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by nicoxz

トランプ氏、ウォーシュ元FRB理事を次期議長に指名

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はじめに

トランプ米大統領は2026年1月30日、連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に元理事のケビン・ウォーシュ氏(55歳)を指名すると発表しました。5月に任期満了を迎えるジェローム・パウエル議長の後任となる第17代議長候補として、上院の承認を経て就任する見込みです。ウォーシュ氏はかつてインフレ抑制を重視する「タカ派」として知られていましたが、近年はAI(人工知能)による生産性向上を背景に利下げを支持する姿勢へと転換しています。FRBの独立性維持と金融政策の方向性が焦点となる中、同氏の経歴と政策観を詳しく見ていきます。

ケビン・ウォーシュ氏の経歴と専門性

ウォール街から最年少FRB理事へ

ケビン・マクスウェル・ウォーシュ氏は1970年4月13日、ニューヨーク州アルバニーで生まれました。スタンフォード大学で経済学と統計学を中心とした公共政策を学び、1992年に優等で学士号を取得。その後ハーバード大学ロースクールで法律・経済・規制政策の交差領域を専攻し、1995年に法務博士号を取得しています。

卒業後はモルガン・スタンレーのM&A部門に入社し、製造業、素材、専門サービス、テクノロジーなど幅広い業界の企業に対して財務アドバイザーを務めました。2002年には執行役員まで昇進しましたが、同年にジョージ・W・ブッシュ政権に加わり、ホワイトハウス国家経済会議(NEC)の事務局長兼大統領経済政策特別補佐官として2006年まで勤務しました。

2006年2月、ウォーシュ氏は35歳という史上最年少でFRB理事に任命され、2011年3月まで在任しました。この期間には2008年の世界金融危機が発生し、ウォーシュ氏はベン・バーナンキ議長(当時)の右腕として危機対応にあたりました。ウォール街との主要な連絡役を務め、G20におけるFRB代表やアジアの新興国・先進国への特使としても活動。著述家デビッド・ウェッセルによれば、「ウォーシュ氏は共和党内における議長の擁護者、そしてバーナンキ議長とウォール街CEOとの橋渡し役としての地位を確立した」とされています。

学界とビジネス界での活動

FRB理事退任後、ウォーシュ氏はスタンフォード大学フーバー研究所のシェパード家族特別客員研究員、スタンフォード大学経営大学院の研究者兼講師を務めています。また、著名投資家スタンレー・ドラッケンミラー氏と協働し、G30(30人グループ)のメンバー、米議会予算局の経済顧問パネルメンバーなど、多方面で専門知識を発揮してきました。トランプ政権第1期では、パウエル氏がFRB議長に選ばれる前からウォーシュ氏は有力候補に挙げられており、今回ようにして念願のポストに就く機会を得たことになります。

金融政策の転換:タカ派からAI生産性論へ

かつての「タカ派」としての評価

2006年から2011年のFRB理事時代、ウォーシュ氏はインフレ抑制を最優先する「タカ派」として知られていました。コロンビア大学ビジネススクールのブレット・ハウス教授によれば、「過去の発言と行動に基づくと、ウォーシュ氏はFRB議長候補4人の中で圧倒的に最もタカ派的だった」とされています。特に2008年の世界金融危機対応においても、バランスシート政策に関しては同僚よりもタカ派的な見解を示す場面が見られました。

ドイツ銀行のアナリストは「彼を構造的にハト派とは見なしていない」と指摘し、金融緩和に対して本質的に慎重なスタンスを持つ人物との評価が一般的でした。こうした実績から、市場関係者の間では「一般的なタカ派感」が広がっており、利下げには消極的との見方が支配的でした。

AI生産性論に基づく利下げ支持への転換

しかし近年、ウォーシュ氏の金融政策観は大きく変化しています。最も注目すべき点は、AI(人工知能)による生産性向上がインフレを抑制するとの論拠に基づき、低金利を支持する姿勢へと転換したことです。ウォーシュ氏は「金融政策と規制政策の抜本改革は、AIの恩恵を全ての米国人にもたらす。経済はより強くなり、生活水準は向上し、インフレはさらに低下する」と主張しています。

オックスフォード・エコノミクスのアナリストは「伝統的にインフレ抑制に対してタカ派だったウォーシュ氏は、AI由来の生産性向上が強い成長と望ましくないインフレの両立を可能にするという論拠に基づき、より多くの利下げを主張するだろう」と分析しています。さらに「タカ派の評判と独立性を持つ彼は、一部のライバルよりも連邦公開市場委員会(FOMC)を説得し、今年少なくとも2回、場合によっては3回の利下げを実施するのに有利な立場にある」との見方を示しています。

エバコアISIのクリシュナ・グハ氏は「ウォーシュ氏を独立した保守的中央銀行家の伝統におけるイデオロギー的タカ派ではなく、実務家と見なしている」と評価。選考過程でウォーシュ氏は主要政策金利を引き下げる必要性をトランプ氏に主張したとされ、就任後は実際に利下げを推進する可能性が高いと見られています。

トランプ大統領の期待と市場の反応

トランプ大統領は自身のSNSプラットフォーム「Truth Social」で「私はケビンを長年知っており、彼が史上最高のFRB議長の一人、おそらく最高になることに疑いはない」と投稿しました。大統領は継続的な利下げを強く求めており、ウォーシュ氏の近年のハト派的転換を歓迎しているとみられます。

市場の反応は比較的穏やかでした。ウォーシュ氏の過去のFRB経験と、ウォール街が「常にトランプ大統領の意向に従うわけではない」と見ている点から、大きな動揺は見られませんでした。しかし、トランプ大統領の強い利下げ要求とFRBの独立性維持のバランスが今後の焦点となります。

注意点・展望

ウォーシュ氏の議長就任には上院の承認が必要です。共和党のジョン・チューン上院院内総務はNBCニュースに対し、一部共和党議員の支持がなければウォーシュ氏の承認は「おそらく難しい」と認めています。また、パウエル議長が今月発表した刑事捜査問題が共和党・民主党両党の上院議員を激怒させており、承認プロセスに影響を与える可能性があります。

金融政策面では、FOMCにおいて高止まりするインフレへの対応を優先すべきだとして利下げに慎重な参加者も目立っており、ウォーシュ氏が委員会を説得して利下げを実現できるかが課題となります。フォーチュン誌は「FRB議長候補ウォーシュ氏はトランプ氏の利下げ期待を打ち砕き、パウエル氏が受けたのと同レベルの批判を受けるリスクがある」と警告しています。

一方で、ウォーシュ氏はFRBのバランスシート縮小を表明しており、資産規模の正常化を進める意向を示しています。AI生産性論が実際にインフレ抑制に寄与するかどうかは今後の検証課題であり、理論と現実のギャップが政策運営の難しさを増す可能性があります。

まとめ

ケビン・ウォーシュ氏の次期FRB議長指名は、かつてのタカ派からAI生産性論に基づくハト派への転換という興味深い軌跡を持つ人物が米国金融政策の舵取りを担う可能性を示しています。金融危機対応の経験と専門性を持つ一方で、トランプ大統領の強い利下げ圧力とFRBの独立性維持という困難な課題に直面することになります。上院承認プロセスの行方、FOMC内での合意形成、そして実際の金融政策運営が今後の焦点です。ウォーシュ氏が「史上最高のFRB議長」となれるかどうかは、これらの課題をいかに乗り越えるかにかかっています。

参考資料

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