米国観光に「トランプ・スランプ」外国人旅行者が急減
はじめに
世界の国際観光が回復基調にある中、米国だけが逆行しています。2025年1〜11月に米国を訪問した外国人旅客数は前年同期比5.4%減の約6,237万人となり、2020年の新型コロナウイルス禍以降で初めての減少に転じました。世界全体の国際観光客は4%以上増加しており、米国の「一人負け」が鮮明です。
「トランプ・スランプ」と呼ばれるこの現象は、米国の観光業に数百億ドル規模の損失をもたらしています。本記事では、その原因と影響、そして2026年FIFAワールドカップへの懸念を詳しく解説します。
数字が示す「米国離れ」の深刻さ
カナダからの旅行者が約3割減少
最も打撃を受けているのがカナダからの旅行者です。2025年のカナダから米国への旅行者数は約30%減少しました。2026年1月時点でも前年同月比28%減と回復の兆しは見えていません。
カナダ人旅行者は2024年に約2,040万人が米国を訪れ、約205億ドル(約3兆円)を消費し、約14万人のアメリカ人の雇用を支えていました。この急減は、米国の観光業界にとって極めて深刻な事態です。
欧州・アジアからも大幅減
欧州からの旅行者も全体で17%減少しました。特にアイルランド、ドイツ、ノルウェーからは20%以上の減少を記録しています。デンマークからの訪問者は19%減少しましたが、これはトランプ氏がグリーンランド併合を示唆したことが影響しているとされます。
アジアや南米など、従来の高額消費旅行者層からの訪問も二桁の減少率を記録しました。分析対象の184カ国の中で、国際観光客の支出が減少したのは米国だけという異常な状況です。
「トランプ・スランプ」を引き起こした要因
移民政策の強化と入国審査の厳格化
トランプ政権は不法移民の取り締まりを大幅に強化しました。この影響は合法的な観光客にも及んでいます。ビザ申請時に過去5年分のSNSアカウント、電話番号、メールアドレスの開示が新たに義務化されました。さらに、新たなビザ審査料として250ドルが追加されています。
こうした措置は、プライバシーへの懸念から世界的な反発を招いています。「米国は歓迎的でない」というイメージが広がったことが、旅行者減少の大きな要因です。
関税政策と外交摩擦
カナダ、EU、中国などに対する高関税政策は、貿易上の摩擦にとどまらず、各国の対米感情を悪化させています。特にカナダでは、関税をめぐる対立が「米国ボイコット」運動に発展しました。カナダ国民による米国渡航は計画ベースで3分の1減少し、これだけで60億ドルの消費減少と4万人以上の米国内雇用喪失につながるとの試算があります。
為替変動の影響
ドル高の進行も海外旅行者にとって米国をより高コストな渡航先にしています。同じ予算で他国への旅行がより魅力的になるため、欧州や東南アジアなどの代替目的地に旅行者が流れています。
経済的損失の規模
数百億ドルの消費減少
複数の試算によると、2025年の米国の国際観光収入の損失は125億〜500億ドルに達するとされています。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の推計では約125億ドル、より広範な影響を含めた試算では500億ドルに上るとの見方もあります。
労働収入の損失は130億ドルを超え、給与・報酬・個人事業主の所得に直接影響しています。観光業はホテル、飲食、小売、交通など幅広い産業に波及するため、地域経済への影響は数字以上に大きいです。
雇用への打撃
米国旅行協会の推計では、外国人旅行者の減少により約23万人の雇用が失われる可能性があります。観光業は地方経済の重要な柱であるため、大都市だけでなく地方の雇用にも影響が及びます。
2026年FIFAワールドカップへの懸念
史上最大規模の大会を控えて
2026年6月に米国、カナダ、メキシコの3カ国で共催されるFIFAワールドカップは、600万〜700万枚のチケット販売が見込まれ、その約半数が海外からの観客と予想されています。しかし、現在の「トランプ・スランプ」が続けば、国際的な集客に大きな影響が出る恐れがあります。
入国制限が観戦を阻む可能性
特に懸念されているのが、参加国の一部に対する入国制限です。ビザ審査の厳格化や社会メディアの開示義務は、チケットを購入しても実際に入国できるか不安を抱かせる要因です。ボストンやイーストラザフォードなどの開催都市では、国際的な観客数が予想を下回るリスクが指摘されています。
スポーツ経済学者のアンドリュー・ジンバリスト氏は、FIFAが予測する300億ドルの経済効果は実現しないとの見方を示しています。
注意点・展望
2026年の見通し
オックスフォード・エコノミクスの予測では、2026年の米国への国際旅行者数は3.9%の増加が見込まれています。しかし、この増加率では2025年の減少分を完全には取り戻せません。
ワールドカップの開催は一時的な押し上げ要因となる可能性がありますが、構造的な問題が解決されない限り、米国の観光業の回復は限定的でしょう。
観光業界が求める対応
米国旅行協会をはじめとする業界団体は、ビザ手続きの簡素化や入国審査の効率化を求めています。観光業は米国GDPの約3%を占める重要産業であり、政策的な対応が急務とされています。
まとめ
米国の「トランプ・スランプ」は、移民政策の厳格化、関税による外交摩擦、ドル高が複合的に作用した結果です。カナダから約3割減、欧州から17%減と、世界の主要市場からの旅行者が軒並み減少しています。
2026年FIFAワールドカップという好機を控えながらも、入国審査の厳格化や対米感情の悪化が集客の壁となっています。世界各国の観光が回復する中で、米国だけが取り残されるリスクは高まっており、早急な政策対応が求められる局面です。
参考資料:
- Will a ‘Trump slump’ continue to hit US tourism in 2026 - The Conversation
- Foreign tourism to the US drops amid Trump-era policies - Al Jazeera
- Trump is making foreign tourism great again - Fortune
- US Tourism Decline Raises Concerns as 2026 FIFA World Cup Approaches - Travel And Tour World
- U.S. may lose 230,000 jobs if foreign tourists stay away - Fortune
- U.S. Travel 2025: Who Came, Who Stayed Away - Skift
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