げのコストをいったん自社で吸収している模様で、需要動向を見極めながら段階的に価格転嫁を進めているとみられます。
このため、関税引き上げの影響が物価に完全に反映されるまでには、まだ時間がかかる可能性があります。
通商合意による緩和効果
一方で、トランプ政権は各国との通商合意を進めています。2025年には英国、ベトナム、インドネシア、フィリピン、日本、EU、韓国、カンボジア、タイ、スイスなどと通商合意が行われました。
これらの合意により、貿易戦争は概ね回避され、関税による物価上昇圧力はある程度緩和されています。ただし、通商合意が経済成長を押し上げる効果は、同時にインフレ圧力を強める要因にもなり得ます。
FRBの金融政策見通し
金利据え置き継続の見込み
FRBは2025年に3回の利下げを実施し、政策金利(FF金利)の誘導目標を3.50%〜3.75%としています。しかし、多くの専門家は2026年いっぱい金利が据え置かれると予想しています。
FRBは2025年だけでなく、2026年〜2027年のインフレ見通しも上方修正しており、関税のインフレへの影響が来年以降も持続する懸念を示しています。パウエル議長も、今後関税によるインフレ圧力が現れ、インフレが加速していく可能性を指摘しています。
インフレと金利のジレンマ
FRBはインフレ抑制と景気下支えの間で難しい判断を迫られています。物価上昇率は2025年が前年比+2.8%、2026年が同+2.7%と予想されており、2026年末に2%台半ば程度まで鈍化すると見込まれています。
ただし、日本総研の分析では、トランプ氏の関税政策による輸入価格上昇や、大規模減税などの需要刺激策を受けたインフレ再燃により、インフレ率は3%前後で高止まりする可能性も指摘されています。
2026年の米国経済見通し
底堅い成長の継続
三井住友DSアセットマネジメントの見通しによると、2026年の米国経済は底堅く推移すると予想されています。物価もやや高めの伸びが続くとみられることから、FRBは様子見姿勢を続ける可能性が高いとされています。
2026年11月には中間選挙が控えており、トランプ大統領は食品関税の撤廃や医療費削減、住宅価格改革などのポピュリズム的な政策を打ち出しています。追加的な関税撤廃も想定され、これらが景気を一定程度支えると見られています。
注意すべきリスク要因
一方で、リスク要因も存在します。実質金利の上昇や価格上昇が経済活動の抑制要因となる可能性があるほか、政府機関の一部閉鎖の影響により、成長率が減速する可能性も指摘されています。
また、トランプ政権の関税政策については、連邦最高裁で2025年末から2026年6月までに最終的な判決が下される見込みであり、法的な不確実性も残っています。
日本への影響
円相場への影響
米国のインフレ動向とFRBの金融政策は、円相場に大きな影響を与えます。米国の金利が高止まりする場合、日米金利差が維持され、円安圧力が続く可能性があります。
円安は日本の輸入物価上昇につながり、国内のインフレ圧力を高める要因となります。
日本企業への影響
トランプ関税は日本企業にも影響を与えています。約7割の日本企業が関税の影響を受けており、販売価格やサプライチェーン、事業戦略の見直しを迫られています。
日米間では2025年7月に通商合意が行われていますが、今後の動向には引き続き注視が必要です。
まとめ
2025年12月の米CPIは前年同月比2.7%上昇と、市場予想通りの結果でした。政府閉鎖前から鈍化傾向にあるものの、FRBの目標である2%には届いていません。
関税の価格転嫁は緩やかに進んでおり、2026年も物価上昇圧力は続く見込みです。FRBの金融政策や米国経済の動向は、日本経済にも大きな影響を与えるため、引き続き注目が必要です。
参考資料:
関連記事
パウエルFRB議長が反撃、刑事捜査に「威嚇」と批判
FRBパウエル議長がトランプ政権による刑事捜査に異例のビデオ声明で反論。中央銀行の独立性を巡る攻防が激化する中、欧州中銀総裁らも連帯声明を発表。金融市場と世界経済への影響を解説します。
トランプ大統領とFRB議長の対立激化、中央銀行の独立性が試される
トランプ大統領がパウエルFRB議長を再び批判し利下げを要求。刑事捜査への発展で金融市場に動揺が広がる中、中央銀行の独立性と今後の金融政策の行方を解説します。
米FRBパウエル議長に刑事捜査、中央銀行の独立性に危機
トランプ政権がFRBパウエル議長への刑事捜査を開始し、中央銀行の独立性が危機に瀕しています。19世紀以来の異常事態がドル、債券、株式市場にもたらすリスクを解説します。
パウエルFRB議長に刑事捜査、中央銀行の独立性が危機に
米司法省がFRBのパウエル議長を刑事捜査の対象としました。トランプ大統領による政治圧力との見方が広がり、中央銀行の独立性をめぐる重大な局面を迎えています。
東京23区の家賃、世帯所得の4割超えで家計圧迫
東京23区のファミリー向けマンション家賃が可処分所得の4割を超え、危険水域に達しています。マンション価格高騰の影響が賃貸市場に波及し、住居費負担が深刻化しています。
最新ニュース
南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦
探査船「ちきゅう」が南鳥島沖でレアアース泥の試掘を開始。水深6000メートルからの世界初の採掘試験と、日本の経済安全保障における意義を解説します。
1年4カ月で国政選挙3回、頻繁な選挙が招く政策停滞
高市首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討。国政選挙が短期間に3回目となり、社会保障改革など長期的視点の政策が後回しになる懸念が高まっています。
第174回芥川賞・直木賞が決定、3氏が受賞の栄誉
第174回芥川賞に鳥山まこと氏「時の家」と畠山丑雄氏「叫び」、直木賞に嶋津輝氏「カフェーの帰り道」が決定。前回の両賞該当なしから一転、充実の受賞作が揃いました。受賞作の魅力と作家の経歴を詳しく解説します。
日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
証券取引APIを提供するフィンテック企業アルパカが企業価値10億ドルを突破。日本人だけで創業した新興企業として米国初のユニコーン達成の背景を解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。