米関税違憲判決の影響は限定的、NVIDIA決算がAI相場左右
はじめに
2026年2月20日、米連邦最高裁判所はトランプ政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて課した相互関税を違憲とする判決を下しました。6対3の判断で、大統領に関税を課す権限はないと明確に示された歴史的な決定です。しかし市場関係者の間では、判決自体は予想の範囲内であり、代替関税措置への移行も織り込み済みとの見方が広がっています。
一方、2月25日に控えるNVIDIAの第4四半期決算(2026年度)は、AI関連株全体のセンチメントを左右する重要イベントとして注目を集めています。本記事では、違憲判決の具体的な影響と代替関税の実態、そしてNVIDIA決算がAI相場に与える影響を詳しく解説します。
最高裁違憲判決の全容と代替関税への移行
IEEPAに基づく関税は「大統領権限の逸脱」
米最高裁は、Learning Resources社対トランプ大統領訴訟において、IEEPAの条文にある「規制」(regulate)や「輸入」(importation)という文言は、大統領に関税を課す権限を与えるものではないと判断しました。判決文では、IEEPAの「規制」を関税権限と解釈すれば、輸出への課税も認めることになり、憲法に違反する点が指摘されています。
この判決により、相互関税(各国ごとに34%から10%まで異なる税率を設定したもの)と、合成麻薬フェンタニル対策として中国・カナダ・メキシコに課していた25%の関税が無効となりました。一方で、通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム関税や自動車関税は、異なる法的根拠によるため影響を受けていません。
通商法122条による暫定関税の発動
トランプ大統領は判決当日、直ちに通商法122条を援用し、全世界を対象とする10%の暫定関税を発表しました。122条は1974年通商法に基づく規定で、国際収支の「大規模かつ深刻な」赤字に対処するため、大統領が最大15%の一時的な輸入付加税を課すことを認めています。
この暫定関税は2026年2月24日午前0時1分(東部標準時)から発効し、150日間の期限付きです。期限は2026年7月24日までで、延長には議会の承認が必要です。さらにトランプ大統領は週末にこの税率を15%に引き上げ、122条が認める上限に達しました。
通商法301条による国別調査の開始
暫定措置と並行して、トランプ政権は通商法301条に基づく国別の通商調査を開始すると発表しました。301条は米国通商代表部(USTR)に対し、不公正な外国貿易慣行への対抗措置を講じる権限を与えるものです。ただし301条の関税は国別に個別の調査手続きが必要で、即座にIEEPA関税の代替とはなりません。
市場への影響が限定的とされる理由
実効関税率はほぼ変わらず
ベッセント財務長官は判決後、「2026年の関税収入見通しは実質的に変わらない」と明言しました。122条の暫定関税と、既存の232条関税(鉄鋼・アルミ・自動車)、さらに301条による調査関税を組み合わせることで、関税収入水準を維持できるとの見方です。
バークレイズも分析レポートで、代替措置への移行後も実効関税率は最終的にほぼ変わらないとの見解を示しています。判決当日のニューヨーク株式市場ではダウ工業株30種平均が前日比約230ドル上昇しましたが、これは違憲判決による不確実性の解消を好感した一時的な動きと見られています。
日本への影響は据え置き
日本からの輸入品に対する関税については、昨年の日米貿易合意で一律15%に設定されていました。122条による代替関税でもこの15%が維持されるため、日本企業への直接的な影響は限定的です。鉄鋼・アルミニウム・自動車といったセクター別関税も232条に基づくもので、今回の判決の対象外です。
日本政府は5500億ドル規模の対米投資・融資パッケージについて、判決後も履行を継続する方針を表明しています。赤沢経済再生相は、日米合意の枠組みが損なわれないよう米側と緊密に連携する姿勢を示しました。
NVIDIA決算がAI相場の試金石に
売上高650億ドル超の市場予想
関税問題と並んで市場の注目を集めているのが、2月25日に発表予定のNVIDIA第4四半期決算です。コンセンサス予想では売上高約657億ドル(前年同期比67%増)、1株当たり利益1.53ドル(同72%増)が見込まれています。NVIDIAの経営陣自身も第4四半期の売上高ガイダンスを約650億ドル(上下2%の幅)と提示していました。
最大の注目点はデータセンター部門で、売上高は約600億ドルに達すると予想されています。第3四半期のデータセンター売上高は512億ドル(前年同期比66%増)でしたが、Blackwellアーキテクチャへの旺盛な需要がさらなる成長を牽引する見通しです。
Blackwell需要と今後のガイダンスが焦点
ジェンスン・ファンCEOは最近、次世代GPU「B200」および「GB200」チップへの需要を「尋常ではない」(off the charts)と表現し、2026年半ばまで事実上の完売状態であることを明かしています。投資家にとって過去の業績以上に重要なのは、来四半期以降のガイダンスです。
一部アナリストは第4四半期売上高が690億ドル、来四半期ガイダンスが740億から750億ドルに達するとの強気予想を示しています。ゴールドマン・サックスも「ビート・アンド・レイズ」(予想上振れと上方修正)を見込んでおり、56名のアナリストが「強い買い」の評価で目標株価の平均は253.88ドルです。
AI投資の持続性への問い
ただし市場のセンチメントは一枚岩ではありません。NVIDIAの予想PER(株価収益率)は約24倍と過去12カ月で最低水準まで低下しており、AI需要が2026年にピークを迎えるとの懸念を織り込んでいるとの指摘があります。
投資家が注視しているのは、現在のGPU需要が資本市場主導の一過性の動きなのか、実際のAIワークロードに裏付けられた持続的なインフラ投資なのかという点です。複数年契約の状況、顧客層の多様化、導入済みインフラの稼働率などが、今後の評価を分ける指標となります。
注意点・展望
関税政策については、122条の150日間という期限が重要なポイントです。7月24日以降の関税体制は議会の判断に委ねられるため、政治的な不透明感が残ります。また、既に徴収済みのIEEPA関税は2025年12月時点で約1200億ドル(約19兆円)に上りますが、最高裁判決は還付について言及しておらず、還付請求訴訟の行方も今後の注目点です。
NVIDIA決算については、仮に市場予想を上回る決算であっても、来四半期ガイダンスが期待に届かなければAI関連株全体が調整する可能性があります。逆に、Blackwell世代の需要見通しが強固であれば、AI投資の持続性に対する市場の信頼が回復し、関連銘柄全体の上昇要因となるでしょう。
通商政策と技術セクターという二つの大きなテーマが同時に動く週となるため、投資家はポートフォリオのリスク管理に細心の注意を払う必要があります。
まとめ
米最高裁による相互関税の違憲判決は歴史的な出来事ですが、トランプ政権が即座に代替関税措置へ移行したことで、実効税率や関税収入への影響は当面限定的と見られています。日本からの輸入品への15%関税も据え置きで、セクター別関税も変更はありません。
一方、NVIDIA決算はAI関連相場の方向性を決定づける重要な転換点です。約650億ドルの売上高と今後のBlackwell需要に関するガイダンスが、AI投資ブームの持続性を占う試金石となります。関税政策の構造転換とAI投資サイクルの行方を見極めるうえで、今週は市場にとって極めて重要な局面です。
参考資料:
- Supreme Court strikes down most of Trump’s tariffs in a major blow to the president
- Five key takeaways from the Supreme Court’s landmark decision against Trump’s tariffs
- Trump announces new 10% global tariff after raging over Supreme Court loss
- Trump raises global tariff to 15% shortly after implementing reworked 10% levy
- Sections 122 and 301: Trump’s alternate tariff tools after Supreme Court ruling
- Scott Bessent, Treasury secretary: Tariff revenue projections ‘unchanged’ after SCOTUS ruling
- The Supreme Court Clipped Trump’s Tariff Powers and Opened New Trade Battlefronts
- Japan to keep investment pledge to U.S. after tariff ruling
- NVIDIA Q4 2026 Earnings Preview
- Feb. 25 Will Be a Huge Day for Nvidia: 3 Important Things to Watch
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